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感想 木挽町のあだ討ち 永井紗耶子 直木賞の候補とかになるかもレベルの完成度の高さ。面白かった。



時代物小説は死んだ作家さん、もしくは引退寸前のベテランしか魅力がないと最近感じていた。
最近の作家さんでは冲方 丁 髙田郁 さんくらいしかマークしている作家さんはいなかったりする。
そんな時、友人が永井紗耶子さんを読まなきゃと、この本の作者をすすめてくれたのです。

今回、初の永井さんでした。
文章のテンポもよく、魅力的。人物の描き方が絶妙。
好みの作風でした。

この作品、次回の直木賞候補になっても不思議ではないと思うほど
僕の中では大絶賛です。

ここまで褒めまくることはめったにないですよ。


ある仇討ち事件が芝居小屋の近くで発生した。
二年後。芝居小屋には仇討ちの詳細を訊ねて回る、一人の侍の姿が。
殺陣師、衣装係、小道具職人、筋書作家、木戸芸者――。
仇討ちを目撃した人々が語る「木挽町のあだ討ち」の顛末、そして真相とは……
というミステリーなのですが、それよりも、この探偵ならぬ話しを聞きに来た侍が目撃者たちの過去を聞く、その生々しい生きざまにこそ、この物語の魅力が凝縮されていると思う。

物語の構造としては、殺陣師、衣装係、小道具職人、筋書作家、木戸芸者のそれぞれの目撃証言と彼らの過去が小箱みたいになっていて、この物語全体が大箱で小箱を内包している形になっています。

かたき討ちの真相を明らかにしていく話しですが
実は、小箱の一つ一つ、芝居小屋の人たちの生きざまこそが、本書の魅力と言えます。

例えば、木戸芸者。簡単に言うと芝居の宣伝をする人。
元々は、幇間。遊郭で旦那さんの機嫌取りをする役目の人。母親が遊女。だから、本質的に客を憎んでいる。そして、かたき討ちをしようとしている若侍。彼もかたき討ちをしたくないと思っていた。この二人のシンパシーはわかる気がします。

殺陣師は元武士。仕官の時に不正事件があり職を奪われてしまう。

衣装係の女形役者は、飢餓難民、母親が死に焼き場で爺さんに助けられて、そこで働くも爺さんが死に働きに出るも穢れた仕事をしていたと差別され店を出て、そこで恩人の役者に見いだされて芝居小屋という数奇な運命。この人から見た世界も魅力的。

小道具職人の息子を亡くすエピソードからの、子供の首の小道具を作るところまでの流れはグサッとくる。大切な人のため、自分の子を代わりに殺すという芝居の小道具の生首を子を亡くした職人が作る話し。

筋書作家は夢に生きる男。せっかくの婿養子の話しを蹴りワクワクを選ぶ人生。そんな彼のところに元許嫁だった娘の息子。つまりかたき討ちをしようとしている若者がやってくるという。

この小箱になっている5つの人生。証言がとても魅力的でした。
一気読みでした。

2023 2 26



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