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書評 ぼぎわんが、来る  澤村伊智  タイトルがいい。「ぼぎわん」という得体のしれぬ化け物がやってくる話し。

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 前に他の作品を読んだ時も感じたのですが、タイトルがおもしろい。
 「ししりば」「ずうのめ」「ぼきわん」という造語をタイトルに使っているので期待値が高まりますね。
 2015年日本ホラー小説大賞受賞作。それもダントツだったらしい。デビュー作で、ここまでの完成度はすごいと言うしかないです。
 本書は、映画化もされています。
 三部構成で主人公が違います。いきなり主人公が殺されるので、最初はとまどうのですが、1章で事件が起こり、二章で謎が深まり、三章で解決ということになります。
 「ぼぎわん」という得体のしれぬ化け物がやってくる。人を山に攫って行くという話しですが、話しが展開していくうちに、「呼ばれた」というのがわかります。
 祖母が呼んだ「ぼぎわん」が孫を殺し、ひ孫を連れ去るのです。その背景には、祖父の家庭内暴力があった。祖母はずっと我慢して生きて来た。

「我慢 する とな、 心 の 中 に、 悪い もん が 溜まる ん や。 ずっと 後 に なっ て、 しっぺ返し が くる ん や。 じっと 我慢 し て た からて、 正しい のと ちゃう。 わたし は 耐え た、 せ やから 許さ れる、 そんな 簡単 な 話 ちゃう ん や。 世の中 は ─ ─ この世 は」

 それは、孫の代に違う形になって降りかかってくる。「子育て」です。
 祖父母の時代は、子育ては女の役割でしたが、今の時代は男女参画社会ですから、夫も育休とれますし、両親で子供を育てるのですが、それはお母さんの立場からすると鬱陶しいだけ。
 男性視線の育児は好きな時だけ参加する自分勝手なもので、育メンなんて言ってSNSで仲間と繋がって遊んでいるだけで邪魔をしているだけ、夫なんかいらないと思う気持ちが「ぼぎわん」を招きます。

殺される秀樹という夫のことを妻はこう言っています。

わたしと知紗は彼の囚人 ─ ─ いや、奴隷 なのだ。

夫の台詞が、それを裏付けています。

  秀樹がまた吠え た。 「たかが 一人産ん だくらいで偉 そうにする な!」


 つまり、世代世代の家族問題が背景に描かれているのです。
 さらに、「ぼぎわん」の由来・・・、飢餓の時、人減らしの為に、子供や老人を「ぼぎわん」に差し出していたらしいという過去も・・・。過去の社会問題も描いています。

「 人 を さらう 妖怪 に、 人 が 余っ て いる 村。 少なくとも 不作 の 年 には、 お互い の 関係 は 良好 だっ た と 思い ます。 利害 の 一致、 共犯 関係、 あるいは ─ ─」 「共存、 でしょ う か」


霊媒師の比嘉妹の台詞が興味深い

「お化けとかレイとかは、 だいたいがスキマ に入ってくるんです」 と 言っ た。「スキマ?」 「家族とかの、心のスキマです。 ミゾって言っ た方がいいかも」


 そんな彼らを助けようとしているオカルト作家の野崎は、秀樹のような男が大嫌いです

  子供、 子供、 子供、 子供。   結婚 し 子供 を 生み 育て て いる 旧友 たち の、 それ が 当たり前 だ 正常 だ と 言わ ん ばかりの 物言い が、 我慢 なら なかっ た の だ。   その ノリ を 俺 に 押し付け て くる のが 耐えがたかっ た の だ。

 彼は子供が嫌いなのに、比嘉妹を助けて、この秀樹夫婦と子供を助けようとする。


 圧巻は、3章での比嘉姉、野崎と「ぼぎわん」の直接対決。
 描写が細かく面白い。ここだけ、急にエンタメ的になりますが、ホラー小説には、こういうシーンもやはり欲しいものです。

 エンタメホラーとして、かなり完成度が高い作品で楽しめると思えます。

2020 1/28

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