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ネコでも分かる情報幾何学入門 part2  ~微分幾何速習~


この記事について

本記事は以下の続きです。このシリーズ全体についての説明もpart1を参照してください。

part2では情報幾何に必要な微分幾何について、必要最低限の準備します。詳しいことは別の何かを参照してください。特に、多様体論の初歩(多様体・接空間)に関しては定義のための定義がどんどん必要になっていくので直観的な説明に留めています。
発表スライドでは時間の都合で割愛せざるをえなかったテンソル場については大幅に解説を追加しました。ただし、雰囲気を掴む上で必須だとは思わないので、読みたい人だけが読む章として分離してあります。

微分幾何なんて当然知ってるよーという強い人はpart 3 に進んでください。

微分幾何の準備

微分幾何について、ここでは必要最低限の準備をします。詳しいことは別の何かを参照してください。特に、多様体論の初歩(多様体・接空間)に関しては定義のための定義がどんどん必要になっていくので直観的な説明に留めています。
なお、notationに関しては基本的に藤岡『入門情報幾何』に合わせてあります。

さて、情報幾何をやるにあたって必要になる概念は大きく分けて次の4つです。

  • 多様体 $${M}$$ :$${n}$$次元の曲面。

  • 接空間 $${T_p M}$$:多様体に接しているベクトル空間のこと。

  • リーマン計量 $${g}$$:$${M}$$の距離を決めるもの.

  • 接続(アファイン接続)$${\nabla}$$:$${M}$$の形状を決めるもの。

一つ一つ、ざっくりと見ていきましょう。以下、現れる概念は全て(適切な意味で)$${C^\infty}$$級を仮定します。(常に微分可能なものしか考えませんということ)

多様体・接空間

定義
局所的に$${\mathbb{R}^n}$$の開集合でパラメトライズ(局所座標表示)された空間(ハウスドルフ空間)を$${n}$$次元多様体(Manifold)という。

局所座標系(右)はMという世界の地図のようなもの

座標系というのは地図のようなものです。「局所的に」と言っているのは、地球全体(2次元多様体)の世界地図を一枚でうまく書くのは無理なので、東京の周辺に興味があるなら関東地方の地図を、ロサンゼルスの周辺に興味があるならカリフォルニア州の地図を見よう、ということです。(上図)
一般にパラメトライズは一意でなく、 座標系の取り換えができます。

多様体という空間上で定義された何らかの関数などを具体的に計算するときは局所座標系をとって計算するわけですが、その際に計算結果は局所座標系の取り方に依存しないようにデザインされなければなりません。part 1でやった話との繋がりが見えてきたのではないでしょうか。

定義
$${M}$$を$${n}$$次元多様体とし、点$${p\in M}$$を固定する。局所座標系によって$${p}$$の近傍が$${x=(x^1,\cdots , x^n)}$$によってパラメトライズされているとする。
このとき、$${M}$$の$${p}$$における接空間(Tangent space)$${T_p M}$$とは、$${n}$$次元ベクトル空間
$${T_p M=\lbrace{\sum_{i=1}^{n} a_i (\frac{\partial}{\partial x^i}} )_p\mid a_1,...,a_n \in \mathbb{R}^n \rbrace}$$
のことをいう。ただし、$${(\frac{\partial}{\partial x^i} )_p }$$とは、「$${x^i}$$方向に偏微分して$${p}$$を代入する」という関数$${M\to \mathbb{R}}$$への偏微分作用素。
$${T_p M}$$の元を$${p}$$の接ベクトルという。

初見だと面食らうかもしれませんし、座標に依存してないのかとか言いたいことはあるかもしれませんが、これ以上踏み込みません。各点$${p}$$にベクトル空間$${T_p M}$$が不随する、ということだけ抑えればよいです。要するに、$${y=f(x)}$$のグラフって微分使って書けたよな、の高次元版です。

定義
各$${p\in M}$$ に$${X_p \in T_p M}$$を対応させる写像$${X: p \mapsto X_p}$$をベクトル場という。
ベクトル場全体を$${\mathfrak{X}(M)}$$と書く。

さて、ここから定義のための定義がいらなくなってまともにやれるようになりました。ベクトル場は分かりやすいですね。空間の各点から接ベクトルが生えている様子を思い浮かべればよいです。

ベクトル場ってこんなん

リーマン計量

$${M}$$に距離構造を入れることを考えます。1章で見たように、パラメトライズできたからといって、距離構造が決まるわけではないです。別に新たな構造を付加しなくてはなりません。
これは、世界の地図が必ずしも距離の縮尺が一定ではないこと(メルカトル図法)と対応します。

  • $${M}$$を近似する$${T_p M}$$ にノルムが入ると微小距離だと思えそう

  • ベクトル空間は内積からノルムの二乗が定まる

⇒すべての接空間に内積を入れる!

定義
多様体$${M}$$上のリーマン計量(または単に計量)$${g}$$とは、$${M}$$の点$${p\in M}$$ に$${T_p M}$$上の内積$${g_p}$$を対応させる写像
$${g : p \mapsto g_p }$$
のことをいう。
多様体$${M}$$と計量$${g}$$の組$${(M,g)}$$をリーマン多様体という。

ここで、線形代数の復習をしておくと、ベクトル空間$${T_p M}$$における内積$${g_p}$$とは、$${T_p M}$$上の2変数の実数値関数であって、任意の$${u,v,w\in T_p M }$$に対して以下をみたすものでした。

  1. $${g_p (u,v)\geq 0 }$$ (半正定値性)

  2. $${g_p (u,v)= 0 \Rightarrow \ u=v}$$ (非退化性)

  3. $${g_p (u,v) = g_p (v,u) }$$ (対称性)

  4. 任意の$${a,b\in\mathbb{R}}$$に対し, 
    $${g_p (au+bv,w) = a g_p (u,w)+ bg_p (v,w)}$$ 
    $${g_p (u, av+bw) = a g_p (u,v)+ bg_p (u,w)}$$
    (双線形性)

さて、$${X,Y\in\mathfrak{X}(M)}$$をとります。定義から任意の点$${p\in M}$$に対して$${X_p,Y_p}$$は接ベクトルなので$${g_p}$$の引数として代入でき、$${g_p(X_p,Y_p)\in\mathbb{R}}$$という実数値が定まります。ここで$${p}$$を動かせば、

$$
g(X,Y) : M\to \mathbb{R}; p\mapsto g_p(X_p,Y_p)
$$

という$${M}$$から実数への関数を定めます。さらに$${X,Y}$$も動かすことで、$${g}$$とは次のように見れます。

命題
$${M}$$上の滑らかな関数全体を$${C^\infty (M)}$$とすると、リーマン計量$${g}$$は、写像
$${g: \mathfrak{X}(M)\times \mathfrak{X}(M)\to C^\infty (M)}$$
と同一視できる。

本当はどちらかと言えばこちらを定義としたいところですが。ともあれ、以下$${g}$$の引数にはベクトル場を2つぶち込み、$${g(X,Y)}$$のように書いていきます。

ところで元々の話は$${M}$$に距離構造を入れたいということでしたが、実際、リーマン計量からリーマン距離という$${M}$$上の距離が定義できます。
さらに、次の命題から$${M}$$にリーマン計量を与えることは、距離を与えることそのものであることが分かります。

命題
二つの多様体$${M,N}$$について、次は同値。
・$${M}$$上のリーマン計量$${g_M}$$、$${N}$$上のリーマン計量$${g_N}$$が存在し、$${(M,g_M),(N,g_N)}$$はリーマン多様体として同型。
・$${M}$$上の距離関数$${d_M}$$と$${N}$$上の距離関数$${d_N}$$が存在し、$${(M,d_M),(N,d_N)}$$は距離空間として同型。

アファイン接続(直観)

距離が定まっても多様体の「形状」は定義されていないです。これは世界地図と距離、そして地球が球状であることだけ分かっても地球の曲がり方がどれぐらい真円に近いのかは分からないことに対応します。

そもそも形状って何でしょうか。次のように考えられます。

1. ベクトル場の微分が定まると微分が常に$${0}$$ということをもって平行ベクトル場 (定ベクトル場)が定まる。
2. 平行ベクトル場が定まると接ベクトルの平行移動が定まる
3. ベクトルの平行移動の様子が分かれば、接ベクトルを平行移動させる(多様体の表面をなぞる)ことで表面の形状がわかる

あるいは(同じことですが)次のように考えてもよいです。

高校数学でやったように、関数の2階微分を見ると極大・極小値やグラフの変曲点など、曲がり方の情報が分かった。
そのアナロジーで高階の微分について見れば空間の形状についての情報が得られるのではないか。

ということで、多様体上での高階微分を考えます。その為に、ベクトル場のベクトル場による微分が必要になります。そこで登場する概念がアファイン接続です。

定義モドキ
アファイン接続
(または単に接続)$${\nabla}$$とは、
$${\nabla: \mathfrak{X}(M) \times \mathfrak{X}(M) \rightarrow \mathfrak{X}(M) ; (X,Y) \mapsto \nabla_X Y }$$
であって、適切な線形性とライプニッツ則をみたすものをいう。
$${\nabla_X Y}$$を$${X}$$による$${Y}$$の共変微分という。

「適切な線形性とライプニッツ則」の厳密なことについては次章を参照してください。


さて、接続があると色々な量を定義できます。以下はかなり大事な量なのですが、ここでは言葉の雰囲気だけ伝えて終わります。詳しいことが気になる方は次の章を参照してください。

  • レビ-チビタ接続 $${\nabla^g}$$:リーマン計量(=多様体上の距離)から自然に決まる特別な接続

  • 捩率 $${T(X,Y)}$$:二つのベクトル場の非可換性を測る量

  • 曲率 $${R(X,Y)Z}$$:空間の曲がり具合を表す量。ちょうど2階微分についての情報をもつ

  • 測地線:接続$${\nabla}$$が定める形状の意味で, まっすぐな曲線

計量は2つのベクトル場を入力して$${M}$$上の関数$${g(X,Y)}$$を返すものであったことを思い出してください。同様に、捩率や曲率それぞれ、2つないし4つのベクトル場を入力として、$${M}$$上の関数$${T(X,Y)}$$、$${R(X,Y,Z,W)}$$を返すものです。
さらに次のように定義します。

・任意のベクトル場$${X,Y\in\mathfrak{X}(M)}$$に対し$${ T(X,Y)=0 }$$となるとき、接続$${\nabla}$$は捩率0という。
・任意のベクトル場$${X,Y,Z,W\in\mathfrak{X}(M)}$$に対し$${ R(X,Y,Z,W)=0 }$$となるとき、接続$${\nabla}$$は曲率0という。
・$${(M,g,\nabla)}$$が捩率0かつ曲率0のとき、平坦であるという。

$${\nabla^g}$$が定める測地線はある点と点を結ぶ最短な線分ですが、一般に$${\nabla}$$が定める測地線はまっすぐであるからといって最短線にならないことに注意してください。

まとめ

  •  多様体 $${M}$$ :局所的に$${\mathbb{R}^n}$$とみなせる空間。

  • 接空間 $${T_p M}$$:多様体$${M}$$を$${p\in M}$$まわりで線形近似したベクトル空間。

  • リーマン計量 $${g}$$:各ベクトル空間$${T_p M}$$に内積$${g_p}$$を与える写像で、$${M}$$上の距離を定める。

  • 接続(アファイン接続) $${\nabla}$$:$${M}$$上の(二階以上の)微分規則で、 $${M}$$の形状を$${M}$$の形状(捩率・曲率・測地線)を定める。

テンソル場

さて、この章は細かいことが気になる人向けです。一応ちゃんと書きましたが、ここを頑張って読み込んで勉強するというよりは、本を読む補助として使うことをお勧めします。
以下、$${C^\infty (M)}$$を$${M}$$上の$${C^\infty }$$級関数全体とします。

ベクトル場とテンソル場

この節ではベクトル場と$${(0,n)}$$型と$${(1,n)}$$型のテンソル場について扱います。接空間・微分形式をめんどくさいので登場させない為、一般の$${(m,n)}$$型のテンソル場は扱いません。
基本的にやることはだいたい線形代数です。

定義
$${X,Y\in\mathfrak{X}(M), f\in C^\infty (M)}$$
ベクトル場の加法とスカラー倍をそれぞれ
$${(X+Y)_p:=X_p + Y_p }$$
$${ (fX)_p :=f(p)X_p}$$
で定義する。

$${p}$$を止めてしまえばベクトル空間なので加法もスカラー倍もできるよね、ということです。簡単なチェックを行えば、特に$${ \mathfrak{X}(M)}$$が$${ C^\infty (M)}$$-加群($${ C^\infty (M)}$$を係数とするベクトル空間みたいなもの)であることがわかります。

また、$${p}$$を止めたベクトル空間の元は微分作用素でしたから、次が定義できます。

定義
ベクトル場$${X\in\mathfrak{X}(M)}$$による関数$${f\in C^\infty (M)}$$の微分を
$${Xf (p) := X_p(f) }$$
で定義する。

以下、$${n}$$次元$${M}$$上のある座標近傍$${ \lbrace{U; x^1,…,x^n}\rbrace }$$を固定します。また、$${ \mathfrak{X}(U)}$$と$${ C^\infty (U)}$$をそれぞれ$${U}$$上のベクトル場全体、$${U}$$上の$${C^\infty }$$級関数全体とします。
すると、その上では次の$${U}$$上のベクトル場が定義できます。

$$
\partial_i: p\mapsto ({\partial\over\partial x^i})_p
$$

]このとき、次のことが分かります。

命題
$${\partial_1,…,\partial_n}$$は$${ C^\infty (U)}$$-加群$${ \mathfrak{X}(U)}$$の基底をなす。
すなわち、任意のベクトル場$${X\in\mathfrak{X}(U)}$$は、$${ X^1,…,X^n inC^\infty (U)}$$を用いて
$${X=\displaystyle\sum_i X^i \partial_i}$$
と$${\partial_1,…,\partial_n}$$について一意に表示できる。

このように、ベクトル場の基底による展開は成分は上付き、基底は下付きの添え字で書くのが習わしです。このベクトル場の基底による表示は、後に具体的な計算をする上で重要になります。
いちいち$${\Sigma}$$を書くのがめんどうなので上付き添え字と下付き添え字が同時に出てきたら省略しよう、略記のルールがあります。これをアインシュタインの縮約記法と言って、アインシュタイン大先生の数学における最大の功績()として知られています。
慣れたら確実に使うべきですが、この記事では頑張って$${\Sigma}$$を省略しません。

定義
$${M}$$上の$${(0,n)}$$型テンソル場$${A}$$とは、
$${A:  \mathfrak{X}(M)^n\to C^\infty(M) }$$
であって、$${n}$$個の各成分について線形(多重線形)であるものをいう。
・$${M}$$上の$${(1,n)}$$型テンソル場$${A}$$とは、$${A:  \mathfrak{X}(M)^n\to \mathfrak{X}(M) }$$であって、$${n}$$個の各成分について線形(多重線形)であるものをいう。

例:リーマン計量
前述のように、リーマン計量によってベクトル場$${X,Y}$$に対し関数$${g(X,Y)}$$が定まるのだった。内積の双線形性から、任意の$${X,Y,Z\in\mathfrak{X}(M),  f,h\in C^\infty(M)}$$に対し
・$${g (fX+hY,Z) = f g(X,Z)+ h g (Y,Z)}$$ 
・$${g (X, fY+hZ) = f g (X,Y)+ h g (X,Z)}$$
が容易にわかる。
したがって、リーマン計量は$${(0,2)}$$型テンソル場である。

また、$${U}$$上に制限し、ベクトル場を$${X=\sum X^i \partial_i, Y=\sum Y^j\partial_j}$$ とすると、
$${g (X,Y) =\displaystyle\sum_{i,j}\sum X^i Y^j  g(\partial_i,\partial_j )}$$
となる。したがって、局所座標表示すれば
$${g_{ij}:=g(\partial_i,\partial_j )}$$
と成分で値が定まる。

例の最後のように、局所座標表示を用いてテンソル場を具体的に計算する際、基底を入れたもの($${g_{ij}}$$)さえ分かればあとは成分との線形結合で任意のベクトル場を代入した値が分かります。
逆に、$${g_{ij}, (i,j=1,…,n)}$$を定めてやれば計量が完全に定まります。実際、いずれやるFisher計量はそのように定めます。
したがって、局所座標表示の下ではテンソル場は$${g_{ij}}$$というやつが「本体」です。

アファイン接続

さて、以上の準備の下で改めてアファイン接続を定義します。

定義
多様体$${M}$$におけるアファイン接続(または単に接続)$${\nabla}$$とは、
$${\nabla: \mathfrak{X}(M) \times \mathfrak{X}(M) \rightarrow \mathfrak{X}(M) ; (X,Y) \mapsto \nabla_X Y }$$
であって、任意の$${X,Y,Z\in\mathfrak{X}(M), f,g\in C^\infty (M)}$$ に対して以下のすべてをみたすものをいう。
・$${\nabla_{fX+gY} Z=f\nabla_{X} Z+g\nabla_{Y} Z}$$ (第一変数に関して線形)
・$${\nabla_X (Y+Z)=\nabla_X Y+\nabla_X Z}$$(第二変数に関して加法的)
・$${\nabla_X fY=f\nabla_X Y+(Xf)Y}$$.(第二変数に関してライプニッツ則をみたす)

$${\nabla_X Y}$$を$${X}$$による$${Y}$$の共変微分という。

注意
・接続はこの要件を満たしさえすればいいので、かなりの自由度がある。実際、接続全体は無限次元アフィン空間になる。
・ひとたび接続$${\nabla}$$を決めてしまえば、テンソル場の共変微分も定義できる。

さて、$${U}$$上に制限し、局所座標表示を計算してみましょう。
再びベクトル場を$${X=\sum X^i \partial_i, Y=\sum Y^j\partial_j}$$ とすると、

$$
\begin{align*}
&\nabla_X Y\\
=&\nabla_{\sum_i X^i \partial_i} (\sum_j Y^j\partial_j)\\
=&\sum_{i,j}X^i\nabla_{\partial_i} (Y^j\partial_j)\\
=&\sum_{i,j}X^i\nabla_{\partial_i} (Y^j\partial_j)\\
=&\sum_{i,j}X^i (Y^j \nabla_{\partial_i}\partial_j+ {\partial Y^j\over \partial x^i}\partial_j)
\end{align*}
$$

と計算できます。$${\nabla_{\partial_i}\partial_j}$$は謎のベクトル場ですが、ベクトル場である以上、$${U}$$上では基底によって一意に展開できます。そこで次のように定義します。

定義
$${i,j=1,…,n}$$に対し、$${\nabla_{\partial_i}\partial_j}$$は
$${\nabla_{\partial_i}\partial_j = \displaystyle\sum_k \Gamma^k_{ij} \partial_k }$$
と一意に展開できる。この成分である関数$${\Gamma^k_{ij}}$$をクリストッフェル記号という。
また、
$${\Gamma_{ijk}:=g(\nabla_{\partial_i}\partial_j,  \partial_k)}$$
と定義し、これもクリストッフェル記号という。

さて、接続の定義の線形性やライプニッツルールと先ほどの$${\nabla_X Y}$$の計算と合わせると、$${\Gamma^k_{ij}}$$さえ決めてしまえば局所座標表示の下では、$${\nabla}$$に関する計算は自在に行えます。
したがって、局所座標表示の下では接続は$${\Gamma^k_{ij}}$$というやつが「本体」です。$${\nabla}$$を定めることとは、本質的に$${M}$$上の関数$${\Gamma^k_{ij}}$$を決めることと等価です。

また、定義から直接計算で以下が従います。

命題
2つのクリストッフェル記号は、計量を用いて
$${\Gamma_{ijk}=\displaystyle\sum_l \Gamma^l_{ij} g_{lm}}$$
と変換できる。

これによって、計量が与えられていれば$${\Gamma^k_{ij}}$$を定めるのも$${\Gamma_{ijk}}$$を定めるのも同じことです。
part4で定義する$${\alpha}$$-接続は$${\Gamma_{ijk}}$$を定めることで定義します。

接続には自由度があるということでしたが、リーマン幾何学ではリーマン計量と整合的である唯一の接続であるレビ-チビタ接続を用います。

定義
リーマン多様体$${(M,g)}$$上のレビ-チビタ接続$${\nabla^g}$$とは、接続であって、任意の$${X,Y,Z\in\mathfrak{X}(M)}$$に対し、
$${X g(Y,Z)=g(\nabla_XY,Z)+g(Y,\nabla_XZ) }$$
をみたすものをいう。

レビ-チビタ接続は接続の中でも最も基本的なものです。頑張って計算すると、クリストッフェル記号は以下のようになっています。

$$
\begin{align*}
\Gamma_{ij}^k=\sum_l{1\over2}g^{kl}({\partial g_{jl}\over \partial x^i}+{\partial g_{il}\over \partial x^j}-{\partial g_{ij}\over \partial x^l})
\end{align*}
$$

と書けます。ここで、$${(g^{kl})_{n\times n}}$$は行列$${(g_{kl})_{n\times n}}$$の逆行列です。

捩率・曲率

ここまで読んだ方、お疲れ様です。最後に捩率と曲率という重要なテンソル場を定義して終わります。

定義
ベクトル場$${X,Y\in\mathfrak{X}(M)}$$に対し、その括弧積$${[X,Y]\in\mathfrak{X}(M)}$$を次で定義する。
$${[X,Y]=XY-YX}$$.
ただし、$${XY}$$は任意の$${f\in C^\infty(M)}$$に対し$${(XY)f:=X(Yf)}$$で定まるベクトル場。

括弧積は、多様体$${M}$$において$${X,Y}$$という2つの微分作用素が可換でない度合を表しています。
一方、$${\nabla_{X}Y -\nabla_{Y}X}$$も二つのベクトル場の非可換性を測っていると考えられます。そこで、非可換性を測る二つの指標の差をとって次のように定義します。

定義
多様体$${M}$$と接続$${\nabla}$$に対し、次の$${(1,2)}$$型テンソル場を捩率テンソル場(または単に)捩率という。
$${ T(X,Y)=\nabla_{X}Y -\nabla_{Y}X - [X,Y] \ (X,Y\in\mathfrak{X}(M)) }$$.

任意のベクトル場$${X,Y\in\mathfrak{X}(M)}$$に対し
$${ T(X,Y)=0 }$$
となるとき、接続$${\nabla}$$は捩率0という。

捩率0(捩じれがない)であることは、クリストッフェル記号では次のように簡単な条件に言い換えられます。

命題
捩率テンソル場を座標近傍$${ \lbrace{U; x^1,…,x^n}\rbrace }$$に制限したとき、$${U}$$上で捩率0であることは、$${U}$$上で
$${\Gamma_{ij}^k=\Gamma_{ji}^k  \quad (i,j,k=1,\dots,n) }$$
となることと同値。

定義
リーマン多様体$${(M,g)}$$と接続$${\nabla}$$に対し、次の$${(1,3)}$$型テンソル場を曲率テンソル場(または単に)曲率という。
$${ R(X,Y)Z=\nabla_{X}\nabla_{Y}Z - \nabla_{Y}\nabla_{X}Z-\nabla_{[X,Y]}Z}$$

任意のベクトル場$${X,Y,Z,W\in\mathfrak{X}(M)}$$に対し
$${ R(X,Y)Z=0 }$$
となるとき、接続$${\nabla}$$は曲率0という。

曲率はちょうど2階微分についての情報を持っています。適切なfomulationの下では、共変外微分$${D}$$について$${R=D^2}$$と書けて、さらに$${D R=0}$$となります(ビアンキの恒等式)。こちらの方がすっきりとするところではありますが、今回は扱いません。
また、$${Z}$$のみ外に出ている書き方になっているのは、ここのみ一般のベクトル束の切断に置き換わるからです。
この辺りの話について、詳しくは例えば小林『接続の微分幾何とゲージ理論』を参照してください。

定義
$${\nabla}$$が捩率0かつ曲率0のとき、平坦であるという。

平坦な曲線(平坦かつ弧状連結な1次元部分多様体)を測地線という。

定義
$${I}$$を$${\mathbb{R}}$$の区間とする。$${\gamma: I\to M; t\mapsto \gamma(t)}$$を多様体上の曲線として、$${\gamma(t)}$$の$${t}$$による微分を$${\dot\gamma (t) \in T_{\gamma(t)}M}$$とする。
このとき、曲線$${\gamma}$$が測地線であるとは、$${\gamma}$$が常微分方程式
$${\nabla_{\dot\gamma(t)}\dot\gamma(t) =0 \quad (t\in I)}$$
をみたすときをいう。

参考文献

  • 藤岡敦 (2021) 『入門 情報幾何 ―統計的モデルをひもとく微分幾何学―』 共立出版

  • 藤原彰夫(2015) 『情報幾何学の基礎』共立出版

  • 小林昭七(2023)『接続の微分幾何とゲージ理論 [新装版]』裳華房






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