
偉大な作曲家
『アイガー・サンクション』という映画があります。クリント・イーストウッド主演の山岳を舞台にしたスパイミステリーですが、映画の内容はほとんど覚えていないものの、そのテーマ曲だけは今でもよく聴いています。
この曲を作曲したジョン・ウィリアムズの自伝ドキュメンタリーがディズニープラスで配信されており、久しぶりに感動して涙しました。一見、順風満帆に見える彼の人生ですが、最愛の妻の死や、映画の映像からインスピレーションを膨らませ数々の名作を生み出すという、常に高いプレッシャーの中で仕事をしてきた軌跡が描かれています。
思い出せるだけでも、『ジョーズ』、『スター・ウォーズ』、『スーパーマン』、『E.T.』、『未知との遭遇』、『インディ・ジョーンズ』、『プライベート・ライアン』など、数え切れないほどの傑作に携わってきました。当時、『遠すぎた橋』という大作の音楽依頼があったそうですが、スティーヴン・スピルバーグの勧めでジョージ・ルーカスを紹介され、商業映画より傑作を作りたいという熱意に共感し、『スター・ウォーズ』を手がけることに決めたそうです。
あの『スター・ウォーズ』のテーマ曲は、映画を数倍にも引き立てる効果があり、あの音楽を聴くと映像が鮮やかに蘇るのが素晴らしいと思います。同じように『ジュラシック・パーク』のテーマも、音楽が流れるだけで恐竜たちの勇姿が目に浮かぶほどです。
ウィリアムズ氏はかつて、小澤征爾氏の推薦でボストン交響楽団のポップス指揮者を任されましたが、映画音楽に対する理解が薄い古参の演奏者との軋轢があり、やがて指揮者を辞めることを決断します。それでも、指揮者としての役割を「演奏者と指揮者は家族」と捉え、6週間後には不和を解消し、その後の楽団の活躍に大きく貢献しました。
また、ウィリアムズ氏は音楽ジャンルの境界を超え、人々に感動を与える音楽の価値を高めてきた存在です。世界的なチェリストのヨーヨー・マやバイオリニストのアンネ=ゾフィー・ムターとは深い交流があり、彼らとの共演も多く見られます。
『シンドラーのリスト』のテーマは、映画を引き立てただけでなく、楽曲そのものに人々の悲哀と不幸を漂わせており、これほどの名曲は他にないと感じます。また、『プライベート・ライアン』の楽曲は今でも米軍から演奏の依頼があるそうで、国を守る軍人たちの心の支えにもなっています。
『ハリー・ポッター』の映画音楽では、監督が「陰気な導入から陽気になり、また陰気になる」という独特の旋律に感化されたとされます。映像を見ずにイメージで作曲したとのことで、まさに天才的です。
かつてビートルズはハンブルクで演奏中に客のリクエストに応え即興で演奏を重ね、その経験が後の名作の基盤になったといいます。ウィリアムズ氏も60年にわたって音楽を追求し、多くの楽曲に触れてきた中で、映画映像とクリエイティビティの融合によって、あの素晴らしい音楽を生み出したに違いありません。
モーツァルトの曲が今も我々を魅了し続けるように、数百年後に残る曲はビートルズの作品もそうでしょうが、ジョン・ウィリアムズ氏も間違いなく歴史に名を刻む名作曲家であると言えます。
ウィリアムズ氏はスティーヴン・スピルバーグとの出会いに大きな感謝を表しています。