コンテンツ帝国ネットフリックス
ブロックバスター(レンタルDVD)で借りた映画『アポロ13』の延滞料40ドルを負担したことが、ネットフリックス創業のストーリーだという。創業者ヘイスティング氏は、レンタルビデオの巨頭ブロックバスターやその他の大手がひしめく中、コンテンツ帝国として現在君臨しているが、そこまでの道のりは決して平坦ではなかったようだ。
レンタルDVDを郵送で送るというアイデアは消費者に受けたものの、新作の人気映画の貸し出しが増えると在庫を多く確保しなければならなくなった。そのため、古い映画も借りてもらえるよう、消費者の嗜好をタグ付けして好みそうな映画を勧めるノウハウを蓄積したという。ストリーミングで紹介されるコンテンツが視聴者それぞれの嗜好に合うように提案されるのは、このネットフリックスが創業時から培ってきたノウハウだと言える。
このアルゴリズムは、ジャンルや俳優、監督、ロケ地、エンディング(ハッピーエンドかどうか)で映画を紹介していたが、映画ライブラリーが増えるにつれて属性の精度向上が困難になったという。そのため、エンジニアは共通の思考を持つ顧客同士をグループ化し、その嗜好を予測する方法を取った。このノウハウは、顧客に何を勧めれば購買につながるかという、ネット小売業が試行錯誤している問題とも関連しているだろう。(著書『ネットフリックス』ジーナ・キーティングより抜粋)
コンビニエンスストアは不動産業だと説明する人もいる。限られたスペースのどこに何を置くかで売上に直結するため、棚に置いているものを観察すると、今何が売れているのか予測できる。例えば、以前に比べて酒類の棚が減っていたり、棚の中でビールの占める割合が減っていたりする。また、地域によって嗜好が異なるため、陳列する商品も変わっている。子供の目線にお菓子が置かれ、大人の目線に比較的高価格のおにぎりがあるなど、何気ない陳列も企業が試行錯誤し集めたデータに基づいて決められているのだろう。スーパーに行ってもペットコーナーやおむつコーナーが大きく占めていることから、高齢化が進み、少子化に代わってペットと生活する人が増えているのだと想像できる。
ある株式アナリストが、調査対象のレストランの売上が会計資料と一致しているか調べるために、衛星からそのレストランの駐車場の車の数を調査し、売上の推移を確認したというエピソードがあった。そう考えると、日常の買い物からでも、人々がどんなものに興味を持ち、何を実際に購買しているのかが分かり、その企業の株を購入するという手法も効果的かもしれない。実際、アメリカの著名な投資家ピーター・リンチは、家族の購買傾向からファンドに組み入れる銘柄を選定していたと説明していた。
ネットフリックスはブロックバスターと熾烈なシェア争いをしていたが、ライバル会社の売上傾向を調べるために、社員がブロックバスターのレンタル会員になり、その会員番号を確認して月初と月末の会員番号の増減を調査し、会員数の伸びを把握していたという。ブロックバスターは優位な状況にあったが、優秀なCEOを更迭し、コンビニエンスストアで実績のあった新しいCEOがストリーミングから店舗へと経営資源を戻した結果、ブロックバスターは破綻。現在、ネットフリックスはストリーミング企業として確固たる地位を築いている。もしこのCEOの更迭がなかったら、ストリーミング帝国はブロックバスターになっていたかもしれない。そう考えると、人知を超えた運も企業には必要だと思ったが、資本家がCEOの人選を誤ったと考えると、結局は資本家の力量が企業の行く末を左右するのかもしれない。
コンテンツを貸すというビジネスモデルから、消費者が好むコンテンツを作ることで参入障壁を築き、ライバル企業を蹴散らし、サブスクリプションで安定した収益を上げるというビジネスモデルが確立されている。そう考えると、優秀な脚本を書き、作品を制作するスキルを持つ人々がコンテンツ王国の上位に君臨することになる。この創造的でクリエイティブな能力は、やはり人間にしか実現できないものだろう。