【短編小説】朝のイライラは、昼のお弁当に込めて。
私はアラフォーの会社員。
結婚して2年、1つ下の夫と暮らしている。
子どもはいないので
2LDKのアパートに夫と2人暮らしだ。
夫とは趣味のスポーツで知り合い
入籍自体は2年前だが
なんだかんだと10年らいの仲だ。
お互いに会社に勤める正社員の共働き。
家事の割り合いは
私:夫 7:3といった所。
夫は洗濯物や、ある程度料理もしてくれる。
洗濯といっても夜中に有能なドラム式洗濯機が洗濯→脱水→乾燥までしてくれるので翌朝夫は畳むだけなのだ。
力仕事は率先してやってくれるので頼もしいとも思っている。
変な所でこだわりがあるが完璧な相性の夫婦なんてなかなか無いと思う。
通勤時間が私より長いこともあり自然とこのぐらいの比率になった。
日曜日。
この日も昼間に2人で練習に参加して
晩御飯は某回転寿司チェーンに行こうと計画した。
細やかながらも充実した休日を過ごした。
練習終わりにシャワーも済ませ、
1月の夜ともあり2人とも上着をしっかり着込み回転寿司に行った。
1月の第2週の週末。つまり翌日は成人の日ともあり、
店内は多少混雑していたが2人とも予想していたので
待ち時間はたいして苦ではなかった。
予約番号が呼ばれ、手頃な価格ではあるが味は申し分なく。
手頃な価格の中トロ握りを
口にほうばり休日のちょっとした贅沢を楽しんだ。
アパートへ帰宅すると待っていたとばかりに眠気に襲われる。
2人ともリビングで毛布に包まり、
少し距離をとった場所にストーブを焚いてうたた寝していた。
しかし、リビングの床なので
次第に床の硬さに身体が悲鳴を上げ始める。
ひとまず私は歯磨きをしてから、夫に声を掛けてから寝室に入った。
目が覚めた時は朝だった。世の中は成人の日。
祝日は私は基本休みなのだが、夫は違う。
夫は日曜と他平日1日休みなので
私より休日数は多いのだが、この日は夫のみ出勤。
ただ一緒に住み始めてから私がお弁当を作るようにしていたので
この日も弁当を作るため、出勤の時間に合わせ起床した。
夫はいつの間にか寝室に入っていて
リビングにはうたた寝に使った毛布と枕が無造作に置かれていた。
カーテンを開けるついでに畳んでリビングを整えた。
これも幾度となくしている作業なのでやや面倒ではあるが
この日、久しぶりの自分だけの休みに気分はルンルンであった。
夫の1段タイプの弁当箱を出し、
冷凍してある白飯をレンジで温める。
前の日に準備しておいたおかずも温めて、弁当箱にそれらを丁寧に詰めていく。
最後は卵焼きだ。
数年使いこんだ卵焼き用のフライパンに油をひき
100円均一の計量カップに
お水、塩、砂糖、顆粒出汁そして小さじ1杯の片栗粉を入れる。
片栗粉を入れると卵焼きがふんわり仕上がる。
かき混ぜた後に卵1個を入れて細かくかき混ぜる。
弁当がある日は毎回焼いているので最初ぎこちなかった卵焼きも
今では綺麗に巻けるようになった。
今日も程よい焦げ目でふんわりと仕上がった。
後、ひと巻きのところで
寝室から夫が出てくる。
眠そうな顔はいつもと変わらない。
いつも腰が、肩が痛い。とか
寒いとか暑いとか。
朝のせいかややネガティブなことを言いながら部屋から出てくるのが日課になっている。
でもこの日は違った。
顔をあわせた瞬間ぶっきらぼうに
「寝る前に俺を起こすか、ストーブを切ってよ。」
「燃焼代もったいないじゃん。」
条件反射で笑いながら「ごめん」と応えた。
私は自信が持てない性格で判断を他人に委ねる癖ががある。
理不尽な注意や指摘も反論に自信が持てないことが多いので、とりあえず謝ってしまう。
この時もそうだったが、
心の中では「は?」である。
夫との間でも細かいことをあまり言いたくないし、言われたくもないので
ていていは流してしまうのだが
この日に限っては、私は謝った後にイラッとした。
今日私は久しぶりの1人休日で
夫が出勤したあと何をしようかウキウキしていた。
だが、そんな気分も一瞬で台無しだ。
弁当も順調に準備していて
後は卵焼きを完成させて詰めるだけ。
朝ごはんを終わらせたら、夫を送り出し。
私だけの自由時間だ。
夫は言い捨てると
顔を洗うため洗面所に消える。
休みの朝の気分を台無しにされた私の頭の中には
いろんなことが飛び交っていた。
寝室に行く前に声かけたけど。
自分で起きて寝室行けよ。
そもそも私のせいなの?。
あんたの弁当なければ今頃、まだ暖かい布団で寝れるんですけど。
そのことについてお礼はないの?
無駄使いした燃料費を私のポケットマネーから出せばいいの?
悔しさで涙が出そうにもなるが
今日は違う。
怒りだ。
洗面所から洗濯物を持った夫がリビングに戻ってくると
テレビの電源を入れる。
定番の朝番組が流れ
取り上げられた内容について夫は呑気に感想を求めてきたが私は台所で背を向けたまま
当たり障りのない返事をする。
正直なんのニュースだったかも覚えていない。
再び身支度のため夫が洗面所に消えると
私は貼り付けた笑顔が真顔に戻し、怒りを必死に堪える。
偉そうな旦那様にはお仕置きが必要だ。
焼き終わった卵焼きを見つめながら思った。
そして次の瞬間握っていた菜箸に力を込める。
食べ物を無駄にすることは出来ない。
それは私もとても許せない行為だ。
ただ形は変えるが。
綺麗に巻かれた卵焼きに菜箸を突き刺す。
何度も
何度も
何度も
これで食べやすいスクランブルエッグだ。
あの夫に綺麗な卵焼きなんて勿体無い。
それを先に詰めいておいた白飯にONだ。
最後に夫の好きな唐揚げとモヤシとワカメのお浸しを詰める。
蓋を閉め箸を乗せ、専用のゴムバンドで開かないように固定する。
弁当袋に入れる前に10回ほど弁当箱を
しっかり振ることは忘れずに。
お弁当の中身がしっかり混ざることを祈って。
楽しい休日の朝を台無しにした
あなたのために作ったお弁当。
出勤する夫に仕事頑張ってねと共に
差し出すお弁当。
「美味しく召し上がれ。」
その日
帰宅した夫は少し気まずそうな表情していた。
昼休憩に弁当箱を開けた瞬間に
私の怒りを悟ったらしく。
「すいませんでした。」
その日の午後、リフレッシュしていたので私は直っていたが
「何が?」と笑顔で聞いてみる。
「あんな言い方して、ごめん」
いろいろ言いたいことがあったが反省しているようなので、
「大丈夫だよ。
タイミングが良くなかったよね。」
「とりあえず、あなたのお弁当が犠牲になっただけだから」と応えておく。
あまりゴネ過ぎるのは良好な夫婦関係を続けていくのにはよろしくないと、
私は考えるからだ。
それを聞いて夫はホッとしたのか
職場での今日の出来事を話始める。
そうして我が家は今日も1日が終わってゆくのだ。
ただこの出来事、
私にとって結果的に良い出来事になったと思う。
発言には気をつけてね。
じゃないとあなたのお弁当がいつでも犠牲になっちゃうから。
製造部門で働くあなたは
外にお昼ご飯を買いに行けないよね!