医者の飲み会に潜入
おれは無職で、時間を持て余している。
最近、彼女の家に居候をしている。
ということで、彼女の職場の飲み会にも参加するようになった。
彼女はお医者さんなので、職場にはしっかりした人たちが多い。
昨日もそんな飲み会に参加した。
十人くらいの飲み会。医者と看護師。
おれにとっては初対面の人が半分以上。
そうなると、おれはピエロ的な振る舞いをせざるを得ない(他にいったい何ができよう?)。
ピエロ的な振る舞いというのはどういうことかというと、無職である自分を卑下し、笑ってもらうことでコンテンツ化することだ。
おれが毎日彼女の家にいる無職であること(それを聞いたみんなは「ヒモなの?」とつっこむ)、まだ次の仕事は決まっていないこと、来週から当分ベトナムに行くこと、仕事のことはベトナムに行ってから考えること、などといった自分の身の上話をなるべくおもしろおかしくなるように努力して喋る。
そんなに自分の話ばかりして自分大好きかよ!と思われるかもしれないが、彼ら・彼女たちはおれに興味津々で、どんどん質問しどんどん聞いてくるのである。
だからこちらとしては、なるべく面白いコンテンツとして振る舞ってあげようというサービス精神を発揮する。
いつものメンバーの、職場の愚痴以外に特段話すことのない飲み会に、新しい外部のヤツが来たんだ。
新しい風が吹く。
しかも、身内の恋人の話ほど面白い話題はない。
さらにその男といったら、無職なのだ!
彼ら・彼女らは大抵ゲラゲラと笑い転げ「変な人やな!」とか「この彼氏大丈夫?」とかいう反応を示す。
お酒が回る。
おれは一夜ばかりの極上エンターテインメントを提供する。
で、めでたしめでたしのはずだった。
でも昨日は違った。
つまり、一人だけ全く笑っていない男がいたのだ。
二十代後半、男、医者、おれの彼女の先輩。
あとからわかったことには、普段はめったに飲み会には参加しないらしい。
月5500円の寮に住み、毎月五万円を積立NISAに回している。
この真面目で堅実な男に、「明日彼女の家で一緒に鍋パしません?」と誘ったらキレられてしまった。
曰く、「君は人との距離感がバグっている」「よくそんな勝手な価値観で、この社会で生きていけるね」とのことであった。
冷静になって考えると、彼がキレたのは当然なのだ。
、、、というのは半分くらいおれの推測だけれど、でもたぶんそんな感じの人だ。
そんな彼からすると、おれみたいな存在は許せない。
、、、と書いたのはあくまでおれの推測だけど、でも、そんな感じのことを思っていそうだった。
大丈夫だよと、おれはあなたを愛していますよと、そんなに怯えないでと、おれは言いたかったけど、「すいません!」とだけ咄嗟にでてそれで昨日はおしまいだった。
もっと人類を愛したい♡
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