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日本、アメリカ、中国の特許制度を比較してみよう③

本日は、比較シリーズの最終回で、拒絶理由応答の違い、拒絶理由通知の応答後の違いについて、説明したいと思います。

拒絶理由応答の違い

まず、拒絶理由応答の違いについて、説明します。
日本では、引用文献の開示以外の情報が少ない傾向です。
審査官に確認するか、自分で解釈する必要があります。
ただし、ここ10年くらいで、すごく丁寧な拒絶理由も増えてきました。
かつて20年くらい前は、1行くらいの理由しかなかった拒絶案件も多くありました。

応答期間は60日(在外者は3ヶ月)以内に、設定されます。
ユーザー・アンフレンドリーな日本の知財制度が、改善されてきましたが、応答期間はまだまだ改善が必要ですね。

審査官の勘違いが非常に多いアメリカ

アメリカでは、日本よりも丁寧なんですが、ここ最近は、審査官の勘違いが非常に多いです。
そのため、何度応答しても覆らないこともあるんですね。
アメリカの場合は、移民政策の事情で、海外のマスターやドクター資格の高学歴者をアメリカ特許庁が採用しているためです。
登用された審査官の中には、英語が得意でない人も多くいます。
このような理由で、勘違いしてしまう事案が、後を絶ちません。

応答期間は、基本3ヶ月(MPEP 706.07(f))で、さらに3ヶ月 まで有料で延長が可能です。
応答期間の最大6カ月を徒かした場合でも、Petition for Revivalと共に、応答を提出することで、通常は応答が認められます。


世界的に見ても、とても大変な日本の弁理士

中国については、指定期間内に応答する必要がある(中国専利法37条)点は、同じなんですが、1回目の指定期間は原則4ヶ月で更に2ヶ月の延長が可能です。
そして、2回目以降の指定期間は、原則2ヶ月で更に2ヶ月の延長が可能です。
通知書の内容は、日本の拒絶理由通知よりも丁寧です。

こうやって比べてみると、拒絶応答の理由や期間が、日本が一番厳しそうですね。
ですので、日本の弁理士は、世界的に見ても、とても大変だと思います。

さらに、拒絶理由通知の応答後の違いを、説明します。
拒絶理由が最終的に解消しないと、日本では拒絶査定になるので、 拒絶査定不服審判に進めることも出来ます。
アメリカでは、出願が放棄したものと見なされます(35 U.S.C. 133)。
ただし、Appealすることもできますが、ほとんどの案件は拒絶が維持されると思います。
中国では、取り下げ擬制(中国専利法37条)されてしまいます。

拒絶理由の傾向比較

なかなか難しいのですが、拒絶理由の傾向について、比較してみます。
日本では、発明の概念(コンセプト)を解釈し、考え方が似ていると、引 用文献との相違点を“単なる設計事項”と言い、全体として進歩性欠如とする傾向があるのではないかと思います。この点で、欧州特許庁も日本特許庁と似ていますよね、結構、簡単に自明だと、欧州審査官は言ってきます。

アメリカでは、1つ1つの構成要件を検討し、これらの構成要件を含む特許文献を探し出し、進歩性を判断する傾向ですね。
このため、全体として発明の概念(コンセプト)が全く異なる 引例を挙げてくることがあります。

中国では、記載不備に関する拒絶理由が圧倒的に多いです。
請求項と明細書で異なるワーディングを使うと、ほぼ拒絶理由が来ます。

あまり使われていませんが、出願変更制度についても、比較してみましょう。
日本では、特許・実用新案・意匠の間で出願変更制度(日本特許法46条等)があります。
アメリカには、日本の出願変更制度に相当する制度はありません。
日本の出願変更制度とは全く違う制度として、仮出願と本出願との間の出願変更制度(MPEP 601.01(c))があります。

ちなみにアメリカの仮出願制度って、日本人はあまり使いませんよね、でもうまく使えば、資金力の少ないベンチャーには、すごく有利な制度なんですよね。
中国にも日本の出願変更制度に相当する制度はありません。
中国における、外国からの優先権主張を伴う出願時に、特許から実用新案に、実用新案から特許に変更出来る制度(中国専利法29条、中国専利法実施細則33条)はあります。

メールでも対応してくれるアメリカ審査官

面接審査について、比較してみます。
日本では、面接審査は可能ですよね。
進歩性の判断や、記載不備の解消についても判断してもらえるので、是非、活用すべきです。
アメリカも、もちろん可能です。
拒絶理由が解消するか否かの判断まで行ってくれることが多いですね。

但し、明らかに審査官がおかしいと思われる解釈であって、 その考えが覆らないこともあるので、この点は要注意です。
この審査官は、言っていることがおかしいな?と思ったら、最初の拒絶理由の時から、面接審査をして、対応を考えることをお勧めします。
最近は、電話だけではなく、メールでも対応してくれる審査官が、アメリカでは多いですね。

一方の中国ですが、面接は原則不可なんですね。
でも、審査官によっては、対応してくれます。

登録になるまでいつでもできる、アメリカ

次は、分割の時期ですね。
日本では、謄本送達から30日以内に、分割出願の機会があります(日本特許法44条)。
アメリカも登録まで分割出願の機会があります(Divisional Application、 35 U.S.C. 121)。
アメリカの場合は、登録になるまでいつでもできるんですよね、分割出願や継続出願は。
情報開示(IDS)は、特許証が発行されるまで義務を負うので、ご注意ください(37 CFR 1.56)。
中国では、登録手続をおこなう2ヶ月の期間内、分割出願の機会があります(中国 専利法実施細則42条、54条)。

日本の意匠権に今後期待!

存続期間も、日米中でちがいますよね。
日本では、特許権は出願日から20年(日本特許法67条)、実用新案権は出願日から10年(日本実用新案法15条)で満了します。
意匠権は、最近の改正で出願日から25年(日本意匠法21条)となりました。
この改正で、日本の意匠権がかなり見直されるのではないかと、期待しています。

アメリカでは、 特許権は出願日から20年 (35 U.S.C. 154(a)(2))、 意匠特許(design patent)は付与日(date of grant)から 14年(35 U.S.C. 173)です。
意匠権は、付与日から存続期間が起算されるんですよね。

中国では、 特許権(発明専利権)は出願日から20年、 実用新案権(実用新型専利権)は出願日から10年、 意匠権(外観設計専利権)は出願日から10年(中国専利法42条)で満了します。

手厚い保護のアメリカ!

もちろん、存続期間の延長制度についても、日米中では異なります。
日本では、日本特許法67条の2で存続期間の延長制度について規定 されていますが、欧米に比べて制限が多かったのです。
特に、医薬機器が対象に含まれないなどで、日本の医薬ベンチャーの創成に影響を与えていると批判され、多少範囲が広がりました。

アメリカでは、存続期間延長制度(Extension of patent term, 35 U.S.C. 156)と、審査手続きの遅延に対応した存続期間の調整制度 (PTA, 35 U.S.C. 154(b))が規定さ れています。
このうち、存続期間の調整制度 (PTA)は、ものすごく一般的ですよね、ただし、ちゃんとチェックしないと、延長された期間の計算によく間違いが発生しています。

中国は、驚くべきことに延長制度自体がありません。
この点で、中国は、やはり、個人の権利を認めるのが、消極的だと言わざるを得ません。
しかし、日本、アメリカ、中国の3か国の知財制度を比べますと、日本は、同じ自由貿易主義のアメリカに比べると、共産主義の中国の制度に近いのではないかと感じます。


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