網仕事 #漁師の娘が見た景色
漁に出ない日、漁師は家族総出で陸(おか)仕事をする。
網を修理したり、船を陸揚げして船底をお掃除したり、いろいろとやることがある。
網の修理は朝から夕方までの一日仕事。
200メートルぐらいある網を漁港に広げて、端から順番に網のほつれや破れた箇所を直していく。
網仕事の現場には子どもたちも連れて行ってもらえる。
ローラースケートとか自転車とかを持っていって網仕事の傍らで遊んで過ごす。
網の修理には、アバリと言う竹でできた道具を使う。
父や祖父がこのアバリを使ってサササッと手早く紐をつむいでいくと、魔法のように網の目が出来上がるのだ。
私はたまに遊びを中断して、そんな父と祖父の手元を夢中で眺めた。
「ちょっとここもってて」
と、たまにお手伝いをさせてもらえることもあった。
網は海臭い。たまに干からびた小魚がついていることもある。
けど、嫌いじゃない匂い。
なにより、仕事の役に立てるのが嬉しくて、ただ網の一部を「もってるだけ」のお手伝いを一生懸命やった。
お昼は出前や弁当を食べる。寒い日に食べた出前のラーメンは格別。
長いときは日が傾く頃まで作業をしていたと思う。
終わりが見えると一足先に母と子どもたちは家に帰る。
修理が終わった網はそのあとどうしていたんだろう。どうやって船にのせてたのだろう。
今更だけど、もっとちゃんと見ておけばよかった。
当たり前だった景色。あの感じがすごくよかった。