おじいさんが教えてくれたこと①
いやぁ、ついに卒業ですか。
あんなにぴよぴよしてね、初配信の時なんか配信スタートボタンも押せなくて、小悪魔になったりトナカイになったり、死んだ目で36時間喋り続けたり、車に轢かれて目が覚めたら日本酒が消えていたり。
センチメンタルジャーニ〜♪
よしよし、最後の配信だし可愛いグラスとお酒をしこたま買って、なんだかんだ長引くだろうしお腹空くからパンとか…お、焼きたてクリームパン!ちょっとお高いけど買って帰ろう。
『何かを決めたんだろうね♩不安になることなんてないさ♩』
神推し山下美月の卒業ソングがイヤフォンから流れて来る。さながら今のわたしは卒コン前のアイドル。機嫌はすこぶる良い。可愛さあり、涙あり、笑いありの卒コンにしようじゃないか!
そうして家路を辿り、この道をまっすぐいけば家に着くところまできた。
向こうのほうからは爆速で歩いてくるおじいさん。
早歩きの方が良いって言うもんね、健康にね。偉いなぁ〜。
そうしておじいさんとの距離、10m。
5m。
1m。心なしか速度増してない?
30cm。
エッッッッ近いね!?!!パーソナルスペースとかない世代!?お前が避けろ的な!?!!!!
しゃーなし、今の私はすこぶる機嫌がいい。特別よ?と、おじいさんの進行方向から逸れる。
と、おじいさんも私に合わせて目の前に立つ。
……恋か…………………………。
さすが今日の私はいつもより可愛くて、老若男女を魅了してしまうな。申し訳ないけど私には爆豪勝己くんが『何でっっっっっっ!!!!!!!!!!!!』
爆裂にデカい声。何で。何でって言った?この人。
確かに人生は疑問に満ちているし、哲学なんかも多少嗜みがあるので、答えられるならば力になるべき?
「何でとは…何に対する…??」
恐る恐るたずねた。27歳の小娘に解決できる疑問だろうか?私だってまだ分からないよ、なぜ人は争うのだろうね?とか。
『ッッッヤッホン!!!!』
え?ヤッホーって言った?このおじいさん。挨拶いまさら?まぁいいや、初見さんいらっしゃい。
「ヤッホー…?」
おじいさんは心底何も分からない顔をしていた。数秒間があいて、
『…ィヤッホンって言ってんどるぁ!!!!』
再度のクソデカボイスである。
正直この距離で声量でも、何を言っているのか分からなかった。大学の卒論以来の頭フル回転である。
そして「あぁ!イヤフォン!!!!!!!」とつい負けないくらいのクソデカボイスが出た。散歩中のマダムはガン見、犬は吠える。けれど私は悪くない、たぶん。
とにかくこの場を収めなければ。
「イヤフォンがどうかしました?」
『なんどぅぇ!ちゅけちぇる!!!?!』
ちぇる?……はっ!おじいさん語ネイティブになりつつある私は完全に理解した。
なんでイヤフォンを付けている!?!!!!だ!!真実はいつもひとつ!!!!!!
そして、はた、と考えた。
私はなぜイヤフォンを付けているのか。
こうして卒コン前に無駄に頭を回転させてしまうのであった。
つづく(たぶん)
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