これまでの、たび。~アイルランド編① 出発前夜~

旅は好きだ。

家族と行く旅、友達と行く旅、一人で行く旅。
どれもそれぞれに長所があって、どれも趣深いものだ。

一人で行く旅で最も記憶に残っているのがアイルランドに行った旅。ワーキングホリデーでアイルランドに行き、そこで10ヶ月ほど住んでいた。旅といっても、長い長い…非日常が日常に変わる程度には長い旅だった。アイルランドに住んでいた頃には確かに日常がそこにあったけれど、今思い返してみると、あれはやっぱり非日常体験だったよなぁと思う。

アイルランドに興味を持ったのは中学生の頃。たまたま兄が買ってきたEnyaのCDを聞いたことがきっかけ。言葉にするのは難しいけれど、なんというかそれまでの人生の中で最も「自分の中でストンと落ちる」ような音楽だった。Enyaの出身国がアイルランド。そこで私は生まれて初めて「アイルランド」という国の存在を知った。

いつかはアイルランドに行ってみたいと漠然と思いながらも、昔の私は見た目によらず大変に臆病で、学校行事などで宿泊合宿に行こうものならすぐにホームシックになるほどだった。英語もできないし、こんな状況でアイルランドに行くなんて夢のまた夢…だった。

そんなことを考えながら月日は過ぎ、年齢的にも「大人」になった私は親元を離れて就職のために上京。一人で生活をしてみて思ったことは「案外簡単に死なないな」ということ。ちょうどその頃にワーキングホリデーという制度があることを知り、試しにアイルランドで調べてみたら、なんと、その時期はちょうどアイルランドと日本のワーキングホリデー協定が結ばれたタイミングだった。

なんともグッドタイミング。それから2年後くらいを出発の目標にして、鋭意情報収集を開始。とはいえ、自分一人で海外に行くのは人生初めてで、ろくに英語も話せない。まずは何から始めたら良いのか全く検討もつかず、とりあえず留学会社に聞いてみればいいかという安直な考えで、検索サイトのトップに上がっていた留学大手の会社に早速情報を聞きに行くことにした。

担当の人はいろいろと相談に乗ってくれた。まずは英語力をつけるために到着後3ヶ月くらいは語学学校に通うこと。最初の1ヶ月はホームステイを手配してもらい、その間に自分で住む場所を決めるというプランを立てた。語学学校が終了したあとのことは、予定は未定で。成り行き任せにしようということも。

出発は2年後くらいを想定していたが、担当の人に言われたのは予想外の一言。

「欧米はキャッシュ・オン・デリバリーだから、今払っておかないと希望したプランが手配できないかもしれませんよ」

マジか。

ということで、安くないお金を払うことにした。それまでに貯めたお金を一気に放出して。

それからしばらくして、担当してくれた人が退職したという話を、新たに担当してくれるという方から聞いた。お金も払ってしまったため、不安になったためとりあえず新しく担当になってくれた人にアポを取り、今後の流れについて聞くことに。ついでに前々から不安だったワーホリのビザ発給倍率についても聞いてみた。

担当の人曰く、「アイルランドは人気が高いので20倍くらいですかね」と。

マジかー!

20倍なんて、応募しても通らない可能性が高い…。そしてその場合、2年後に出発しようというプランもうまく運ばない可能性が高い。どうしたものかと頭を抱えた。

それからしばらく連絡を取り合うことはなかった。途中、そういえば旅行保険のことも相談しなきゃなと思い、メールをしたことはあったが返信はなかった。まぁ、忙しいだろうしね…とその時は特に気にもとめなかった。

ある日のこと。

会社でなんの気なしにヤフーニュースを開いた時だった。そこに上がっていた記事を見た瞬間、心臓が嫌な音を立てた。

留学大手会社、倒産。

いやいやいや。まさかね。まさかだよね…?
と、祈るような気持ちでニュースを開いてみたところ…。

ビンゴ。

あの場で声を上げなかった自分を褒めてやりたい。
でも、どうにも同様が大きくていても立ってもいられず、事情を知っている同期を給湯室に呼び出して、告げた。

留学会社、倒産したってさ…。

膝から崩れ落ちるということはこういうことなんだな…。本当に膝に力が入らなかった…。
同期の慰めに正気を保ちながら、心がボロボロになって帰宅。これからどうしよう…。そう思った。

なにより困ったのは両親になんと言えば…ということ。両親は決してワーホリに行くことに前向きではなかった。せっかく入った会社を辞めて遊びに行くなんて、と。もちろんかなり抗議したし、遊びに行くわけではないということも話して、半ば無理やり合意を取り付けた。そんな状況だったので、まさか留学の会社が倒産したなんて知られたら「やめろ」と言われるのがオチだろうと。なので秘密にしておくことに決めた。

がしかし。母の勘は鋭い。

その会社が倒産したというニュースが全国ネットで放映されてすぐに「あんたが手配をお願いした会社、まさか倒産した会社じゃないよね?」とメールが…。

観念した。
さすがにここで嘘をついても仕方がないと…。

意外にも母の反応は「いざとなったらあんたのために貯めた貯金があるからそれを使ってもいいよ」というものだった。神様かと思った。

とにかく、これでへこたれる自分ではない。昔に比べて随分と図太くなった。
もう一度計画を練り直し、少し出発を遅らせることでなんとか目標金額を貯めることができそうだと目処がついた。

また、現地手配についてもあらためて手配業者を探し出し、当初考えていたものと同じ内容で手配してもらうことができた。しかもずいぶん安く。怪我の功名というやつか。なにより驚いたのは、アイルランドのワーホリビザ発給倍率について尋ねたところ、「簡単に発給されますよー。応募したらまず間違いないです」と言われたこと。

マジか…!!

サードオピニオンは大事だということをつくづく思い知った瞬間だった。

つづく。

ちはや ふみ

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