彼女はポールで空を飛び、魔法少女になったのだ【ポールプリンセス!!楽曲解説 東坂ミオ編】
注)楽曲は案件ですが、記事は案件ではございません。無断で書いています。
『ポールプリンセス!!』という作品、および楽曲『Avaricious Heroine』については前回の記事をご参照ください。
mustie=DCです。
というわけで今回はこちらの楽曲『マジカル☆アイデンティファイ〜3・2・1の魔法〜』について解説します。
前回(紫藤サナ)はキャラクター本人の素性がまだ詳しく明かされていないということであまり書ける事がなかったのですが、
今回は比較的情報が多く倍ぐらいの文章量になってしまいました。
具体的にどのぐらいかというと、実はボーカル収録の際にちょうど遠方に出ておりスタジオ入りが出来なかったのですが、
その際に代理でディレクションして頂く方に全歌詞の解説を書いたスプレッドシートをお渡しした程度には書く事があります。
ということで少し長くなりますが、何卒お付き合いください。
解説の前に…
東坂ミオとは何者か
まず前回のサナの時同様、「東坂ミオ」というキャラクターについて整理しましょう。
これにアニメ(主に初登場回の第2話)での出番を加えると、以下のように補足できます。
なるほどオタクキャラということで、かなり共感を得やすそうですね。
個人的に魔法少女のイメージのような可愛い系の曲は得意だったので、作編曲の方向性はすぐに決まりました。
そしてあらかた曲を作り終えた後、詞をつける作業が始まります。
…そうです、今回作詞もあるのです。
元々は作編曲のみの予定だったのですが、急遽「作詞もどう?」というお話を頂きました。
そして、ここに3つの問題が生じます。
作詞の問題①:大御所の存在
いきなり身内の話になってすみませんが、個人的にずっとのしかかっている問題です。
作詞の打診を頂いた際、嬉しい反面凄まじいプレッシャーもありました。
なにせ他楽曲のほとんどを、アニソン作詞界の超大物ことマイクスギヤマ先生が手掛けるのですから。
ご覧ください手がけた曲が多すぎてWikipediaに代表曲しか書いていません。
何気に『Avaricious Heroine』含め私の楽曲にも何度も詞をつけて頂いております。お世話になっております。
マイク先生は私が子供の頃に狂ったように観ていたとあるアニメの主題歌を作詞されていたこともあり、憧れの対象と言っても過言では無い存在です。
あと何とは言えませんが変身する少女の歌において氏の右に出るものはいません。そんな方と同じコンテンツで作詞させて頂くのです。誰か助けてください。
閑話休題、こうなった以上私に求められるのは「マイク先生と違ったテイストの詞」です。
マイク先生っぽい作詞を私が真似るのは全く意味がないというか技術的に不可能なので、私なりの切り口で、なるべくマイク先生がやらなさそうな邪道をやる必要があります。
作詞の問題②:ミオのコスプレ観
ということで、とにかくガチで詞を書かねばなりません。
なるべくありきたりにならないよう、キャラクターにそぐわないものにならないよう、設定やWebアニメの脚本を読み込みました。
そこで、ある事に気がついてしまいます。
キャラクターソングはなるべく本人の思いを代弁した歌詞が良いと思ったので、今回もミオにしか歌えない曲に出来ればと思いました。
ところが、ミオが何故コスプレの道を選んだのか、具体的に『魔法少女アルカナウム』のどこに惹かれたのかが、Webアニメの段階ではまだ明らかになっていないのです。
作中でミオが自身の衣装の出来やコスプレの技術向上について熱弁するシーンこそありますが、それ以降、特に『魔法少女アルカナウム』という「推しそのもの」について語るようなシーンはありませんでした。
※一応「憧れている事」自体はちゃんと言葉にしています。(6:21〜)
なので、ここは代弁というよりミオのオタク性を補完するような楽曲にする方が良いかなと思いました。
具体的には「推しへの愛」「コスプレへの愛」を前面に押し出した内容であれば、もっと共感を得やすいキャラクターになるかもしれません。
作詞の問題③:コスプレ知識の欠如
3つ目の問題なのですが、これが特に重大です。
それは私がコスプレ界隈に属していない事です。(これを読んでいるコス界隈の方本当にごめんなさい。)
コスプレの楽しさとは何なのか、キャラクターになりきるとはどういう事なのか、自力で訴える手段がありません。
おまけにこれからコスプレを始める余裕も、実際のコスプレイベントに参加する時間も、コスプレ界隈の友人などの繋がりもありません。
唯一の救いになりそうなのは、私がVRChatをやっている事でしょうか。
自分の理想のキャラクターの3Dモデルを作って、トラッキング機材で動かして、仮想空間で撮影や交流をする…という比較的コスプレみたいな活動はしてはいるのですが、共通点があるだけで文化としては全くの別物です。
だいぶ詰んでいますが、とはいえ勉強すらせずに想像だけで書いてしまうのは世のコスプレファンに極めて失礼です。
とりあえず出来ることとして用語を検索して調べ、それが実際に調べた通りの意味で今も使われているかをTwitterで確認しました。
言葉には文化が宿りますので、これだけでも少しコスプレ界隈の片鱗に触れる事が出来たような気がします(気がするだけの可能性もある)。
これで足りない分は、界隈という概念より大きなカテゴリ、オタクの大いなる共通意識を降臨させて書くしかありませんでした。これを読んでいる皆さんもおそらく加入しているものと思います。
すでに主語がデカいですが許してください。
…
前置きが長くなりましたが、ここから曲の解説に入っていきます。
タイトル「マジカル☆アイデンティファイ〜3・2・1の魔法〜」について
まずはタイトルから見ていければと思います。う〜ん長い。
目標として、一目見ただけで魔法少女だと分かるタイトルにしようと思いました。
タイトルはサビメロと同じぐらい重要な楽曲の顔だと思っています。キャラソンの場合、曲のテーマだけでなくキャラクター本人をも表すことがあります。
次に意味について。
マジカルはそのまんま「魔法のような」、アイデンティファイは「確かにその人であること」を表す英単語です。
ミオが憧れの魔法少女と同一になれるように、そして(後の解説と被りますが)コスプレ衣装を着ることは自分を隠すことではなく、むしろその姿こそがその人たりえるんだという意味を込めています。
そして「〜3・2・1の魔法〜」というサブタイトル(?)。
この「3・2・1」はサビに登場する「三秒」というフレーズに関わってきます。
「三秒」とは、コスプレ界隈でいう「はいチーズ」のことです。
この言葉を通じて撮られた写真は、その人がコスプレ界隈に生きた一瞬を切り取ったものです。
ミオにとってコスプレは人生を変える「魔法」そのもの。つまりコスプレという世界そのものの礼賛の意味で、曲中を通してこのフレーズを採用しています。
不思議の針が示す「オープニング」
こちらはイントロのフレーズですね。
ダンスムービーでは、この「不思議の針」というフレーズに合わせて、左手で時計の針が動くかのような振り付けが入っています。
これは正しく、今まさにミオによって「魔法をかける時間」が始まろうとしていることを表します。
しかし、コスプレ界隈にはもうひとつ「針」があります。なんでしょうか。
それは「裁縫針」。この歌詞は「時計の針」と「裁縫針」のダブルミーニングになっています。
その裁縫針が示す先にあるもの、言わずもがな魔法をかけるための「コスプレ衣装」でしょう。
そして曲は「最高のオープニング」へと向かいます。
ここのメロディですが、サビメロの一部として曲を通して4回登場します。
それぞれの歌詞は以下のようになっております。
リバーサルとは「どんでん返し」という意味です。
これら4つは、物語作品には欠かせないものを表しています。
最高の「オープニング」が始まり、ストーリーが動き始め、奇跡のどんでん返しが起こり、人々の記憶に残るフィナーレが待っている…
そうです「起承転結」の事ですね。ミオであれば『魔法少女アルカナウム』に向けた、オタクなら誰しも持つであろう作品愛を表現しています。
息苦しい世の中に立ち向かうには
先方から提案されたイメージの一つとして「現実はどうしようもないけど…」というものがありました。
個人的にはミオはそんなに現実逃避してる印象がないのですが(まだ深掘りされてないだけかも)、もしかしたら日々「現実はクソ」と呟く我々オタクと同様にどうしようもない現実と戦っているのかもしれません。
ということで、それをミオ風に言うとどうなるか考えました。
戦うのが人々に安心を与える魔法少女なら、敵たる現実はまさに不安という名のモンスターのようなものだと例えられますベタだな。
そして魔法少女は基本コスチュームを着ていない時は(バトルシーン的な意味で)戦っていません。
ミオにとってコスチュームは戦闘スーツそのもの。それがあることで初めて戦えるのかもしれません。
推しはそんなこと言わない
ところが私の推しはそんな事で弱音を吐きません。「解釈違い」の柔らかい言い方です(?)
そんな強い推しを思い浮かべる事で、憧れる事で、ミオはさらに推しに近づくためにコスプレへの意欲が湧きます。そして現実に立ち向かうための勇気が湧いてきます。
それが変身パワーです。
ちなみに「推し」と書いて「キミ」と読みます。憧れのマイク先生はこんなゴリ押しルビしません。
なお、ここのメロディは8分音符主体のAメロとうってかわって、16分音符を多用した早口な印象になっています。
これはミオの「好きな事になると饒舌になる」という性格を反映しています。
身に纏うのは「本当の自分」
前半についてはタイトルの項でおおよそ解説したので省きます。
後半の歌詞ですが、これはちょっとVRChatの経験からも書いています。
コスプレであれメタバースであれ、キャラクターの姿になる事は、自分の趣味を共有する手段の一つだと思っているからです。
私はゆるキャラみたいなシンプルなマスコットが大好きで、VRChatでもそんな感じの姿でいることが多いのですが、
そこでは同じキャラクター趣味をもつ友人と互いの姿を褒め合ったり、とても楽しく交流しています。
そこに嘘偽りも、趣味を隠す事もありません。ありのままの自分で人前に曝け出しています。
コスプレ界隈の方も、推しへの愛やコスプレ趣味の「共有」を目的に活動されている方も多いと思います。
それもおそらく、嘘や隠し事とは全く異なるものだと思います。
ちなみに「聖衣」と書いて「フォルム」と読みます。憧れのマイク先生はこんなゴリ押しルビしません。
謎の呪文について
実際にはオリジナルの魔法文字フォントを作って提出しました。魔法少女の唱える呪文がカタカナ表記で良いわけが無いですよね。
この謎を解く前に、先に作編曲について触れます。
呪文パートが終わった後、曲中では爆発音のようなものが鳴ります。
この呪文がその爆発音を引き起こすトリガーであり、ミオが呪文を使って何かと戦っている事が分かります。
その相手こそ、先述した「不安のモンスター」です。
ミオはこの呪文を使って、現実の不安という強大な敵と戦っているのです。
さて、そんなミオにとっての武器となりえる呪文の正体はなんでしょうか。
それを紐解くために、まずは例として一行目に使われている単語を書き出してみます。
これらをローマ字に直すとこうなります。
そして逆順に並び替えます。
その手の造詣が深い方はもう気付かれたかもしれません。
最後にわかりやすい表記に直しましょう。
そうです。これら全てコスプレ界隈用語の逆再生になっています。
詳しい意味は割愛しますが、この調子で残りの単語を翻訳すると以下のような歌詞になります。
先ほども書きましたが、言葉には文化が宿ります。
ミオはコスプレ文化を呪文という言葉にして、己の武器としている訳ですね。
好きを信じる思い
なんとなく感じ取れる人もいるかもしれませんが、ここにはあまねくオタクが心に留めておきたいメッセージを込めています。
それはズバリ「界隈外から地雷と言われても気にしない」です。
主観になってしまい恐縮なのですが、コスプレ界隈は特にその逆風に晒されがちなイメージがあります。
オタクの中には三次元コンテンツに若干厳しい人もいます。活動していてうっかりそういう人の目についてしまったコスプレ界隈の方もいるのではないでしょうか。
ですが、臆することはありません。推し作品でもコスプレそのものでも、好きな物事を信じていれば、そんな声に負けないほどの勇気が湧いてくるものです。
そんな界隈への応援をこの歌詞に込めています。
ミオが踏み出した一歩
3行目の「まだ一枚の布」という言葉、これもコスプレ用語の一つからきています。
「まだ布」といえば、素材がまだ衣装の形になっていない…つまり「進捗がまだない様子」を表します。
作品テーマとリンクした話になりますが、ミオは憧れの推しに近づくために、初めてポールダンスというものに触れます。
それは彼女にとってはまだ小さな一歩ですが、これからコスチュームを身に纏った魔法少女として現実を飾りつけていく、大切な一歩であると言えます。
覚醒する魔法少女
ここから数小節ほど間奏が入ります。
ここの間奏ですが、もしかしたら聴いてて「あれっ?」と思った方もいるかもしれません。
3:01から約10秒間、メインとなる楽器が不在の区間が存在します。
分かりやすく言えば、編曲的にまだギターソロとかを入れる余裕があります。
それが入っていないのは何故でしょうか。
実は、当初はここにもうひとつ別の音が入っていました。
それは魔法の効果音です。曲じゃなくてゲームとかに使うやつです。
これについて先方から「アイデアは良いので一旦抜いた状態で音源が欲しい」という返事を頂き、なるほどあとでダンスに合わせてMAで乗せるのかなと思ってたら無かったのですが(仕方ない)、問題は何故そんな効果音を入れていたのか。
それはこの間奏とCメロが魔法少女のバトルシーンを表現しているからです。
2サビ後、ギターの力強い刻みが4小節続きます。
一見ミオのキャラクター性からは乖離したサウンドに聞こえますが、これは魔法少女作品におけるモンスターの出現シーンのBGMをイメージしています。
その後、ミオは6小節の間奏をBGMに魔法を駆使して戦います。
その後の必殺技直前のセリフみたいな言葉。
曲も終盤に近くなって、ミオはいよいよ魔法少女として覚醒します。
ちなみにここは臨場感を出すために「収録の一番最後、小倉唯さんが一番消耗してる状態で歌って欲しい」という要望を出したので多分そうなっていると思います。(いなかったのでわからない)
願望を現実に
ミオは魔法少女として覚醒したので「魔法をかけられたら」という願望が「魔法をかけちゃいます」という能動的なセリフに変わっています。
ポールダンスを通じて、ついに夢を実現します。
とはいえ、エネルギーは有限です。勇気や自信がなくなることも、挫けそうになることもあると思います。
そんな時、推しを思い浮かべることで、そのエネルギーをチャージすることができる…それこそがオタク活動の素晴らしいところなのではないでしょうか。
この曲はここまで。
次回は『リメイン』の解説をします。これまでの曲と違い作曲者は別の方なので、作詞のみのお話となります。