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NHKのIBM提訴で思うこと、陳腐化したレガシーシステムの請負は難しくなってきている
先月ぐらいにNHKがIBMのシステム開発遅延を提訴していましたが、先日IBMからリリースが発表されていました。
事案の概要は以下。
NHKがシステム開発を委託していた日本IBMに対し、開発の遅延による契約解除に伴い計約55億円の代金の返還と損害賠償を求めて東京地裁に提訴した係争事案
IBMのリリース内容は以下。
<現行システムの解析を進める中で、提案時に(編集部追記:NHKから)取得した要求仕様書では把握できない、長年の利用の中で複雑に作り込まれた構造となっていることが判明したため、当社はNHKに対し、解析の進捗状況、課題およびそれに対する対応策を随時報告し、共にその対応を検討してまいりました。こうした中で当社は、同システムを利用する業務の重要性も鑑みて、NHK指定の移行方針による2027年3月までの安全かつ確実なシステム移行にはリスクを伴うことを伝えてまいりました。そして、2024年5月に、従来の納期のもとで品質を確保した履行は困難であることを報告し、取りうる選択肢とそれぞれの利点およびリスク等を提示いたしました。 NHKは、これをふまえて契約を解除することを決定されました>
<当社は、これまでの解析・調査結果等をふまえて、より確実な移行方式の実現に向けた建設的な協議の開始について、2024年の夏以降、先月に至るまで幾度も申入れてまいりました。しかしながら、NHKは、協議の開始に応じることなく代金の返還と損害賠償請求を主張するにとどまり、この度当社に対し訴訟提起したことを公表されました>
開発は営業基幹システムの刷新案件
対象のシステムは営業基幹システムの開発・移行のようです。
想像するに、レガシーな期間システムを新基盤で作り変える案件だと思います。
大体のレガシー基幹システムはフルスクラッチでCOBOLとか使われていて、業務に合わせた細かい改修が長年行われ続けています。そして、ドキュメントは残ってなくて、仕様を抑えている技術者もいなくなっているというのが大概です。
NHKからの要求仕様には表れてない仕様が発覚してきて、スコープクリープして失敗したという感じですが、背景には上記のような状況があるのかと思っております。
大概のレガシーシステムは請負が難しい状況
私が携わっているシステムもそうですが、大概のレガシーなシステムは以下のような状況に陥っています。
業務に応じて暫定対応含めた細かい改修が積み重ねられている
設計書など、システムを把握するためのドキュメントがない。または、陳腐化している
それを知っている技術者もいなくなってきている
ベンダーの立場だと、上記の状態での請負はリスクが高すぎる状態。発注元としても現状を提示することは不可能かと思います。
ただ、大企業は請負体質なので、要件定義の中で設計書はあるとか、それっぽい要求仕様で請負を要求してきます。
そして、蓋を開けると隠れ仕様が沢山あったりして失敗することがよくあるかと思います。
昨今のシステム開発自体、請負をなくすべきだとも考える
レガシー基幹システムもそうですが、昨今は世の中も動きも早くAI技術なども日に日に動きがある状況です。
開発もフルスクラッチは少なくなってきていて、クラウドサービス、パッケージ、ライブラリ、フレームワークなど何かしらの上に作っていく形になっていますし、複雑化してきています。
そんな中で事前に影響を見切って仕様を変えずにウォーターフォール開発するのは難しくなってきているし、流動的に開発するためにフロント系は特に価値を重視するアジャイル開発が主流になっています。
こういう中だと請負契約を適用できる事案は減ってきているし、もう全て準委任にしていく、または、内製化していくべきでないかと思っています。
発注元からすると予算管理の面から請負にしたいのはわかるけど、逆に良くないものができてしまったり、変更管理が多く管理費やコストが嵩んだり、デメリットも多いかなと。