犬初心者、保護犬を飼う(後編)
2023年はなんだかんだ忙しい1年だった。
なんか振り返る余裕もあまりなかったけど、2023年4月に引き取った保護犬のらいぞうについて振り返ろうと思う。
犬初心者の方や犬との暮らしを想像したい方は読んでみるとなにか発見があるかもしれない。
前回の振り返り
前編を見ていない人に、ざっくり要約を書く。
ある男がアニメ「スラムダンク」を見すぎた結果、犬と海岸でバスケをする夢を見た。小学生の頃に動物が好きだったことを思い出し、柴犬を飼いたいという夢を持つようになる。
犬初心者ながらも真剣に柴犬を買う計画を立て、ペット可の賃貸を借りたり、ペット業界の闇に人間不信になりながらも、保護犬団体「Dog Cat Rescue Anela」(以下アネラ様と書く)に出会って、柴犬のライナスを引き取る決意を立てた。
というのが前編でのお話だった。
立ちはだかる壁、壁、壁
柴犬のライナスを引き取ろうと決意したのだが、私の前に立ち塞がったのは保護団体アネラ様の「譲渡基準」である。
保護犬猫業界では「譲渡基準を満たすのが難しすぎる」という声をよく聞く。あまりに難しいので、飼うための基準がほぼないようなペットショップで飼う、という人もいるくらいだ。
だいたいよくある譲渡基準はこんな感じだ。
ペットを飼うなら当たり前だろうと思えるものもいくつかあるが、この基準を全部満たせるのは下記のような里親候補に限られるのではないだろうか。
この譲渡基準は難しすぎるように見えるが、巷でよく聞く飼育放棄理由はこんな感じだろう。
こういった飼育放棄を回避するためにも、この譲渡基準は妥当にも思える。そして、譲渡基準の壁をクリアしたとしても更に大きな壁がある。
それは「保護団体との信頼関係」である。
保護団体は経済的に余裕がない中でも、たくさんの犬猫を保護して毎日ケアをしている。なので、虐待やネグレクトをせず、終生飼育の約束ができて、ホウレンソウもちゃんとする里親候補に譲渡したいと思うのは当然である。
さらに柴犬というクセのある犬種を扱うため、彼らの特性を理解しながら、うまくしつけができる里親に渡したいだろう。
どうやって信頼を得るか
私は単身で犬の世話をする、という懸念事項はあるものの
リモート勤務で、ペット可の賃貸も手に入れて、比較的元気いっぱいである。幸運なことに、保護団体アネラ様の譲渡基準に引っかかるものはなかった。
(譲渡基準のギリギリのラインにはいると思うが)
ただ実際にこの男に譲渡するかどうかは難しい判断になるだろう。
ちょっと考えてみてほしい。
ポッと出の犬初心者がろくな知識も経験も持たずに「柴犬を飼いたいです」と申し出てきたとする。
保護団体側の立場として、懸命に保護してきた黒柴ライナスをこの初心者に譲渡するだろうか?
結構難色を示すに違いない。私はそう思う
そんな状態になることは正直予想していたので、譲渡を成功させるためにある対策を講じた。その対策というのは
「飼いたい情熱を素直に全部話す」ということである。
とてもシンプルだがこれに尽きる。
私はアネラ様とのやり取りで、柴犬ライナスを飼いたい理由を
「なぜ犬を飼いたいのか」
「なぜ柴犬を飼いたいのか」
「なぜその中でもライナスを飼いたいのか」
という感じにブレイクダウンして全部伝えた。この記事の前編で書いたような私の人生の考え方や相手の聞きたい質問も全部直球ストレートに全部話した。
今思うと、自分の気持ちを全部話すというのはすごく恥ずかしい。
しかし、保護団体の方は私以上に保護犬猫の闇を知っているだろう。
ペットを飼育放棄してきた人間のエゴ、金儲けの手段として「保護犬」というワードを使って生体販売をしている業界の闇も知っているだろう。だからこそ、私は嘘偽りのない言葉で話すことに徹することにしたのである。
最初は「人間不信の壁」みたいな距離感を感じていたが、会話を続けていくごとに信頼してくれるのを感じた。
そして、最終的に「2週間トライアルとしてライナスを引き取って様子見をして、問題なさそうならばそのまま譲渡する」という流れになった。
受け入れ準備
柴犬ライナスは良い子すぎたので「他の里親候補に取られたらまずい、早く引き取ろう」と思った。なので、譲渡の話が出た週の土日には譲渡していただこう、という温度感で話を進めた。
まず最初にクリアしたかったのは不動産管理会社への連絡。
ペット可物件とはいえペットを実際に飼う前には管理会社に説明が必要になる。すぐにペットを飼いたい旨を伝えて、電話で管理会社と会話した上で承諾いただいた。
次にペット関連グッズである。ひたすら時間がなかったので、近くのペットショップへと向かった。
ペットショップの大変お優しい店員さんに
「土日で柴犬を買うのでおすすめのグッズ一式を教えてください」と懇願した。めちゃくちゃ驚いた表情をされていたのが、懐かしく感じる。
今でもサイズをちゃんと把握しないままショップに突撃したのは、良くなかったと反省している。この時サイズが小さいクレートを買ってしまって、今ではお蔵入りとなっている。
ただそのペットショップの方とは、今も仲良くさせていただいている。
さぁ準備万端、どんとこいと思ったのも束の間。
「どうやって柴犬ライナスを運ぶんや」ということがすっぽり抜けていた。
犬は電車で運べるやろ、と安易に思っていたがアネラ様からは「絶対車で来た方が良いと思います」と言われてしまった。
泣け無しの金でタクシーで行くということもできたのだが、グッズにお金を使ったのでセーブしたいと思った。
そうだ、レンタカーを借りて私が運転するという手段も取れる。
いや、私は生粋のペーパードライバー(ゴールド免許)
泣ける話である。
こういう時に頼りになるのが、友人である
(都合の良いように利用して非常に申し訳ない)
色んな友人に声をかけて、最終的には大学で結構な時間を共にした親友に懇願してOKをいただいた。恐ろしく懇願するのが得意なこの男。
レンタカーを借りて、ライナスをお迎えすることになった。
譲渡当日
譲渡(トライアル)当日、レンタカーを借りた後に千葉県流山店のアネラさんへやってきた。
諸々の説明を聞いたり、ペット保険なども一応入った。
そして、ついに柴犬ライナスを私が持ってきたクレートに入れる。
「うーん、ちょっとクレートのサイズが小さいけど持っていけるでしょう」
アネラさんから不安になる言葉をいただいたが、もう私はやるしかない。
ラブリーで小さいライナスをケージに入れた後は、なんだか非常に重かった。ライナスは7kgくらいなので持てるのだが、このクレートの中に一つの命があると思うとすごく重かった。
レンタカーでライナスを我が家に連れていく時間で、大学の友人と久しぶりに色々と話した気がする。
なんとその友人、結婚して大切な人ができたらしい。
大学時代の結構な時間を過ごしたのだが、距離感を感じるのはしょうがないことだった。なんだか久しぶりすぎて、ちょっと恥ずかしかったけど幸せそうでなによりである。
友人は結婚して、私は新たな命を迎える。
友人も結婚という意思決定をするときには、色々と思い、悩み抜いてきただろう。意思決定に至るまでの時間というのは非常に尊いので、全部聴きたくなる。
だけれど、それは今ではない気がした。
いつか答え合わせしようと思った。
色々と友人とエモい話をたくさんしていたら、あっという間に我が家に着いた。ライナスと共に我が家に着いて、組み立てたケージにライナスを入れた。
「ふぅ、これから1人と1匹の生活が始まる...」
そんなエモいひと息をついた瞬間、ライナスくんは盛大にやってくれた。
う◯ちである。
これは、犬初心者への手厚い洗礼である。
「私をナメるなよ」ということだ。
まぁレンタカーでやらかさなくて良かった。
お腹も空いているだろうといって餌をあげたら、ものすごい勢いで食べていた。アネラ様からは新しい環境で緊張してあまり食べないかも、と言われていたのに...
さすが私が選んだ柴犬である。
そこまでストレスを感じている様子はなさそうなので、最初の関門はクリアした気がする。
大学の友人は、ライナスの粗相に笑いながらも、途中でバイバイした。
ありがとう、友よ
これから2週間のトライアルが始まる。
私とライナスのトライアル
やはり一緒に暮らしてみると色々とわかってくる。自分がいかに無知かわかってくる。
わからない行動はひたすらググる、それの連続だった。
気づいたこと、気になることはどんどんメモしていった。
こんな感じである。
こんな感じで、犬の習性を勉強しつつも結構楽しんでいた。私はやはり動物好きである。
だが、そんな私が特に苦心したことがある。それはトイレである。
こんなにトイレができないとは想像できなかった。
本によると、柴犬は自分のテリトリー内では極力おしっこ、うんちはしたくない習性らしい。だが来てしばらくは我が家をテリトリーと思っていないのか、いろんなところにおしっこしていた。
おしっこの場所の傾向をよく分析したところ「物にぶっかける」という傾向があるらしい。
「よし、謎は解けた」
私はぶっかけやすそうな犬のぬいぐるみとトイレマットなどを置いて待ち構えた。しかし、私の分析通りにはいかず、絶妙に外したり立ちションしたり傾向を変えてきたりして私を錯乱させた。
毎朝起きると、おしっこの匂いがする。
最初は多めに見ていたのだが、流石に傾向がわからなすぎてブチギレそうになる日もあった。
トイレについては、思った以上にアンガーマネジメントが大変だったと思う。暴力はしなかったが、結構手が出る寸前で抑止していた気がする。
まぁこんな感じで、トライアル期間は私の許すこと/許さないこと、犬の許すこと/許さないことをお互い理解する期間であり非常に有意義な時間だったと思う。
トイレが絶望的にうまくいかない以外は、本当に暮らしやすい良い柴犬と思った。もし私に対して吠えたり噛むような犬だったら、ギブアップしていたかもしれない。
人生を一緒に歩むパートナーとなる
トライアル9日目くらいにはもう「ライナスは私が引き取る」という決意が芽生えてきた。
その頃にはアネラ様に引き取る連絡をして、正式にライナスを譲渡されたのだった。
色々とあったけど、なんだかヌルッとトライアル終了となった。
トライアル終了ということで、ライナスを引き取った時からずっとつけていた赤いハーネス(胴輪)を外した。
そして、正式に所有権は私に移ったので「ライナス」という名前とは、サヨナラすることになる。
そう、私がこの子に名前を付けて良いのである。
生き物に名前をつけるのはこの時が生まれて初めてなので、めちゃくちゃ悩んだ。しかし、私は彼に「らいぞう」という名前をつけることにした。
元々発音しやすい名前にしたくて、「カイ」とか「ダイ」みたいな「ア段+イ段」のものを付けたかった。偶然「ライ」という名前を持っていたので、それをそのまま引き継いだ。
「ぞう」の部分は、和犬なのでなんか古風な名前にしたかったので付けた。
名前の付け方が深いのか、浅いのかわからないけど、今でもこの名前はしっくり来ている。
ただ、この名前を聞いて友人からは
「ワンピースで裏切ったやつじゃん」とか散々言われたが、無視した。
あっちは「雷ぞう」である。
石川県の金沢にも偶然にも黒柴ライゾウというご当地キャラがいたが、こちらも無視した。あちらは「ライゾウ」で、こちらは「らいぞう」なので、そこで差別化?したいと思う。
2023年5月9日にトライアルを終了して、この日から正式に私の人生を一緒に歩む「らいぞう」という相棒ができた。
らいぞうへの感謝
今思うと、譲渡前後は慌ただしい日々を過ごしていたなと思う。
らいぞうと暮らして、9ヶ月くらい経ったのが今である。
この時点でも、らいぞうはいろんなものを私に教えてくれた。
らいぞうは信頼関係の重要性を教えてくれた
人との信頼関係ができて、犬は初めて人の言うことを聞いてくれる。人と人の関係においても、これは同じだと思う。ただ「これをやれ、あれをやれ」と一方的に言うだけでは誰も言うことを聞かないだろう。
アネラ様が私にらいぞうを譲渡してくれたのも、私が仕事をいただいているのも全部信頼関係があるからである。裏切らないように日々誠実に暮らしていきたいと思う。
らいぞうは愛を教えてくれた
私には仕事やプライベートの友人などの人間関係があるが、らいぞうはほぼ飼い主との関係しかないだろう。仕事中とかで私が相手をしてあげれない時もただひたすら私のそばにいて、眼差しを向けてくれる(大半寝てるが)。
重すぎる愛かもしれないが、これだけ自分に真っ直ぐな愛を向けてくれる存在はらいぞうしかいないだろう。私がマッサージをしている時の気持ちよさそうな顔とか、ポーカーフェイスでこちらを見てるのとか、全部可愛くて癒される。愛である。
らいぞうは私を外に連れ出してくれた
らいぞうを迎える前は毎日平均3000歩くらいしか歩いていない陰鬱腰痛おじさんだったけど、散歩のおかげで平均8000歩の健やか普通お兄さんになった。散歩は全てを解決するといっても過言ではないだろう。
散歩をしていて近所の人やペットを飼っている人と話すようになった。動物病院とかドッグランとかペット可のホテルとかたくさんの異世界にも連れ出してくれた。外に行く機会が増えて自分の笑っている時間が増えているのを感じる。
これからも、らいぞうには頭が上がらないだろう。
おわりに
この記事ではらいぞうとの出会いや経緯を中心に書いてきた。
保護犬や保護猫、殺処分されている犬猫などはまだたくさんいる。
残酷な現実や目を背けたくなる事実もあるけれど、少しでも興味を持ってくれたら嬉しい。
話し足りないもの、もっと説明したいものもあったけれど、それは別の機会にしようと思う。
最後に、らいぞうのインスタやYouTubeもちょっとやっているので
興味があれば、ぜひフォローしたり登録してくださると嬉しい。
長い記事だったが読んでいただきありがとうございます。