別れの日は晴れた日がいいだろう 4
「嬉子さん。」
「あら、俊春さん。中学の帰り?」
「嬉子さんこそ、高女の帰りでしょう?」
「ええ、俊春さんは剣道部でしょう。その帰り?」
「そう、本当は文芸部に入りたかったんですけどねえ。このご時世、男たるもの文学なんてけしからん。おまけにちょいと尖ったことでも書けば、お上にたてつく思想犯になりかねませんからね、とっくになくなってしまいましたよ。文芸部なんて。文武両道が我が中学の謳い文句だったはずなんですけどね。だいたい、剣道部の活動だって、今じゃ芋掘りなどの畑仕事だし。」
「…本当に俊春さんは国民学校の頃から変わらないわね。非国民だって特高警察に引っ張られても知らないわよ?」
「…この戦況じゃ、じきに終わりがくるでしょう。イタリアも降伏したし。もがっ。」
「それ以上言ったら本当に危ないわよ。命が…それに、あなたのお父様は足がお悪いから赤紙も来ないけれど、私の兄さん達のことを考えて。お国のために戦ってるのよ。信一兄さんは…もう…」
「…申し訳ありません。口が過ぎました。」
私は涙をふいた。
「いいわね、俊春さんは。」
「え?」
「いつもひょうひょうとしていられて。」
うらやましい。