別れの日は晴れた日がいいだろう 2

そんなじじいにも、知り合いというものはいたんだな。七十七年という人生の間に。
ぞろぞろと告別式にやってくる、参列者の人達。
「まあ、田中さんにこんな大きいお孫さんいたの。」
あら、良かったわねぇ、と口々に言う、じじいの学生時代の級友のおばあさん達。
「何がいいんだろうね。」
明がぼそっ、と言った。
「さあね。」
お年寄りの言うことなんて、四捨五入して、二十代のあたし達になんてわかるわけないじゃない、と思ったけれど、口に出すのも馬鹿馬鹿しい気がして、何も言わなかった。
着なれない喪服。疲れる参列者の人達への対応。ああ、肩がこる。
なんであんなじじいのために、こんな思いをしなければならないんだろう。
いらだたしい気持ちと共に、ため息が出た。
「姉ちゃん、俺、しばらくここにいるからちょっと自分の部屋に戻ってれば?」
さすがわが弟。気がきく奴だ。
「サンキュ。じゃ、ちょっと休んでくる。」
じじいのお父さん…ひいおじいちゃんは、元々、この地区の地主だった。だから、うちの敷地はけっこう広い。庭に池があるくらいだ。
廊下を歩いていると、窓越しに、一人のおばあさんが、池のふちにしゃがんでいるのが見えた。
…何してるんだろ、みんな広間に香典とかお焼香してるのに。
二階に上がって自分の部屋のベッドに、横になったら、どうやら眠ってしまったらしく目が覚めると、夜だった。

小さい頃、じじいがこわかった。
「勝手に部屋に入るな。」
じじいは、いつだって不機嫌で、ずっと机に向かって、なにかを書いていた。明に対しても態度は同じで、明は小さい頃、わんわんいつも泣いていた。
あたしは明に言った。五歳くらいのときだったと思うけれど、三歳くらいの明に向かって、
『おじいちゃんは本当のおじいちゃんじゃないんだよ。本当のおじいちゃんは別の人であの人はおじいちゃんじゃないんだよ。』と。
本気でそう思っていた。しかし、じじい…田中俊春は、紛れもなく、あたしの実の祖父であり、おまけにあたしの名付け親なのだった。
あーあ。


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