【コスプレイヤーの世界】Z世代のソーシャルメディアスター
1980年代頃に日本で誕生したとされる「コスチュームプレイ」(costume play)はニッチなオタク趣味として見られていました。しかし、現在では「コスプレ」(cosplay)として定着し、世界でポップカルチャーとしての地位を確立しています。
中でもトップのコスプレイヤー(cosplayer)はインフルエンサーとして確固たるソーシャルメディアスターのポジションを築いています。コスプレカフェの一種である「メイドカフェを文化にした者」(以前の記事『【メイドカフェ】を文化にした者からオタクへの密命』を参照ください)としてはよろこばしい限りです。
今回、取り分け感慨深かったのはコロナ禍でもたくましく収益を上げるプロのコスプレイヤーの姿を『Insider』が先月(2021年10月)の記事で特集し、その記事を引用して『Business Insider』Twitterアカウントが異例の13連投Tweetを行ったことです。
世界的大事件でも『Business Insider』が13連投Tweetすることなんてまずありません。『Insider』の記事タイトルはロングで「Cosplayers — once relegated to the niche world of comic conventions — have transformed themselves into brand influencers, and are raking in thousands, and sometimes millions, in the process」(2021年10月1日付)です。本稿では当該記事をざっくりと紹介しつつコスプレイヤーという職業を概観したいと思います。(尚、本稿では敬称などを省略することとします。)
コスプレ市場規模の拡大
Allied Market Researchのレポートによると去年(2020年)の世界のコスプレ市場規模は46億2,000万ドルと推計され、さらに2030年までには230億ドル規模に達すると見られています。
コロナ禍でもコスプレ市場規模は拡大しており、記事で紹介されている5人のコスプレイヤーのうちコロナ禍で収入が減ったのは1人だけでした。
世界コスプレイヤーの頂点「えなこ」
まず記事で紹介されているコスプレイヤーは世界コスプレイヤーのトップとしてもちろん我らが「えなこ」(Enako)です。記事構成は「えなこ」とプロとして活動する4人のコスプレイヤーという形になっています。
「えなこ」の他に活躍する4人のコスプレイヤーとして紹介されているのはマレーシアの「Hakken」(八犬)、シンガポールの「Rithe」(莉提)、同じくシンガポール「Yosuke Sora」(ヨスケ)、American-Chineseの「kiyo」(키어)です。
Hakken 八犬
マレーシア在住のHakken(23歳)は13歳のときにコスプレを始めましたが、本格的に活動を仕出したのは3年ほど前からです。『NARUTO』うちはイタチのコスプレで一躍脚光を浴び、今ではInstagramのフォロワー数は285万人を超えています。
"My career kicked off when I posted a photo series of myself as Itachi Uchiha, from the animated series 'Naruto.' That's when I started to see my social media following grow."
"I've also defined my style of cosplaying. Instead of just trying to re-create a two-dimensional animation, I dial down the makeup and try to look as natural as possible, while re-imagining what the character might look like in real life."
Hakkenはコスプレ衣装に通常100ドルから500ドルをかけます。最も費用がかかったのは『ジョジョの奇妙な冒険』ブローノ・ブチャラティのコスプレをしたときで、実際にイタリアへ行って撮影し、衣装製作と旅費を含め総額で25,000ドルを費やしました。高額な投資ですが、投資以上のリターンがあると言います。
平均的な月の利益は5,000ドルから6,000ドルですが、商品販売やブランド取引で多いときには2万ドルから3万ドルの収入があるとのことです。
"It's possible to make cosplaying your full-time job even during the COVID-19 pandemic," they told Insider. "But you've got to have the mindset that this isn't just something you do for fun. It's a business."
また、Hakkenはファッションにも進出し、「SIXTYPERCENT」や韓国ブランド「TWENTYONEAUGUST」とコラボでジュエリーラインを立ち上げています。
Rithe 莉提
シンガポール在住のRithe(24歳)は精巧なコスプレ衣装製作で知られるようになりましたが、彼女だけはコロナ禍で収入を落としました。以前なら週末のコンベンションで2,000ドル程度を稼ぐことは珍しくありませんでしたが、コロナ禍での月収は2,000ドルから3,000ドルとのことです。
Yosuke ヨスケ
シンガポール在住で20代前半のYosuke Sora(Yosuke ヨスケ)はPorsche(ポルシェ)やSkechers(スケッチャーズ)などのブランド広告モデルを務め、コロナ禍においても四半期で1万ドル近い利益を上げています。
kiyo 키어
American-Chineseのkiyo(24歳)はコロナ禍をむしろコスプレイヤーとして活動する好機だと捉えています。PatreonやOnlyFansのサブスクリプションやコンテンツ販売に加え、Twitchで『Overwatch』や『VALORANT』のゲーム配信を行い、SecretlabやRazerをスポンサーとして商品をソーシャルメディアで紹介するなど毎月約6,000ドルの収入を得ています。
オンライン活動へのシフト
コロナ禍でコスプレイヤーの活動もコミケやコミコンなどのリアルなイベントからオンラインへのシフトが進みました。リアルなイベントは減ったもののPatreonやOnlyFansなどでのサブスクリプションが定着し、むしろ収入のベースは安定したと言えるかもしれません。
世界のコスプレ市場規模が拡大傾向にある中、リアルなイベントが復活すればリアルとオンラインの両輪が揃い、ビジネスに好循環が生まれることが予想されます。
また、Patreonが独自に動画をホストできるプラットフォームを構築していることから、サブスクと親和性が高く、YouTubeに制約されない自由度をクリエイターとして享受できるかもしれません。そのときコスプレイヤーは新技を編み出すことができるのか興味があります。
コスプレイヤーというお仕事
コスプレには単なるオタク趣味にとどまらず、コスプレイヤーという道が世界に開かれています。現在では世界がコスプレを文化として受容するに至りました。まだまだコスプレイヤーとして生活できる人はほんの極一部ですが、彼らと彼らに続く者たちが今後どのような展開を見せてくれるのか楽しみです。