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髭男に見る、「歌詞」が担う役割

 前回、年間ベストアルバムの記事を投稿しました。

 その中で、ヒゲダンことOfficial髭男dismについて、『複雑なメロディに対して、耳にスッと入ってくる最適な歌詞の選び方がすごい』ということを書きました。

 そこで今回は、一例として髭男の「ペンディングマシーン」という楽曲を参照しつつ、音楽において「歌詞」が担う役割について、少し掘り下げていければと思います。

1.歌詞をどれくらい気にするか?

 音楽を聴くときに何を重視するかというのはよくある議論ですよね。

 メロディ、リズム、音色など、音楽を構成する要素は様々で、その中で何を重視するかというのは人それぞれ違います。

 その中で、歌詞というものをどう捉えるのか?というのが今回の鍵になってくるわけですが、まず私自身の立場を明らかにしますと、私は歌詞をあまり気にしません。

 もう少し付け加えると、歌詞のメッセージ性をあまり気にしない、ということになります。つまり、歌詞の意味ですね。

 私は普段から洋楽を聴くことが多いので、8割は英語の歌詞、残り2割は日本語、スウェーデン語、イタリア語など…といった具合ですが、正直、日本語以外は聴いても何を言ってるのかほとんど理解できていません。メロディやリズム、音色を楽しんでいるというわけです。

 ここで強調しておきますが、音楽の楽しみ方は人それぞれで正解はありません。私の趣味趣向を人に押し付ける気は毛頭ありません。

 では、他の参考例として、下記のエピソードを挙げておきます。

 今から1年ほど前の話になりますが、甲本ヒロトさんが地上波のテレビ番組で歌詞について言及したことが話題になりました。(松本人志さんと中居正広さんが司会を務めたフジテレビの特番です。)

 内容を要約すると、下記のような感じ。

中居正広
「時代背景が変化した昨今、若いバンドに対して何か思うことはありますか?」

甲本ヒロト
「音楽の良さに形なんか無いし、若い人は"やってやるぞ"という気合いに溢れていてすごいと思う。」
「ただ、1箇所だけ世代の違いを感じるのは、若い人は歌詞を聴き過ぎ。」
「僕らは音で聴いてた。意味なんてどうでもよかった。」
「僕は洋楽のロックを聴いて元気づけられていたけど、実際は人を元気づけるような歌詞ではなくて、『お前に未来はねえ!』とかだった。でもそれを聴いて、よし今日も学校行こうと元気をもらってた。だから歌詞は関係ない。」
「でも、今の世代は文字を追い過ぎてるような気がちょっとだけする。」

 歌詞のメッセージ性に関係なく、音楽は人の心を動かせるんだよ、というようなことだと思います。実際の放送を見た方なら分かると思いますが、歌詞を聴くこと自体を否定するようなニュアンスは全くもってありませんでした。

 では、私や甲本ヒロトさんのように、歌詞をあまり気にしないという人は、どんな歌詞でも構わない、歌詞は100%全く気にしないということになるのでしょうか?

 答えはノーです。

2.歌詞とメロディの関係性

 歌詞には、意味・メッセージ性以外にも、メロディとの相性という大事な要素があります。

 つまり、言葉の持つ響きが、歌のメロディラインに対して、上手くハマっているかどうか、ということです。

 このメロディに対しては、どの母音を持ってくるのがしっくり来るか?子音は?

 それが上手くハマっていれば、それだけ耳にスッと馴染むように入り、心地良いものとなります。

 そうでなければ、言葉とメロディがぶつかり合い、互いに喧嘩し、耳が拒否反応を起こすでしょう。ただ、それはほとんど無意識に近い、些細な拒否反応です。

 そのような微妙な違いをどこまで気にするのかというのは人それぞれですし、人の感覚的な話なので、イメージしづらいという方もいらっしゃると思います。

 と、ここでようやく髭男が登場するわけです。

 今年、私は話題の人気バンド、Official髭男dismの音楽を初めてちゃんと聴きました。彼らが今年リリースしたアルバム『Editorial』を、何気なくサブスクで聴いてみたわけです。

 決して侮っていたわけではありませんが、聴いてみて正直驚きました。

 非常に複雑かつ高度なメロディラインに対して、あまりにも耳馴染みの良い、最適な歌詞を当てはめている、と感じたからです。

 聴いていて耳が心地よい。

 もちろん、その要因は他にも幾つかあります。

 例えば、ボーカル藤原聡の圧倒的な歌唱力によって実現する、「ここでこっちの方向に行くか!」と良い意味で予想を裏切ってくれる奇想天外なメロディ。

 そして、魅惑のハイトーンボイス。これは音楽を構成する要素で言うと、音色にあたりますね。

 ただ、やっぱり私がどうしても圧倒的に強調したいのは、歌詞とメロディがばっちりハマっているということなんです。

 元々、私は音楽を聴く上でその要素を重視していましたが、髭男を聴いて、あらためてそのことを再確認させられた次第です。

 次の章では、本作の中でも特に上記の要素が際立っていると感じた、「ペンディング・マシーン」という楽曲を取り上げていきたいと思います。

3.髭男「ペンディングマシーン」

誰かの憂いを
肩代わり出来るほど
タフガイじゃない
耐えられない
耳からも目からも
飛び込む有象無象は
もう知らないでいよう
病まないためにも
Wi-Fi環境がないどこかへ行きたい
熱くなったこの額
冷ますタイムを下さい
返答に困窮するメッセージやお誘い
強いられる和気藹々
おまけに暗いニュースだなんて冗談じゃない
とは言え社会で
多様化した現代で
それなりに上手く
生きたいのにwhy?
型落ちの前頭葉で
不具合もなく笑みを
保てないanymore
はい。分かったからもう黙って
疲れてるから休まして
申し訳ないけど待って
迷惑はお互い様だって
言ってやりたいのになんで?
立場と見栄に躊躇って
外付けの愛想が出しゃばって
葬られた叫び声
Wi-Fi環境がないどこかへ行きたい
プライベートの誇り合い
マウンティングの泥試合
そんなんで競い合って一体何がしたい?
鬼ごっこ ドッジボール
何に例えても常識の範疇を超えてやしない?
見てらんないから黙って
相手はCPじゃなくて
哺乳類人間様だって
説教できたならわけないね
俺にそんな権利なくて
少なくはない前科があって
帰すべき責めは永遠に残って
鳴り止まない叫び声
誰かの憂いを肩代わりできるほど
健康じゃない 打ち勝てない
ならばそう離れていよう
流行りもライフハックも
もう知らないでいよう
病まないためにも
はい。分かったからもう黙って
疲れてるから休まして
申し訳ないけど待って
迷惑はお互い様だって
言わないけど通知切って
あわよくば電源を落として
無理やりに暇を作り出して
元気になるまでまたね

 いかがでしょうか。共感して頂ける方いらっしゃいますか?耳の心地よさ。

 高い歌唱力があってこそ成立する、非常にトリッキーなメロディラインだと感じます。

 そして、どの言葉をどのように配置すれば人の耳に心地よく響くか、練りに練られ、磨き抜かれた歌詞だと、勝手に感じています。

 いかに歌詞をメロディに溶け込ませられるか、という表現が近いかもしれません。

 韻の踏み方が絶妙に上手いんですね。というか、怒涛の韻踏みラッシュです。

 そして、普段は歌詞の意味やメッセージ性を全く気にしない私でさえも思わず反応してしまうような、あまりにも繊細なトピックに対して切り込んでいく姿勢。それをこのトリッキーなメロディで軽やかに歌い上げてしまう…とんでもない才能だと思いました。

 言葉の意味やメッセージ性だけでなく、言葉の響きやメロディとの相性までひっくるめて、トータルで素晴らしいといえる歌詞を書くアーティストの代表例として、是非髭男を挙げたいと思います。

4.最後に

 感覚的な話とも言えるため、ほぼ自己満の世界で終わってしまいそうな気も若干していますが、分かって頂けた方いらっしゃいますか?

 共感を得られるかどうかはさておき、感覚を刺激してくれるアーティストというのは貴重な存在だと思います。

 髭男以外のアーティストで、歌詞とメロディの調和を感じたのは、2021年ならDYGLの3rdアルバム「A Daze In A Haze」。オールタイムならElliott Smithかな。

 これからも感覚を刺激してくれる新たな存在の登場に期待します。

 最後まで読んで頂きありがとうございました。

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