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グラスゴーのベテラン、TRAVISの音楽を聴き直す

 先日10枚目となる新作『L.A.Times』をリリースしたばかりのTRAVIS。

 個人的に、このバンドへの思い入れは強い。

 高1の頃にベスト盤をレンタルして聴いてみたが全く良さが分からず、その後暫くはポップパンクなど分かり易い刺激をくれるファストな音楽ばかり聴いていたのだが、1年ほど経過し何気なく聴き直してみると、雷に打たれたように良さが分かり、急いで5th『The Boy With No Name』のCDを買いに行き、そこからハマったという思い出がある。「良さが分からない音楽が分かるようになる」という体験の素晴らしさ、派手なバンドサウンドやアレンジに頼らずとも歌メロの良さだけで人を惹きつけることができるということを教えてくれたバンドだ。

 そんなTRAVISのディスコグラフィーを1枚ずつ振り返っていきたい。


1st 『Good Feeling』(1997)

 シャウト気味に荒々しく歌い上げるフランのボーカルが異色なデビュー作。"All I Want To Do Is Rock"という、後のスタイルからは考えられないタイトルのデビュー曲で幕を開ける本作は、所々メロディセンスの良さが顔を覗かせる瞬間はあるが、メロディを主役に据えたいのか、あるいは歪んだギター、バンドサウンドを前面に押し出したいのかは今一つ判然としない。悪いアルバムではないにせよ、このままのスタイルを続けていれば抜きん出た存在にはなれなかっただろう。


2nd 『The Man Who』(1999)

 普遍的なメロディに焦点を当て、丁寧で繊細なソングライティングへとシフトし、全英1位を獲得するなど大きな成功を収めた記念碑的アルバム。1曲1曲の粒が大きく、"Writing To Reach You"や"Driftwood"、"Why Does It Always Rain On Me?"といった代表曲がずらりと並ぶだけでなく、それ以外のどこを切り取っても印象的なメロディしか出てこない。所謂"名曲"の多いアルバムで、わざわざ聴き手が集中しなくとも、曲の方から訴えかけてくるものがある。そういう意味で、日常的にさらっと聴くというよりは、1年に1度じっくりと噛み締めるように聴きたい、そんなアルバム。


3rd 『The Invisible Band』(2001)

 TRAVISと言えば『たとえバンドが無くなったとしても楽曲さえ残ればいい』という発言が有名だが、その謙虚かつ実直な姿勢は、本作のタイトルだけでなく中身にもよく表れている。" Side"や"Flowers In The Window"といった代表曲をはじめ、どの楽曲もメロディラインが更に磨き抜かれ、サウンドはより自然体となり、時代を超えても色褪せることのない、究極の普遍性を獲得している。たとえTRAVISというバンドが無くなったとしても、この楽曲たちは人々に永遠に聴かれ継がれていくことだろう。


4th 『12 memories』(2003)

 アメリカによるイラク侵攻を痛烈に皮肉った"The Beautiful Occupation"や、DVを描いた"Re-offender"など、シリアスな社会的テーマを扱っており、1stとはまた違った意味で異色のアルバム。直近の2作を手がけてきた名手Nigel Godrichの手を離れ、セルフプロデュースとなった本作では、ストリングスやピアノを導入し、やや複雑さを帯びたメランコリックなサウンドが展開されている。万人に分かり易く響くようなキャッチーさが無いため目立ってはいないが、メロディの良さは損なわれておらず、むしろ冴え渡っている。異色ではあるが、本作もまた間違いなく傑作。


5th 『The Boy With No Name』(2007)

 前作から一転、多幸感あふれる穏やかで優しい路線となった。再びNigel Godrichとタッグを組んだ本作は、2ndのような個々の楽曲の強度と、3rdのような普遍性を併せ持ったアルバムだと思う。個人的には初めて買ったオリジナルアルバムが本作だったので思い入れも強い。"Selfish Jean"や"Closer"、" My Eyes"といったシングル曲だけでなく、その脇を固める"Battleship"や"Colder"、"New Amsterdam"などにも主役級の存在感がある。2ndから本作にかけての4作がこのバンドの黄金期だろう。


6th 『Ode To J.Smith』(2008)

 僅か1年強、バンド史上最も短いスパンで届けられた6th。ヘビィなギターリフ、攻撃的なバンドサウンドが特徴。1stもヘビィではあったが、カラッとしたブリットポップ的な雰囲気だった。対して本作の空気感はダークでシリアス。ただ、冗長的とまでは言わないまでも、妙に楽曲展開に締まりがない。名曲"Something Anything"のようなキリッと引き締まった展開を、他の曲でも見せてほしかった。とはいえ、TRAVISのディスコグラフィーに奥行きを与えてくれた作品だとは思うし、定期的に聴きたくなるような良さがある。


7th 『Where You Stand』(2013)

 前作から5年ぶりとなる7th。堅実な良さがある一枚。アコースティックギター中心の物静かな雰囲気の中にさり気なく打ち込みを散りばめたサウンドプロダクションには心地良いものがある。"Moving"や、表題曲の"Where You Stand"辺りは黄金期を彷彿とさせるメロディラインだし、その他の楽曲も悪くない。アルバムとしての起伏、ひと展開といったところでは地味な作品ではあるものの、まだまだ存在感があるバンドだなと思わせてくれるだけの良さはある。


8th 『Everything At Once』(2016)

 良さを見出せなかったアルバムはこれが初めてだ。1stにしても6thにしてもそうだが、いくらサウンドがヘビィになろうとも、メロディを大事にする姿勢がTRAVISをTRAVISたらしめていた。だが本作においては大仰なサウンドプロダクションばかりが目立ち、メロディラインが霞んでしまっている。新機軸を打ち出すことは一向に構わないと思うが、従来のスタイルとの配分を誤り、持ち味が完全に消えてしまった印象である。


9th 『10 songs』(2020)

 『10 songs』というタイトルからは、ソングライティング的に一定の手応えを掴んでいることが伺える。実際、素朴なサウンドでメロディラインを活かす路線へと回帰しており、前作に馴染めなかった者からすればこの方向性自体は歓迎だろう。だが、肝心のソングライティングが冴え渡っているかと言われると、そうでもない。リリース当初から度々聴いてはいるが、未だにピンと来ていない。どの曲も悪くはないが、どの曲も及第点の辺りを彷徨っているようなイメージだ。前作は方向性こそ誤ったが、ベクトルさえ合えばまた復活できるだろうという望みのようなものはあった。ベクトルが合っているはずなのに突き抜けたものが感じられないというのは、ある意味一番キツい。これだけ言っておきながら、あえて好きな曲を一曲選ぶとしたら" Kissing in the Wind"。


10th 『L.A. Times』(2024)

 風景の中に4人が控えめに写っているジャケの作品にハズレ無し、という法則を密かに見出していた私はこれを見て復活を期待した。先週のリリース当初はかなり地味な印象で、今回も期待外れか?と思ったが、そこから何度か聴き続けて、少し印象が変わり始めている。素朴で控えめな味付けのサウンドプロダクションではあるが、さり気なく配された打ち込みとシンセが渋い働きをしており、インパクトは無くとも最後まで聴かせられる仕上がりになっている。本作こそが、8thで目指すべきだったスタイルなのでは?とも思う。決して傑作という類のものではないかもしれないが、これからも定期的に聴くことになるであろう良作。

 最後に、個人的な順位をつける。上から4つは文句無しの傑作で、ほとんど団子状態。5〜7位も僅差で、こちらは佳作といったところ。

1. 3rd『The Invisible Band』(2001)
2. 5th『The Boy With No Name』(2007)
3. 2nd『The Man Who』(1999)
4. 4th『12 memories』(2003)
5. 7th『Where You Stand』(2013)
6. 6th『Ode To J.Smith』(2008)
7. 10th『L.A. Times』(2024)
8. 1st『Good Feeling』(1997)
9. 9th『10 songs』(2020)
10. 8th『Everything At Once』(2016)

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