2022年よく聴いた音楽【年間ベストアルバム】
今回は年間ベストアルバムということで、2022年に私が特によく聴いた作品を20枚、紹介していきたいと思います。
20.Stars『From Capelton Hill』
Broken Social Sceneと共にカナダのインディーロックシーンを支えてきたStarsの通算9作目。 ダンディな歌声のトーキル・キャンベルと、儚げなハイトーンボイスのエイミー・ミランによる男女ツインボーカルの絶妙な掛け合い、甘いハーモニーは本作でも健在。煌めくようなシンセポップサウンドでありながら、落ち着いた大人のムード、味わい深いソングライティングが魅力の渋い一枚。リリース当初はやや地味かとも思いましたが、このハーモニーに癒しを求めて気がつけばつい再生している、そんなアルバムです。
お気に入りトラック:If I Never See London Again
19.Oso Oso『Sore Thumb』
NY出身のSSW、Jade Lilitriによるプロジェクトバンドの通算4作目。Taking Back SundayやDeath Cab for Cutieといった00年代のUSインディーロック/EMOバンドからの影響を公言しており、現代において最もEMO直系なバンドと言っていいでしょう。青春の焦燥感に満ちた、泣き叫ぶような歌声と、哀愁性のある切ない響きのギターロックを展開しています。瑞々しいメロディラインと、疾走感溢れるエッジの効いた直球なバンドサウンドも魅力。Weezerを引き合いに出したくなるような優れたポップセンスにも注目です。
お気に入りトラック:father tracy
18.Sondre Lerche『Avatars Of Love』
ノルウェーの国民的SSWによる通算10作目。19歳での鮮烈なデビューから20年、NYからLAへと渡り歩き、再び故郷ノルウェーに戻り制作したという本作は、飽くなき探究心に満ち溢れた全14曲86分の超大作。アコギを軸に、ストリングスとシンセを効果的に織り交ぜた静謐なサウンドで、じっくりと積み重ねるように、荘厳で雄大なスケール感を表現しています。また、同郷の新世代歌姫Auroraや、日本発の女性4人組バンドCHAIとのまさかのコラボにも注目。時間がある時にじっくりと聴きたい重厚なアルバム。
お気に入りトラック:Cut
17.Harry Styles『Harry's House』
2022年、アイドルの枠を飛び越えて世界中を大席巻し、誰もが認めるスーパースターとなったHarry Stylesの3作目。生のバンドの質感をしっかりと残しつつ、そこにシンセを融合させたサウンドが心地よい。中盤以降フォーク要素を強めてしっとりと聴かせたり、シティポップテイストな曲を織り交ぜたりと、多彩なアプローチも楽しい。ソングライティングも優れています。それに加えてあの華々しいスター性という誰にも負けない武器があるわけですから、ここまで売れるのも納得です。長く愛聴できそうな一枚。
お気に入りトラック:Cinema
16.Spoon『Lucifer On The Sofa』
USインディーロックのベテラン、Spoonの通算10作目。ミニマルで洗練された、変に捻ることのないストレートなロックンロールサウンドが無骨で渋い。ブルージーなムード漂うギターリフにも円熟味があります。シンプルでモノトーンなサウンドを基調としていますが、時に鍵盤を織り交ぜることでさりげなく色彩が差し込まれているのも魅力。後半にかけて内省的でサイケな要素を織り交ぜながら、情報量を徐々に増やしていく構成・展開にも聴き応えがあります。この絶対的な安心感はベテランならでは。いぶし銀な一枚。
お気に入りトラック:The Hardest Cut
15.Whitney『SPARK』
シカゴの人気フォークロック・デュオによる通算3作目。前作までのインディーフォークやカントリーを基調とした素朴なサウンドとは打って変わって、シンセや打ち込みを前面に押し出した、これまでに無いモダンなアプローチを多用しています。このサウンドはまさに、アルバムタイトル『SPARK(煌めき)』の通り。ただ、従来の持ち味である美しいメロディとハーモニー、ファルセットボイスは健在で、穏やかで温かみのあるメロディも上手くマッチしており、あくまでWhitneyらしさは失われていないところが流石です。
お気に入りトラック:NEVER CROSSED MY MIND
14.Copeland『Revolving Doors』
00年代EMOシーンを牽引したUSインディーバンドによるセルフカバーアルバム。昨年の"往年のEMO枠"がLast Days Of Aprilなら、今年はコレ。ただ、本作に限って言えばEMO要素は全くありません。全編にわたって、オーケストラを主体に据えたアレンジが凝らされています。このミニマルなサウンドでここまで聴かせられるのは、良いメロディと良い歌声があってこそ。本作がリリースされていることに気づいていないEMOファンの方も多いのでは。全てのグッドメロディ好きに聴いてほしい一枚です。
お気に入りトラック:Every Silence
13.Phoenix『Alpha Zulu』
フランスを代表するインディーロックバンドの通算7作目。かつてグラミー賞の最優秀オルタナティブ・アルバムにも輝いた彼らですが、近年はエレクトロニカ・ディスコ・ソウルなど、その時代のトレンドを上手く反映しながら、円熟味や気品を感じさせる大人なシンセポップを展開しています。本作で特筆すべきは、冒頭の表題曲"Alpha Zulu"と、Vampire WeekendのEzra Koenigをゲストボーカルとして迎えた2曲目の"Tonight"。この圧倒的完成度を誇る2つの絶対的キラーチューンが作品の質を底上げしてくれています。
お気に入りトラック:Tonight (feat. Ezra Koenig)
12.Death Cab for Cutie『Asphalt Meadows』
USインディーロック界の雄、デスキャブことDeath Cab for Cutieの通算10作目。久々に、生のバンドサウンドの質感、"ロックバンド"としての躍動を色濃く感じる、フィジカル面が強調された作品に仕上がっています。それでいて、従来の緻密で繊細なサウンドプロダクションも健在。印象に残るグッドメロディも多いです。個人的には、彼らの10枚のアルバムの中でも上位5枚に十分食い込める力を持った作品かと。クリス・ウォラ脱退以降やや存在感が薄れ気味な感もありますが、5人体制になってからも堅実に良い作品を作り続けているということはもっと広く知られてもいいでしょう。
お気に入りトラック:Pepper
11.Liam Gallagher『C'mon You Know』
Oasis解散後の低迷期を経て、着実に評価を上げ復権を果たしたソロ3作目。下手な冒険はせず、「Oasisの続き」のような音楽をこれほどまでに堂々と展開できるのはある意味リアムの才能と言っていいでしょう。自分自身の強み(=唯一無二の歌声)を客観的に捉え、それを最大限活かした的確なプロデュース(=シンプルでストレートなロックサウンド)に徹したのだと私は捉えています。大袈裟に言えば、"不変の美学"を貫き通し、ロックンロールスターとしての生き様を見せつけたとも。Oasisのディスコグラフィーと並べても遜色のない、会心のアルバム。
お気に入りトラック:C'mon You Know
10.Mitski『Laurel Hell』
三重県出身、NYを拠点に活動するSSW、Mitskiの通算6作目。圧倒的支持を集めた前作"Be The Cowboy"から約3年半、一時は音楽を辞めることも決意したという苦悩の活動休止期間も経ての本作。より成熟したポップセンスを見せつけています。耳に残りやすいドラマティックなメロディが印象的で、それが彼女の芳醇な歌声とよくマッチしています。ノスタルジックでレトロな雰囲気漂う80'sシンセポップなサウンドは彼女にとって新境地。まだまだ更なる進化を見せてくれそうな予感を抱かせる内容です。
お気に入りトラック:The Only Heartbreaker
9.Yard Act『The Overload』
UKリーズから現れたポストパンク界の新星による1st。昨年『Dark Days -EP』で衝撃のデビューを果たし、満を辞してのリリースでしたが、当初、個人的には期待値をやや下回ったかなと感じていました。ただ聴き込むにつれて、ディスコグルーヴを強調したダンサブルな路線も悪くないなと。フックの効いたギターとストイックなリズム隊が織りなすソリッドなバンドサウンドが格好よく、James Smithのスポークンワードで畳み掛けるようなボーカルも、尖りつつもどこか緩くて、唯一無二の存在感があります。気がつけばハマっていましたね。今後への期待が膨らむ大型新人。
お気に入りトラック:The Incident
8.Pinegrove『11:11』
現行のUSインディーロックシーンを牽引する、Pinegroveの通算5枚目。元Death Cab for Cutieのギタリスト兼プロデューサー、クリス・ウォラがミックスを手がけ、フォーキーなサウンドと力強いバンドサウンドが上手く調和した、Pinegrove特有のバランス感覚に更に磨きのかかった仕上がりとなっています。カントリー要素、EMO要素のブレンドも相変わらず絶妙で、更に楽曲のスケール感も増しており、神秘的な空気感さえ漂っています。"Orange"からは、初期デスキャブの風味を感じます。
お気に入りトラック:Orange
7.The Beths『Expert In A Dying Field』
ニュージーランドの4人組による3rdアルバム。疾走感溢れるパワフルなロックナンバーから、グッドメロディと丁寧なコーラスワークが光るポップソングまで、一曲一曲の質が優れています。冒頭3曲が特に素晴らしい。また、The Strokesのミニマルなサウンドプロダクションから影響を受けたという#2 Knees Deepや、The Killersのディスコ風なエフェクトを意識したという#7 Best Leftなど、普遍性の中にふとエッジの効いた一面が垣間見えるところが、リスナーのツボを抑えているなと。彼らの素朴でキュートな人柄がよく表れている MVも是非見てほしいです。
お気に入りトラック:Knees Deep
6.Arctic Monkeys『The Car』
21世紀のロックシーンにおける最大のモンスターバンドによる通算7作目。初期ファンが求める原点回帰でもなければ、前作の音楽性をそっくりそのまま引き継ぐわけでもなく、またしても新たな領域を切り拓いた感があります。前作のサウンドがベースになってはいますが、更なる進化を遂げたなと。ストリングスを多用していますが、全体的には音数をぐっと削ぎ落とすことで"歌"を強調しており、サウンドよりもソングライティングに重きを置いている印象を受けました。それでも、サウンドにさり気ないアイディアが凝らされているので全く退屈させないですし、分かりやすいフックなど無くとも十二分に存在感を示した圧巻の内容です。
お気に入りトラック:I Ain't Quite Where I Think I Am"
5.Alvvays『Blue Rev』
現行のドリームポップ最高峰、カナダの5人組Alvvays待望の5年ぶり3作目。ノスタルジックでドリーミーなサウンド、洗練されたメロディセンスは健在。My Bloody Valentineからも影響を受けたというノイジーなギターサウンドと、ダイナミックで手数の多いドラミングが印象的。実験的なサウンドアプローチを駆使することで知られる敏腕プロデューサー、Shawn Everettによる手腕も大きい。"Pharmacist"の猛々しくも瑞々しいギターノイズ、"Belinda Says"の冴え渡るメロディラインは特に必聴。強烈なインパクト、陶酔感を覚える至極の一枚。
お気に入りトラック:Belinda Says
4.羊文学『Our Hope』
今年更なる飛躍を遂げた3ピースバンドの通算3作目。インディーロックファンのみならず、洋楽ファンやJ-popファンのハートまでも射止めた印象。洋邦問わず、シューゲイザーやドリームポップなど多種多様な音楽の要素を吸収しつつも、最終的にはポップスとして落とし込むバランス感覚が非常に優れています。塩塚モエカによるグッドメロディと表現力豊かな歌唱、河西ゆりかによる正確無比なベースラインと巧みなコーラスワーク、フクダヒロアによるインディーロック然としたトリッキーなドラミング、3人の強烈な個性が凝縮された傑作アルバム。
お気に入りトラック:光るとき
3.The 1975『Being Funny In A Foreign Language』
2010年代以降のロックシーンにおいて最も華々しい成功を収めているバンド、The 1975の通算5作目。毎回とんでもないボリュームで溢れんばかりのアイディアをごちゃ混ぜに詰め込んできた彼らですが、本作は全11曲44分というコンパクトさで、作品全体の雰囲気が小綺麗に統一された、ある意味で"らしくない"一枚。Jack Antonoffがプロデュースを手掛けた本作のサウンドはミニマルで洗練されており、ソングライティングも緻密で完成度が高いです。先行公開された3曲がどれも素晴らしい出来なのは言わずもがなですが、それ以外の楽曲では、シューゲイザー要素を秘めつつポップソングとしても強度の高い"About You"が極上の名曲です。
お気に入りトラック:About You
2.Big Thief『Dragon New Warm Mountain I Believe In You』
今や押しも押されぬUSインディーロック界の至宝となったBig Thiefの通算5作目。全20曲80分の大作ですが、今年はコレを何度も繰り返し聴いていました。フォーク、カントリーを軸に、ハープやフィドルなど多彩な楽器を取り入れたアイリッシュ民謡的アプローチから、バンドサウンドが躍動するオルタナティヴ・ロックまで、これまで以上の多彩さを見せつけています。鬱蒼と生い茂る森、土の匂い、太陽の光、様々な自然の風景を思い浮かべるような、圧倒的スケール感に満ちた音像です。これまで彼らが築き上げてきた地位を不動のものにする、新たな代表作の誕生。
お気に入りトラック:Spud Infinity
1.宇多田ヒカル「BADモード』
結局1月からコレがずっと不動の1位で、結果的に今年一番よく聴いたアルバムになりました。日本ポップス界のトップランナーによる通算8作目(Utada名義の作品を含めると10作目)。A.G.CookやFloating Pointsといった現行のポップミュージックを代表する大物ミュージシャンの参加も話題になりましたね。前作までのミニマルかつ緻密なサウンドプロダクションはそのままに、エレクトロなテイストをより前面に押し出すことで更なる進化を遂げています。固有名詞を多用し、直接的に時代を反映しつつ、よりリスナーの心に寄り添った歌詞も非常に印象的で、最高傑作と呼ぶのに相応しい、素晴らしい内容でした。
お気に入りトラック:Somewhere Near Marseilles ーマルセイユ辺りー
以上の20枚です。
2023年もまた素敵な作品に巡り会えればと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。