「地下鉄の壁の詩」 A Poem On The Underground Wall/サイモンとガーファンクル「パセリ、セージ、ローズマリー&タイム」第11曲
地下通路を歩く足音を想像させる、ギターの単音によるリズム、そしてスピードのあるアルペジオと二人のハミングという前奏。
私の第一印象は、「独特の雰囲気」、というより「変わった歌」でした。
なにやら怪しげな男が登場。何者なのか?終盤までわかりません。
クレヨンで何をするのでしょうか?
メロディは、コード進行に刻み落下する5つの音に合わせ構成されています。歌というより、語りに近いもの。
やがて地下鉄が到着し、人々がドアから流れてくる。しかし彼は人波を避けるように再び闇に身を隠します。
何かを企てようとしているから人目を避けるのか?
歌のサビの部分、なつかしい機関車の車輪が回る音のように、ギターで刻むリズム。地下鉄の列車が出ていく様子が想像される、うまい演出(伴奏)です。ここで初めて歌は感情をむき出しにします。
そう、彼は、地下鉄の壁に、クレヨンで殴り書きをするために来ていたのです。
なぜこんなことをするのか!
誰も彼の胸の内は知りません。彼自身も知られたいと思ってはいない。でも、何かメッセージを、不特定多数の人に伝えたいという衝動があることは事実でしょう。しかし、地下鉄の壁というきわめて隔離された空間、多くの人が行き交うものの、コミュニケーションのかけらも想像できない舞台の壁に書かれたメッセージ。四文字言葉にどんな思いを込めるのでしょう。
ただし、彼の勝ち誇った喜びは、あくまで内面だけのもの。
男は、再び闇に消えていきます(ポール・サイモンはこのシーンを歌いたかったのかもしれません)。
ポール・サイモンがこの奇妙な歌を書いた理由が興味深いです。
書籍によると「地下鉄の壁の詩」は、「とても変わった人」「アイ・アム・ア・ロック」と根底に流れる考えの点で通じるものがあるとされています。
確かに、いずれも社交的関係を避けてしまう、孤独な人物を歌っています。「サウンド・オブ・サイレンス」のテーマ「疎外感」とも共通します。
とはいえ、単刀直入に言うと、人の目を盗み公共物に落書きをして、喜んでいる男の歌です。そんな男を詩人扱いにしてしまうポール・サイモンの発想がすごい。
やたらとshadowという単語が出てくること、指がつりそうなアルペジオ、そして、歌の終わりで、スローに重なるハーモニー、再び足音が聞こえ遠ざかる演出。月並みな表現ですが‥‥カッコイイ歌です。
「ライヴ・イン・ニューヨーク」では、ポール・サイモンのギターのみの伴奏で二人のハーモニーが聴けます。
注目すべきは、曲開始前のアート・ガーファンクルの語り。
彼はファーストアルバム「水曜日の午前三時」のジャケット用に地下鉄ホームで写真を撮影した時のちょっとしたトラブルのエピソードを語っています。
色んなアングルで500ショット以上もの写真を撮り、ようやく満足できるカットを撮り終え、ギターをケースにしまい、スタッフはカメラ等機材を片付けた後のことです。
アートが何気なく壁に目をやると、それまで気付かなかった壁の落書きに気づきました。
落書きはブロックスタイルの文字。綺麗に色付けされています。
細かい説明不要なよくある落書きでした。ようするに四文字です。
私の想像ですが、たぶん、たくさん撮った写真の多くにそれが映っている。たとえ部分的であっても問題と制作関係者らは頭を抱えたのでしょう。
しかし、後日写真を決める会議の際、二人は「これこそ我らのアルバムのジャケットを飾るにふさわしい写真だ」主張したというのです。
アルバム「水曜日の朝午前三時」のジャケットを見るとどうも却下されたようですが…(笑)。
↓ライヴ・イン・ニューヨークより
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