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子ども心を描いた大人のための作品 シューマン ピアノ小曲集 「子供の情景」

ピアノ曲が好きです。

若い頃はロック、ポップスなどバンドミュージック、クラシックでは大がかりな交響曲、管弦楽曲、つまり複数あるいは多人数の演奏者が必要な音楽を好んで聴いていました。複数の楽器の音が渦のように絡み合う雰囲気が好きだったんですね。

やがて歳を重ねてくると、小編成の音楽に好みが移りました。ヴァイオリンやチェロ、木管楽器とピアノのソナタ、ピアノ五重奏・四重奏、弦楽四重奏曲など室内楽曲をもっぱら聴くようになりました。

そして、今はピアノ曲を聴く頻度が高くなりました。一人で演奏する音楽、つまり原点に回帰したといえるかもしれません。

私の場合、メインに聴くのはピアノ・ソナタです。多くの作曲家たちが渾身のソナタを書いていますから、よりどりみどり。しかも現代はAppleMusicやSpotifyなどストリーミングのサブスクリプション(定額制)で古今東西の作品をさまざまなアーチストの演奏で聴くことができます。

ただ、ソナタは作曲家たちが気合いを入れて書いた作品ばかりですので、聴く側もそれなりの「覚悟」が必要です。大げさな表現に聞こえるかもしれませんが、私はそう感じています。たまにイージーリスニング的に聴き始めても、聴くうちにのめりこんでしまいます。読書のお伴のつもりが、活字は頭に入らず耳と神経がソナタに集中してしまいます。当たり前ですが、困ったものです。

ですから、たまに小品にスイッチします。そんな時に、よく聴くのがシューマンの「子供の情景」です。


シューマンという作曲家は、クラシックファン以外には馴染みが薄いかもしれませんが、ピアノ曲、交響曲、合唱曲で数多い作品を残しています。文学者志望だったらしく、 作品自体も、詩的なアプローチが多いようです。

国際楽譜ライブラリープロジェクト(IMSLP)より

「子供の情景」は、彼の最も有名な作品のひとつです。ピアノの小作品集で全曲を聞くにも20分足らずという短さです。13曲で構成され各々に表題がついています。誰かが後に付けたのではなく、作品の解釈に役立つようにと、シューマン自身が命名したものだそうです。

第7曲目「トロイメライ(夢)」は、特に有名ですので、聴けば「ああ、あの曲か」と思い出すでしょう。


どの曲もそれぞれおもしろいんですが、私は、第1曲目「見知らぬ国と人々について」第12曲目「子供は眠る」が好きです。1曲目の流れるようなメロディ、そして12曲目は夢を見ているようで、なおかつ広い大地を思わせる壮大な音色に心惹かれます。

前に、妻(ピアニスト)が言っていました。「この作品は簡単なようで、うまく弾くのはとても難しい」と。小曲ですが確かに奥の深い作品です。

奥が深いその証拠に、この小品を聴いていると、つい神経が音楽へ集中し始めてしまうのです。

小品集といえども、これは小品ではありません

さらに、シューマン自身の言によると、この作品は、

「子供心を描いた、大人のための作品」

だそうです。

うーん、やられました(笑)。どうりで、夢中になるわけです。


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