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ベートーヴェン 交響曲第5番(2)
前回「交響曲第五番」は「ダダダダーン」だけの音楽ではないと書きました。
その理由は、音楽を全部聞けばたちどころにわかります。
バックグランドミュージック的に聞くと、わかりにくいかもしれません。もちろん、そういう聞き方だっていいんですよ、音楽は好きに聞けばいいんですから。
でも、ここはじっくりと聞きたい方のために私流の聞き方を書いてみましょう。
第一楽章最初を会話に例える
冒頭の二回の「ダダダダーン」。
まずこれはあなたへの挑戦の音だと、受け止めましょう。
何の挑戦かって? それは皆さんそれぞれ想像してください。
例えば戦いです。音があなたの感性に向かい突進してくるのです。
でもあなたはそれをがんとして受け入れたくありません。
そこで音楽は、あなたを説得するように、弦楽器で細かく音を刻みます。
「だから、こうなんだよ!」と執拗に説明します。
でもあなたは納得しない。
再び、「ダダダダーン」の砲弾。
「でも、これこれこうだから、、」とまた説明が続く。
長い長い説明、うんざりしそう。しかし、あなたの心は次第に徐々に柔らかくなります。「う、、、そうかな?そうかもしれないな」と。
ホルンがあなたの心を代弁してくれます。
「なるほど!」
その喜びを、弦楽器が奏でる。
と、おかしなたとえですが、第一楽章の最初の部分は、こんな対話を音楽で
表現している、と考えてみるのも悪くありません。
「ンタタタ、ンタタタ」という単純なリズムが壮大な交響曲になる驚き
「ンタタタターン(「ダ」ですと重苦しいので少し軽めに「タ」で記載しま
す)」が主テーマ(音楽書を読むと「第一主題」と記載されています)だと
前号で述べましたが、「交響曲第五番」ではこれに類する音形、「ンタタタ、ンタタタ」が第一楽章はもちろん、全楽章いたるところで現れます。
そのものズバリ同じではなく姿を変えるので聞き落としがちですが、注意深
く聞くとそれがよくわかります。
「運命が扉をこうたたく」とベートーヴェン自身が語ったというエピソード
により、テーマは「運命」だという通説が正しいかはともかく、ベートーヴ
ェンの頭には間違いなくこうした音の繋がりとリズムが常に鳴っていたので
しょう。それを彼は演奏時間にして30分、合計で約1500小節の音楽として完
成させたのです。
スコアでは視覚的に理解できる。でも、ぜひ耳だけで感じ取ってみてくださ
い。分析的に音楽をとらえるのは苦手だって?分析ではありません、感覚
です。頭で考える必要など全くないから大丈夫です。
そして「ンタタタ」というリズムでヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コン
トラバスなどの弦だけでなく、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴ
ットなどの木管楽器、トランペット、ホルン、トロンボーン(第四楽章だけ)など金管楽器、ティンパニーなど打楽器がどんな音を奏でるかを聞くのです。
ある時は伴奏で目立たず、ある時はメロディを高らかに奏でています。伴奏
でも相当主張している場面もあります。それらすべてが合わさり調和した音
になっているのが素晴らしい。少し大げさですが、必要のない音は一切ない、気がしてきます。
それにしても優れた音楽家の手にかかると、考えてみればこんな単純な音形
が、これほどあざやかに完成された音楽になるんですね。
素朴な素材を使い見事な料理を創り出す料理人を思わせます。
楽章それぞれに、筆舌に尽くしがたい魅力が
音を聞くのが最も手っ取り早いけれど、ブログで音は出せません。
ということで私が見つけた魅力を手短にお話ししましょう。
第一楽章
「ダダダダーン」の後に続くメロディが、弦楽器それぞれの「ンタタタ」と
いう音が繋がってメロディが構成されている微妙なバランス。
ホルンによる力強いメロディ。
終始「ンダダダ」と奏でられるメロディ。弦楽器、管楽器、打楽器のコンビ
ネーション。
第二楽章
冒頭の弦楽器による牧歌的な美しいメロディ。
そのメロディがやがてオーケストラ全体による大合奏に発展し、行進曲の
ような音楽になる圧巻!
第三楽章
中間部の低音弦楽器から始まる巨大なフーガ(メロディのリレー)。力強い動きが素晴らしい。
終番で弦楽器が不安げな和音でもどかしそうに奏でられ、和音がだんだん
変化していき、第四楽章の高らかなファンファーレへ結ぶところ。
第四楽章
すべて。金管楽器の高らかなファンファーレと弦楽器の躍動的な構成。
フィナーレでの執拗な繰り返し箇所での木管楽器のメロディ。
これ以外にも皆さんご自身でぜひ沢山の魅力を発見してください!