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出でよ老騎士の幽霊 モーツァルト 歌劇「ドン・ジョヴァンニ」みたいに 天罰を下せ!

モーツァルト 最高傑作(と私が勝手に思っている) 歌劇「ドン・ジョヴァンニ」

「ドン・ジョヴァンニ」のクライマックスは、オペラの冒頭でこの歌劇の主人公であるドン・ジョヴァンニに殺された老騎士が幽霊となって出てくる場面。映画「アマデウス」のオープニング、サリエリが自殺を図る場面で流れる序曲とそんまんま。オペラではこの音楽で登場人物たちが皆あわてふため、大騒ぎになる。「出た~」というわけである。有名な「ドーンジョヴァーーーーンニ」という歌詞が不気味なメロディによって朗々と歌われる(ここで朗々なんて表現はおかしいか)。

第二幕冒頭、墓場の場面

歌劇の第二幕冒頭は墓場の場面。オペラの最初でドン・ジョヴァンニが殺した老騎士の墓がある。そこでドン・ジョヴァンニは召使いと他愛のない話しをするのだが、墓場にそびえたつ石像が突然喋るのだ。空耳だろうと高をくくるものの、本当に自分らに語りかけていることに気付く。幽霊を怖がるなど、貴族の、いや自分の名誉にかかわると強がるドン・ジョヴァンニは、挑発の意味で幽霊を夕食へ招待する。幽霊の老騎士はちゃんと招待を受ける旨の返事をする。

第二幕の後半、ドン・ジョヴァンニ邸 来客幽霊

さて第二幕の後半は、オペラのフィナーレでもある。邸宅で豪華な食事をとるドン・ジョヴァンニ。料理が運ばれてくる場面、むさぼるように食らいつく様子が笑える。当時流行のオペラの音楽がバックミュージックとして使われる。ドン・ジョヴァンニがたぶらかした女が出てきて、彼を改心させようとするが、ジョヴァンニは聞かない。そして幽霊の老騎士が出てくるわけだ。
「食事に招かれたのでやって来たぞ~」と歌いながら。
幽霊登場の場面がディナーというのもオツな話し。幽霊と人間が共に食事するシーンがあればもっと面白いが、残念なことに幽霊はこの世の食べ物を摂らないと断る。じゃあ、何のためにやってきたか?


最後の警告を聞け!聞く耳を持たぬなら…

彼は自分を殺した男を恨んで「裏飯屋~」、じゃない、「うらめしや~」と出てきたのではない。次から次へと女をたぶらかし、だまし裏切り、あげくのはてに暴力や殺人まで犯す彼を改心させる目的で出てきたのだった。だが女遊びこそが最大唯一、いわば人生そのもののドン・ジョヴァンニがいくら幽霊のアドバイスであっても、受けるはずはなく、彼は幽霊の「改心するか?どうだ?はい、といえ!」との問いに最後まで「ノン」と答え続ける。

幽霊は今度は自分がドン・ジョヴァンニをディナーに招待するという。臆病者と呼ばれたくない彼はきっぱりと「招待を受けようじゃないか」と答える。悪役はこうじゃなきゃいけない。結果、彼は幽霊と共にあの世へいく結末となるわけだ。

悲劇からハッピーエンドの結末へ

この場面だけ観ると、本当に悲劇的結末。だが、その後、ドン・ジョヴァンニにだまされた女たちや男たちが出てきて、ドン・ジョヴァンニの召使いと共にフィナーレの歌となり、めでたしめでたしと、ハッピーエンド的に終わる。音楽も明るく堂々としている。まあ、悲劇というより、このオペラは喜劇でもある。そこがモーツァルト歌劇の面白さでもあるから、たまりません。

「出でよ!老騎士よ」

昨今国内で起きた凶悪な事件の犯人たち。懲りない芸能人、政治家。世界平和の名目のもとに戦争をはじめ、結果的に多くの人々を死なせている勘違い世界リーダー(?)。聖戦の名の下に卑怯にも人質をとり殺し、今度は女性人質まで殺し始めた奴ら。武器の存在をちらちら見せ金をせびろうとする大将様。

老騎士の幽霊に地獄へ落とされる恐怖を味わわせてもらうべき人物はこの世に無数いる。今こそ「出でよ!老騎士よ」といいたい。ぜひ天罰を下して欲しい。だが彼らもドン・ジョヴァンニのように最後まで「ノン」といい続けるだろう。まったく○○につける薬はない、いつの時代も。

(この文章は2004年末に「クラシック音楽夜話」op.139掲載文を若干加筆したものです。あれから20年近く経ちますが世界は全く変わっていません。無念です)


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