第14回CDショップ大賞2022で、入賞と特別賞を受賞した、YOASOBI『THE BOOK』『THE BOOK 2』。楽曲への賛辞はもちろん、両作品のパッケージには数多くの賛辞が寄せられました。 『THE BOOK』『THE BOOK 2』は、配信リリースされた楽曲を、初めてパッケージ化したものです。両作品の完全生産限定盤は、曲ごとに異なるデザインが施された歌詞カードを、購入者がひとつずつバインダー形式のジャケットに収納し、本のように楽しむことができます。 今回は、パッケージ商品をリリースするまでのストーリーを、制作チームである、ソニー・ミュージックエンタテインメントの屋代陽平さん、山本秀哉さん、吉野あさみさんに伺いました。3名は、YOASOBIチームとして、マネジメント業務をされています。なお、山本秀哉さんは、A&Rとディレクターとしても、チームに携わっています。
コンセプトに添ったリリース形態 ――本日はありがとうございます。CD ショップ大賞入賞と特別賞受賞おめでとうございます。今日はよろしくお願いいたします。
3名:ありがとうございます。よろしくお願いいたします。
――YOASOBIの楽曲は、毎日更新されていくお題に対して、物語を投稿していくサイト 「monogatary.com」の作品から制作していたかと思います。当初の段階では、楽曲をCDでリリースすることは、想定されていたのでしょうか?
屋代さん(以下、屋代):そうですね。YOASOBIは、小説投稿サイトの 「monogatary.com(モノガタリードットコム) 」から、小説を音楽にするユニットプロジェクト企画としてのスタートでした。 CDというお話に繋げると、いきなり“じゃあCDを作っていこう”と言うよりも、やはりデジタルのプラットフォーム出身という特性も活かすことと、よりスピーディーに、楽曲をいろんな方にお届けしていく手法として、 YouTubeやサブスク、ダウンロードをメインで進めていった、というのが成り立ちですね。
――コンセプトを大切にしていたのですね。
屋代:そうですね。楽曲自体の制作もそうですし、全楽曲に原作の小説があるのもアーティストとしてのコンセプトではあったので、それをいろんな形で伝えていくというのがスタート地点ではありました。 ただ、小説をいろんな方に読んで頂くのは、デジタルでも可能ですけど、実際に手に取って頂けるものも非常に相性が良いよな、と当初から思っていました。それこそ『THE BOOK』や『THE BOOK 2』のような形で、小説を抜粋して楽曲に落とし込んでいこうねと言う話は、リリースが見える前の段階からは、メンバー、スタッフとも、良く話をしてたことではあります。
面白いと思ったものに面白さを感じてもらえたから ――若手シンガーソングライターは、自分の体験を歌にしていく方が多いかと思いますが、小説から音楽を作るのは、YOASOBIのお二人にとって、チャレンジだったのでしょうか?
屋代:そうだと思います。僕らですら、そもそもどういう形がベストかとか、どういう風にやってもらうか、というイメージをあまり持ってなかったというのも、正直なところあったので。本人たちも含めて、探り探りやっていく中で、徐々に正解…というのが何かまだ分からないですが、理想的な形っていうのを今もずっと探している、という感じかなと思います。
――例えば小説の中のフレーズで、どこを使いたいなどの話し合いは、Ayaseさんとikuraさんでされているのでしょうか?
屋代:作詞は基本的にAyaseが全て自分で作ってきます。もちろん出来たものに対して、こっちのほうがより良いかもねとか、分かりやすいかもねって話は、山本などがディレクターとして向き合ってすることはあります。 山本秀哉さん(以下、山本):歌詞にした時に、書ける文字数は限られてくるので、その中で何を表現するかですね。表現方法としては、MVと楽曲と小説があるので、楽曲の立ち位置では、どこを表現するべきかは、割と歌詞を取り組む前に、みんなですり合わせています。 楽曲を聴いて小説を読む人、小説を読んで楽曲を聴く人、MVと一緒に聴いて小説を読む人など、様々なケースを考えた時に、楽曲としてどれがベストなのか?を考えながらやっているかと思います。
――MVに関しても、ある程度の構想はされているのでしょうか?
山本:MVは、こちらでクリエイターさんは誰がいいかなどは話していますが、楽曲と小説があるということはお伝えした上で、方向性などは比較的お任せしている感じですね。
――そうすると、クリエイターの方が感じたことが映像に出ますね。捉え方に意外性が見えたり、共通点が見えたりして面白そうですね。
山本:そうですね。いろいろ違ってきます。 僕らも、小説を音楽にするというコンセプトを、大々的に最初から掲げていたのではなく、まず「夜に駆ける」や「あの夢をなぞって」という曲を生み出していく中で、その楽曲を知ってくれる人がいて、小説があることを知って、また小説を読んで曲の印象が変わって、また MV を見て…と、ファンの方がコンテンツを行き来することを、楽しんで頂いていると実感することが非常にあって。皆さんが面白味を感じてくれるのなら、そこが割と強いコンセプトにもなるな、と考えていました。 僕らは、明確にこうして欲しいとか、こう感じて欲しい、と言うのが最初からあったのではなくて、僕らなりに面白いものを作って出してみたら、想像以上に面白さを感じてもらえたなぁ、と言うところがありました。それで徐々に、YOASOBIとしての形が出来てきた感じですね。
YOASOBI「ハルカ」 卒業シーズンに使用されることが多い楽曲だが、原作と卒業は関係なく意外性のある使われ方をしている。歌詞の中身を解釈してもらった結果、原作とは別の広がりを感じている楽曲の一つとのこと。
手に取って満足感ありなパッケージを ――2年連続で『NHK紅白歌合戦』に出演され、YOASOBIという名前が広く浸透しているように思います。中高年のファンが増えている、またCDを求めているという感覚はありましたか?
山本:ファン層に関しては、さらに層を拡大した印象はあります。 屋代:CDに関しては、僕らはどの世代の方に実際にCDを手に取って頂いたかは、なかなか知ることが出来なくて。そこは、むしろCDショップの皆様に教えて頂きたいですね。 『THE BOOK』は、2020年の『NHK紅白歌合戦』に出させてもらった翌週に、発売しています。時系列的には、紅白で多くの方に知って頂いた後に、手にとってもらえるもので、そこに過去の曲が全部入ってるものを出す。そこに意味を持たせていたので、その目論見が若い人はもちろん、それ以外の層の方に届いていたと僕らは信じていますし、そうであったら嬉しいなと思います。
――『THE BOOK』のパッケージ(完全生産限定盤)は、手に取った時に驚きました。CDだよと言われなかったら、本だと思ってしまいます。この形式は、リリースをする時から決めていたのでしょうか?
山本:アルバム曲や新曲は、ほぼゼロで出そうと決めたので、既存の曲をちゃんと楽しんでもらい、さらに深みを増し、手にとって満足感のあるもの、買って良かったというものを、と考えました。手に取った時の最初の印象は、とても大事だと思いますし、若い人にたくさん聴いて頂いていたので、初めてCDを手に取る人も出てくるなと思ったんです。 僕らも初めて買ったCDは覚えていますし、人生の中でずっと思い続けるくらいの大事な経験になるかなと思ったので、そこに添うものでありYOASOBIのコンセプト、小説と音楽から、あまり意味が離れないものを作ると考えた結果、このような形になりました。 色や形は、デザイナーさんから提案をもらった部分も、多くありますね。バインダーもデザイナーさんからの提案の一つでした。バインダーが、コンセプトに合うんじゃないか?と、そこから膨らませていきました。 デザインもいくつかパターンがある中で、みんなでこれがいいんじゃないか?とか、ピンクが中面なので、裏面はそれに合うような色がいいな、と選んでいる中で、緑色が可愛いという意見になり…。みんなで、ああだこうだ言いながら、作っていきました。 僕らも今まで、あんまりバインダーを使っているパッケージを見たことないし、バインダーに、追加できる特典だったり、自分の好きなものを入れたり、飾ったりもできて、コレクション性があって良いなと思いました。ただのブックレットにすると、綴じ込んで終わりですが、買った人がそれぞれの使い方をして、面白いことができるのかなと思い、この形状にしました。
『THE BOOK』『THE BOOK 2』完全生産限定盤は、CDとは思えない分厚さ 『THE BOOK』表面と裏面の色も意見交換をしながら決めた。右にあるのが歌詞カード。 デザイン会社 印刷会社もチームの一員として ――歌詞カードも楽曲ごとにフォントや紙質が違っていて凄いですね。フォントや紙質も、デザイナーさんからの提案とみなさんで話し合いで?
山本:そうですね、提案もありつつ。僕がパッケージを作る部署に在籍した経験があったので、紙や資材、何ができるなど、ある程度の知識があったんです。バインダー自体、そもそもハードルが高いし、いろいろなハードルを越えなきゃいけなかったんですが、やれるだろうという算段をつけてやりました。 紙質を変えて楽曲の世界観に紐づけるのは、面白いかもと考えて、例えば「群青」は、タイトルの通り、青色の一色のデザインを施したんですけれど、そういう一色のデザインだったら、割とざらついている方がいいのかなとか。マットな質感や、テカテカした光沢のある質感の紙に対して、"あの楽曲はこっちじゃない?コレはそっちの楽曲だね"と、みんなで話しながら作ってきました。
『THE BOOK』歌詞カードは、それぞれ紙の質感や色、フォントが異なる。『THE BOOK 2』も同様 ――デザインが、すばこ舎さん。印刷が、山田写真製版所さん。パッケージを作るにあたっては、2社ともYOASOBIチームの一員のような感じですね。
山本:そうですね。無理難題含め、いろんなことを日々、今も楽しんで…。.映像作品も同じようなバインダーなんですけれど、日々ご迷惑をおかけしているという感じですね。
――吉野さんが、"無理難題を"というところで、笑っていらっしゃいましたが、何か無理難題なエピソードはありましたか?
吉野あさみ(以下、吉野):私がチームに加入した時には、もうバインダーが出来上がった状態でした。それを最初にやる時点は、なかなか大変なことがあったんだろうなって感じていたので、それでちょっと、ふふふってなってしまいました。
YOASOBI「群青」
記念のものと位置付けてもらえれば ――パッケージ価格が通常のCDに比べて、少し高くなりますが、これだけの仕様だと逆に安くも思えます。価格設定はいかがでしたか?(※完全生産限定盤は、税込4950円)
屋代:高いですよねー、普通に。手に取らないと分からないっていう時点で、高いなと思うんですけど、現実的にこれぐらいの価格じゃないと、なかなかビジネスとして厳しいラインとは言え、めちゃめちゃお金儲けするために作ってるわけでもないので、何とか考えつつ…。いろんな選択肢の中で、営業担当者と話しながら決めた価格です。買って頂いた方には、とても満足して頂いているという声も聞きました。 山本:だいぶ金額は、頑張っております。
――1月発売だと、中高生はお年玉をもらったタイミングで、手に届きやすかったかもしれませんね。
屋代:まさにそのような話をしてました。お年玉を握りしめてCDショップに行って欲しいね、なんて言いながら。ただ、お年玉にしても結構な割合を減らすのは、忍びないなと思いつつ…。クリスマスプレゼントやお年玉など、そういう記念のものと位置付けてもらえたら嬉しいですね。
『THE BOOK2』形式は『THE BOOK』と同様。一番後ろにある封筒からCDを取り出す。 CDショップも作品を共に盛り上げる ――実際にCDショップで『THE BOOK』が並んでいるのは、写真や現場でご覧になりましたか?
屋代:もちろんです。メンバーも都内のCDショップも都度訪問して、大きな展開を頂いて感謝しております。
――CDショップ店員の手描きPOPなどの宣伝は、アーティストにもプラスに働いていますか?
山本:店頭もそうですし、ソーシャルでも積極的に発信して下さっていて、”ただ売っているよ”だけじゃなく、スタッフさんがこの曲を推して下さっているということも、YOASOBIメンバー、スタッフ一同とても感じています。 YOASOBIは、デジタルだけのリリースがとても長かった中で、CDを出したときに、店舗の皆様がすごい喜んで下さったのを、今も覚えています。僕らもCDショップ及びスタッフの皆さんと、今後も手に手をとって一緒にやっていきたいという思いでいます。
タワーレコード ららぽーと立川立飛店 ――あれだけこだわった作品は、多くの方の手に取って頂く自信は、当然のことかと思いますが、怖さのようなものは無かったのですか?
山本:あんまり考えてなかったですね。 屋代:それこそCDショップの皆様から、まだ『THE BOOK』の仕様も見たことない段階から、”すごい扱いたいです。応援してます!”という声を、営業を通して聞いていました。当然、それは会社として受け止める言葉なので、そこに対してお答えしている感覚ですね。現場からの期待感というのは、ありがたいことにずっと感じているので、怖さというのはあまりなくて、いつも心強いなという思いで送り出しています。 山本:良いものを作っている、という自信がないといけないと思っていましたし、そこはちゃんとあるので、手に取ってもらえれば、満足してもらえる感覚と言うか、自信がみんなにはあったかと。手に取ってもらえれば、満足度は比較的高いと思って作っていますね。
タワーレコード ららぽーと立川立飛店『THE BOOK 2』の店頭POP 他の店舗でも同様に店員の愛溢れるPOPが店内を彩った。 これからのCDと店舗の役割とは ――CDショップ店員もYOASOBIチームの一員として、たくさんの人に広めていきたい、という気持ちが、きっとあるのかと思います。最後に、CDショップとパッケージの果たす役割について、お考えのことをお聞かせください。
山本:YOASOBIを始めた時は、配信で楽曲を発表していましたし、コロナもあったので、ライブも出来なかったんですけど、手に取れるモノ、見るコトがないと、ファンの人たちもしっかり推せないんじゃないかと思います。 例えば、僕は高い服を買ったら、大事に着るという意識があるんです。お金を払ったものを、大事にしようと言うか。僕らにとっては、CDを作って手に取ってもらうのが、そういう体験の一つになったら良いなと思っています。パッケージを出して、改めて聴いてくれる方もいて。配信だけじゃない楽しみ方を提案でき、よりYOASOBIの良さを知ってもらい、より好きになってくれたら、という思いはあるので、そういう意味でもパッケージは大事だと思っています。 吉野:『THE BOOK』も『THE BOOK 2』も、リリースをした際にSNSで反響をチェックすると、皆さんちゃんと発売日に買いに行って頂いていました。それで、部屋のおしゃれな場所に飾って写真を撮って下さっていて。モノとしてあるから、自分のお気に入りを置くスペースを作ってくれているんです。そこには、パッケージ以外のYOASOBIのグッズなども飾って、"推しスペース"を作って下さっている方が多いんです。モノとしてあるからこそ、"推しスペース"は成り立つのだと、パッケージを出すたびに感じていています。 このパッケージは、大切にして欲しいというのが、実際に手に取ると分かって頂けると思うので、それが伝わっている感じがとてもしました。 それに、どこに飾ってどんな写真を撮ろうかな、とワクワクしながら買いに行って頂くこと、さらに朝起きた時に、飾っているスペースを見て癒されるなど、生活のちょっとした楽しみに、YOASOBIのパッケージやグッズが入っていたら嬉しいなと思っています。 屋代:CDショップに行って目的のCDを買う時、そのCDしか眼中にない人って、あんまりいないと思っているんです。CDショップの皆さんの工夫のおかげで、同じ日に発売したものや、近しい傾向のアーティストの新譜や旧譜などとの出会いがあるのがCDショップだと思います。サブスクももちろんありますが、それぞれ工夫して作った色とりどりのパッケージは、画面上で均一で見るよりも、絶対何か伝わるものは多いなと思っています。 CDだけがマネタイズポイントではないので、一つのチャネルとして、それを活用する考え方は絶対必要ですし、そこにおいてのCDやCDショップという場所の役割は、重要だと思っています。 アーティスト側から見ると、そこでひときわ目立つ商品、欲しくなる商品を一生懸命作って、他のアーティストを聴いている方にも、店頭でYOASOBIのCDが気になるなと思ってもらうために作っている側面もあります。そういう場所が果たしている役割は、音楽業界にとってすごく価値があると思います。いろんなファンの方がCDショップに行き、行きたいと思ったり、行くことを止めないのは、音楽と新しく出会うからだと間違いなく思うので、この場所をうまく活用していきたいです。 売れる枚数自体は、どうしても減っていくのは致し方ないと思いますが、僕らの立場で何ができるかとか、どういう風にYOASOBIファンが楽しめるか考えたいですね。今は、お陰様で『THE BOOK』『THE BOOK 2』を通して、リスナーの方と繋がる場になってるかなと思っているので、これからも続けていきたいと思っています。
お話をして下さった三名
ソニーミュージック・エンタテインメントの屋代陽平さん、山本秀哉さん、吉野あさみさん 司会・記事作成:石井由紀子(ミュージックソムリエ) YOASOBI Information
■音楽 「ミスター」配信中
■映像作品 『THE FILM』【完全生産限定盤】 ¥ 10,000(税込)
■小説 『はじめての』(水鈴社刊) 4人の直木賞作家とのコラボレーション 2022年2月16日(水)1,760円(税込)
■イベント 『The Film』発売記念 "衣装展" 2022年3月22日(火)よりスタート
北海道:HMV札幌ステラプレイス ★衣装:UT×YOASOBI ONLINE LIVE 『SING YOUR WORLD』
東京:タワーレコード 新宿店 ★衣装:YOASOBI 1st ONLINE LIVE 『KEEP OUT THEATER』
東京:SHIBUYA TSUTAYA ★衣装:YOASOBI LIVE at BUDOKAN 『NICE TO MEET YOU』 [12月5日]
愛知:タワーレコード名古屋近鉄パッセ店 ★衣装:第72回NHK紅白歌合戦 「群青」
大阪:タワーレコード梅田NU茶屋町店 ★衣装:第71回NHK紅白歌合戦 「夜に駆ける」
福岡:HMV&BOOKS HAKATA ★衣装:YOASOBI LIVE at BUDOKAN 『NICE TO MEET YOU』 [12月4日]
詳細は、YOASOBI公式HPからご確認ください。