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千葉雄喜『STAR』~Lyricsと日記、HIPHOPに宿る“リアル”との関係性~

本名:千葉雄喜(旧:KOHH)
望む望まないに関わらず最前線へと立つ宿命を
『STAR』という英単語は端的に示している

「チーム友達」の世界的バイラル
ミーガンとのコラボ曲「Mamusi」
常に1つの波で終わらせないのが
運が良い人とスターとの違い
「お金、稼ぐ。」は
その作用、その当然の帰結に過ぎず
人が気になる所に人は集まり
数値・お金・数値・お金
その点滅を繰り返しては
果てしなく上昇していく

その絵の素晴らしさは
不可解な金額のその不可解さによって証明され
そのアーティストの素晴らしさは
チケットの高額さ、入手困難さに準ずる
言ってしまえば、関心の無い多くの人々にとって、
チケットの法外な高額さが唯一反応し得る指標で
それこそが人の気を引くのであり
転売なき世界では、転売との緊張関係無しでは、
人の気なぞもはや作り出せやしない

そんな滑稽な文化環境で
誰がどの名でやるか?が重要な中
千葉雄喜は高く値が付いたKOHHという名に
こだわることはなかった
行動原理は
「やりたいことやるだけ」
常にシンプル、故の殴り書きの筆勢
千葉雄喜は千葉雄喜になることで一段と自由になり
その道中に、音楽業界に帰ってきた訳でも無く、
その場のノリで「チーム友達」は生まれた

しかし、ここで誤算が生じる
千葉雄喜もSTARだったのだ
ビートたけしだけでなく
北野武もスターであったように
Takeshi Kitanoの方がSTARであったように
その証拠に、僕らは、
KOHHと知られていた人物の肖像と
千葉雄喜とを結びつけることに
あまり違和感を感じなかった
その立ち振る舞いはHipHopであり続けていた
千葉雄喜がまたRAPに紐づけられるのも必然だった

この『STAR』というアルバムは、
「Mamusi」でバイラルを重ねた次の一手として
突然武道館公演開催発表と同時にリリースされた
イマカセギドキ!イマガ!
収録されている音楽は
イマ、自身を取り巻く気の動きに
何も逆らわない形をしている

これはただの推測だが
KOHHとして引退を決めた時から
音楽を辞めようなどと思っていたとは思えない
本名で素朴に日記をしたためる
それをただ出す
ただこれだけが時期も決めぬまま
最初から計画されていたようにも思う

そもそもKOHHも千葉雄喜も
まるで日記のように平易に日常をただ記すことで
ラッパーが時に演じることを求められる中
一切「演じない」リアルを発信してきた
日記は日常を綴ったもの
それはただの現実の記述であり
故に文字通りリアル(現実)
卓越した人物ほどシンプルに物事を捉える
リアル=日記
見出した最小単位の美しい関係性

HipHopではリアルかどうか?が問われ続け
作品の良し悪しに直結してきた
FAKEはほとんど死を意味する
この”リアル”という概念
それは非常に曖昧で、だからこそ意味を持って来た
誰もその価値基準を十全に語りえない概念は
人々に価値判断の創造の場を提供するからだろう
しかし、今一度語りえぬことを承知で問うてみよう
HIPHOP言うところのリアルとはなにか?と
千葉雄喜が見出した法則を足がかりに

リアルなHIPHOPも日記も
今の自分の現状をしたためる
リアルなHIPHOPも日記も
今、自らが晒されている環境や境遇をしたためる
リアルなHIPHOPも日記も
現状のわたしの生活の憂鬱と躁狂とを書きなぐる
感情が溢れていたり淡々と記されていたりする
個人的な体験を想いと共に書き遺す

しかし、日記が嘘偽りなく書かれている必要も無い
その人にとっての真実が本当は存在すらしていない
そんなことだって珍しくもない
私が書いた私で閉じられた、世界との繋がり、
全てが嘘偽りなく書かれていること
それだけでリアルな訳でもない
嘘ではない虚構(或いは見栄)に宿るリアル
Slim Shadyは虚構からリアルを見る
Kendrickは喧噪の中で自身を冷静に監視し
私の問題を社会へと拡大しリアルを提示する

千葉雄喜はありのままで
だからこそ、今の千葉雄喜は
感情の羽がくるくる止まらずにいる
Tiktokのレコメンドのようにチカチカと
数字・お金・数字・人
Kamara is Brat、この人がKamara?
i’ma Brat
今目の前に起こっていることを
単調な、ただし一貫性のあるBeatで紡いでいく

ここまで書いていて気付く
KOHHは私小説だった
千葉雄喜は随筆になった

リアル = 日記性 × {(筆圧 × ▲▲)+ △△} + etc...
美しすぎる法則には罠が潜んでいる
僕らは様々な現実の係数を考慮する必要がある
「ただし摩擦は考えないものとする」は許されない

Lylic・日記なんだっていい
リアルであることの3箇条
日々の羅列・意志と野望・内面の吐露
そして何よりも、それを記す時の筆圧
何度も消しては書かれた跡の残るページ
震えながら書かれた告解のページ
これらが連なり一編の生が紡がれる
指が滑るだけのiPhoneであっても
筆圧は当然保存され伝導する

千葉雄喜は背伸びをしない
自身の内面が分からなくなった時
思ってもいないことは言わず
「わかんない」と口にする
日常も非日常も
日記に書けばその人の日常の一部となる
異様な日常も、日記帳に素朴に書き記すことで、
その現実離れしたリアルの実感を得ることができる
さらさらと書かれた『STAR』というアルバムは
このような効能を千葉雄喜にもたらしているだろう

頭空っぽ、なんか、身を任す
やりたいことやる
ハート絵文字、ARIGATO
わかんない、なんもわかんない
幸運だってことだけはわかってる
STARだってことだけはわかってる
どうせなるよにしかなんない
お金、稼ぐ。私はSTAR。

その上で、Chiba自身どうしたいのか聞こう
何処へ行くのか、行きたいのか、
何を哀しいと感じているのか、
それに応えることも、全ての感情を晒すことも
STARには求められる

三人称・神の視点・多重人格
なんでもありの魔境
飛行機に乗って遠いとこへ行った、その先
いや、そのなんでもありを自分に許さないために、
KOHHという名を忘却させたのではないか?
この繰り返し

明るい場所へ続く道が
明るいとは限らないんだ
出口はどこだ 入口ばっか
深い森を走った

宇多田ヒカル feat. KOHH「忘却」

妹や友のためでなく身を任せる理由もなければ
メロスであれ走り続けることはできないだろう
それでも、千葉雄喜は日記を書き続ける

I wanna be a superstar
よりsuperiorなSTARに向かって

感情の遠心力に負けることなく
ただ「やりたいことやる」ため
だからリアルであり続ける
STARであるが故に入口に立ち
更なる入り口をまた目指す

その際に出会う苦難・内省・野望もまた
今後、千葉雄喜の日記に、
音と声と
そして筆圧を伴って
記されることとなるだろう

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