場所が覚えている
以前よく訪れた新宿は歩けば歩くほど、すっかり忘れていたようなことを場所が覚えている。それはよく遊びに行った場所、人と会っていた場所。その人の顔が思い浮かんで、今頃何をしているだろうかと思う。
ただそれだけで何とも言えない心地になる。誰かと居たときはそんな風には思わなかった。それは隣に誰かがいたからだ。隣に誰かがいなくなってみて初めて、誰もいないことに気付く。最初は誰もいなかったはずなのに、通り過ぎた速度がはやすぎてたまらない。
ただその瞬間は場所が覚えている。窓外から店の中を覗けば、カウンターに座った記憶がよみがえる。何を話したかはほとんど覚えていない。ただ、そこにいたということだけは覚えている。