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[MMCJ修了生インタビュー]松崎敦子さん:キール市立歌劇場管弦楽団ヴィオラ奏者

ミュージック・マスターズ・コース・ジャパン(MMCJ)は2001年の開講以来、数多くの修了生を輩出しています。20数年の間に、当時若手だった参加者も、着実に音楽家としてのキャリアを築いてきました。この連載では、現在国内外で活躍する修了生の方にMMCJの思い出や音楽人生について語っていただきます。
第2回は、ドイツ・キール市立歌劇場管弦楽団で活躍するヴィオラ奏者の松崎敦子さんです。

第2回 松崎敦子さん(2002年、2005年MMCJ参加)

オーケストラで弾くことが好き

私は大学を卒業後、2001年にドイツに留学し、現在もドイツのオーケストラで演奏しています。オーケストラで弾くことが好きだったので、学生の頃はユースオーケストラなどの機会に積極的に参加していました。最初に外国への憧れをもったのは1997年のPMF音楽祭への参加です。その後1998年にアジアユースオーケストラに参加し、ヨーロッパ諸国を演奏旅行する中で、ドイツのイメージが自分の中でしっくりきたんです。
MMCJへはドイツに留学して1年経ってからの、2002年に初めて参加しました。いったん外に出たので、あらためて日本で学ぶ機会を得られたのはとても嬉しかったです。2002年にはヴァイオリンの講師で来ていたインディーラ・コッホさんとの出会いがありました。私は当時、彼女が首席奏者を務めるベルリン・ドイツオペラの最寄り駅に住んでいたんですよ。ドイツでとても近くにいたのに、千葉県木更津市で出会うなんて!(笑) 

寝食をともにしたからこその関係性

私が最初に参加した2002年のMMCJは、弦楽のみの開催でした。あの時演奏したスメタナの弦楽四重奏曲第1番「わが生涯より」は思い出深く、当時レコード会社に勤めており、数々の名演奏を聴いてきたせいか私の演奏にはいつも手厳しかった父が(笑)今でもあれはいい演奏だったと語ってくれるんです。その次に参加した2005年は管楽器もいたので、ブリテンのオーボエと弦楽による四重奏曲(「幻想四重奏曲」)も経験しました。なかなか学校でも管楽器と室内楽をする機会はないので、貴重な機会でしたね。
MMCJでは朝から晩まで、受講生、講師のみなさんとそれこそ寝食をともにしながら室内楽やオーケストラにじっくりと取り組みました。ご飯を食べたり、時にはお酒を飲んだり、夜な夜な話をして、ボーイングどうする?とか、悩みごとを相談したり。そうした時間の共有があると、また翌日のアンサンブルが違ってくるんです。お仕事になるととてもそんな時間は共有できません。決められた時間だけではないところでいろんな話をできるというのは、本当にありきたりな言葉ですが、いい時間でした。
ずっと同じ人と演奏していくというのも大事ですが、出会いと刺激があるのがこのような音楽祭の醍醐味だと思います。言葉や文化背景が違っても、音楽だからこそ合わせることができるということを、身をもって感じることができました。

弦楽四重奏だけでなく、管楽器の入った室内楽作品にも取り組んだ

音楽の世界はもちろん実力社会という部分もありますが、一緒に演奏する以上、それと同じくらい人柄であったり相性も大事な要素です。たとえばある方は、学生のころからすでに多くのオファーがあって仕事もたくさんされていたのですが、あえて3週間という時間を作ってこのMMCJに参加していました。実際、仕事が入ってくるようになると音楽にじっくり向き合う時間がなくなってきます。仕事の依頼を辞退してでも、海外から集まった新しく出会う音楽家たちと研鑽したり優れた指導者の方々に学びたいというのは、やはりすごく音楽が好きで、熱いものをもっている人たち。仕事として割り切るというよりは、音楽が好き、人が好きということがベースにある。MMCJにはそういう人たちが集まっているんじゃないかなと思います。修了してからもそこでできたネットワークや人間関係はとてもありがたいものです。安心してお仕事を頼める信頼関係があります。

音楽は人と人をつなぐ架け橋

私が演奏活動をする上で大事にしているのはコミュニケーションです。一人で楽器と向き合い、ひたすら練習することも大事ですが、人と演奏するときは自分で考えてきたような音楽ではなく「そうきたか」と思うことも多々あります。頭でっかちにならず、一緒に演奏する人たちとの調和を大事にしたいのです。
そして、心の声にいつも耳を傾けています。言葉は直接的で、時として人を傷つけてしまうこともありますが、そうして言えなかった言葉や伝えきれない思いは心の中に残っているわけです。その心の声を、音色に託すということが私は多かったように思います。私たちは作曲家が書いた楽譜を再現する演奏家ですが、言葉で言い表せない心を音に乗せるということが、個性につながっていくのだと考えています。
このように向き合ってきた音楽を通じて、知り合えなかったつながりや友達や多くの人たちとの出会いがありました。音楽は人と人とをつなげてくれる架け橋であり、人生にとってかけがえのないものだと思っています。MMCJへの参加が、そのことに気づく一つのきっかけとなったことは間違いありません。

2002年かずさアカデミアパークでのフィナーレコンサート

(聞き手・文:前田明子)


松崎敦子(キール市立歌劇場管弦楽団 ヴィオラ奏者)

4歳よりヴァイオリンを始め、東京藝術大学音楽学部付属高校へ入学時にヴィオラへ転向。東京藝術大学音楽学部を卒業後、同大学非常勤講師を経て2001年よりベルリン芸術大学へ留学。2006年よりフランクフルト音楽大学古楽科、2020年よりアムステルダム音楽院古楽科にてピリオド奏法を学び、バロックヴィオラやヴィオラ・ダ・モーレ奏者としても活動。
ベルリン・ドイツ響、ベルリン放送響、ハイデルベルク歌劇場にてアカデミー生として研鑽を積んだ後、現在キール市立歌劇場でヴィオラ奏者として所属しながら、オランダでは18世紀オーケストラ、日本ではThaeter Orchestra Tokyo、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、横浜シンフォニエッタにて客演首席奏者を務める。
これまでに、ヴィオラを菅沼準二、Wilfried Strehle、バロックヴィオラを佐藤俊介、山縣さゆり、Petra Muellejansの各氏に師事。

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