エッセイ バレンタインデーのチョコレート

 少々気が早い気もするが、もうすぐバレンタインデーである。女性の友人がフォロワーさんしかいない俺にとっては、なんの縁もないイベントだ。だから最近はフォロワーさんの好きなものを訊いて、例えば推しの画像なんかを送るようにしている。日頃の感謝を込めて。
 まあそれはそれとして、今日はチョコレートの話だ。

 今でこそチョコレートは全くもらえないが、実はモテなかったわけではない。学生時代にはちょこちょこ「ドラゴンくんにチョコを渡したい」と言ってくれる女子がいた(ダジャレではない)。しかし俺の体質が問題だった。学生時代、特に小中学生の頃、俺はチョコレートが食べられなかった。食べるとすぐ鼻血が出てしまって、保健室に直行しなければならないレベルまで血が出続けてしまう。だからチョコレートを渡したいと言ってくれる女子がいても、その体質を理由に断っていた。
 気持ちを無下にしたいわけではないから、「チョコ以外だったら喜んで受け取る」とは伝えているのだが、小中学生女子というのはやはり、バレンタインにチョコレートというシチュエーションに憧れているらしい。俺1人のためにクッキーだとかせんべいだとか用意してくれる女の子は皆無だった。そういうわけで、バレンタインに俺に近づいてくる女子はすぐにいなくなった。

 高校生くらいになった頃だろうか。俺も大人になったんだろう。チョコレート1個食べたくらいでは鼻血を出さないようになった。この頃から給食で出てくるチョコレート系のデザートに関しては、食べてもいいと親から許可が出た。
 しかし学校とは引き継ぎがしっかりしているところである。「ドラゴンくんにチョコを食べさせてはいけない」というルールが、先生たちの間で出回っていた。するとどういうことが起きるか?
 相変わらず年に数人はいた「ドラゴンくんにチョコを渡したい女子」を、先生が止めるのである。理由は単純。「学校に味のついた飲食物を持ってくることは原則禁止されている」からだ。同級生が旅行に行った時はちゃっかり先生たちもお土産をもらっているのに、こういう時だけルールを持ち出す。
 しかしそこまでだったら別にいい。問題は先生とのやり取りを、俺に細かく報告してくる女子がいることだ。「ドラゴンくんにチョコ渡そうとしたら先生がダメって言うから、もうあげないからね」というふうに。
 この場を借りて言いたい。そこまで俺に報告する必要なくない?
 しかし悲しいかな、多くの知的障がい者はきっちり俺に報告してくるのである。その上怒りの矛先は俺に向いてる。これも考えてみれば当たり前の話で、俺以外の男子には普通に渡せるのに、俺だけダメと言われるのだから原因は俺にあると思われても仕方ないのだ。
  小学生の頃から10年以上かけてこの事実に気付いた俺は、バレンタインデーにチョコレートを求めるのをやめた。しかし、もう少しいい立ち回り方があったのではないかと、いまだにふと考える時がある。

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