(ライヴ体験記)06: IAM 配信Live@京都ライブスポットRAG (Apr. 12 2021)
【自然なこと】
【IAM 2021春 配信ライブ 京都RAG シャローム~きっとまた逢える~】
私は音楽にスピリチュアルなものを求めることは否定しない。しかしそれをあからさまに表現する手法は、あまり好きではない。なぜなら「あからさま」だからだ。それはスピリチュアル→宗教的・概念的帰依→精神世界信仰を直接的に想起させ、取っ付きにくい。私には拒否反応が出る。そこに付き合うつもりは毛頭ない。そこまで私の心は確立されていない。とはいえ私個人、時々無性にインド音楽に埋もれてチルアウトすることが好きだったりする。
そう、矛盾している。私は自分のタイミングと自分の思い込みでのみ、こうした音楽に触れている。それでいいではないか。つまりは、音の中にある心地良さを求めているだけ。それが心に響けば落ち着くし、心が躍ればアガるし、心に沁みればどっぷり浸る。難しいこと、面倒なこと、余計なことは、考えない。
そこに今回のライヴ。塩入俊哉が参加しているユニット、IAM。聴いたことはない。そして前述の観点から、ちょっと戸惑った。しかし食わず嫌いは望むところではない。誘われ、配信ライヴに飛び込んでみた。
結論。心が洗浄された。
塩入のみの演奏“purify water”で静かに幕が開く。波の音がSEで入りつつ、水面の光の乱反射や流れ、中に含まれる純真さを、メリハリの効いたタッチで漂わせる。実に清らか、大らか。そこに途中からKnobの鈴の音が入り、凛とした情景に変えていく。
続いての”ククノチ”。Knobの落ち着いた低い声、特にカ行とタ行の発音の抜け方は、ヘッドホンで聴くとその包容力をより感じる。そして、ほとんど音のない空間に静かに響くディジュリドゥ。オーストラリアの原住民族アボリジニに伝わる伝統楽器(ユーカリの木)で、単に吹いたら音が出るのではなく、口から音を発しながら吹かないと音が出ない。つまり演者自身が楽器の一部になる。だからだろう、音色が耳から入らず腹に直接響いてくる。通常の楽器とは明らかに異なる体験。
尺八・松居が加わっての“Wind of Budda”。尺八もまたディジュリドゥ同様、自身が楽器にならないと鳴ってくれない楽器。いや、もう楽器といっていいのかも迷う。そもそも音色があまりに特殊だと思うし、その音質に宿る人肌感がどの楽器のそれよりも強いように思うからだ。だから聴いていると、フレーズに痺れるのではなく、その音色そのものに痺れる。微妙な音の揺れ、タンギング的の強弱、掠れ…これはほとんど人間の声じゃないか。これは酔う。
“いのちの祝祭”で菅原が入りフルメンバー。恐ろしい。菅原が恐ろしい。プリミティヴな楽器=パーカッションは、同じパターンの繰り返しが感情の波にリズムを与える。デジタルのリズム・パターンに対してでさえ、我々はそのリズムに恍惚となるのだから、人力のアナログなパーカッションのそれに心を鷲掴みされるなど当然のこと。リズムが消えたと思ったら突然連打でメリハリや気づきをもたらす。このライヴ、楽曲を自在に操っているのは他ならぬ菅原だと確信した。
“四神の護り”の高揚感と静寂の対比は、(勝手ながら)夜闇の底知れぬ深さ、安易に触れてはいけない森の奥、月にかかる濃い雲すら妄想させる。最後のピアノと金片の透明感が美しい。
”アシタカ〜もののけ”は、映画「もののけ姫」をより具現化させた音世界を創り上げた。興味深いのは、それぞれ奏でられる音色の出自が全く異なるにもかかわらず、それらが指し示すものが「日本」であること。それは音階・メロディのせいだと言われればそれまでだが、音像全体の表現が奥ゆかしく、力強く、多くの自然を感じさせるから…なのかもしれない。
”アース・メディテーション”と言い出したので冷めた目で身構えた。が、これはまさにインド。前述の、私が時々聴いている類の音楽性。この編成でこんな世界が展開されるとは思わなかったが、これは私的に嬉しかった。思わずお香焚いてそのまま眠ってしまおうかと思ったほどの心地良さ(ダメダメ笑)。
ライヴ全体、ディジュリドゥ、尺八、パーカッションの音色たちを聴いていて、私の好きなインド音楽ーシタールやヴィーナの弦楽器、タブラやガタムなどの打楽器を思い出していた。ちょっと似ている。心地良さ、違和感のなさはここから来ているのか…。
ピークは“Dream time”にあったと思う。
Knobの祝詞が降ってくる(彼の発声、本当に心地良い)。彼はディジュリドゥ含め、ステージ上では何か別者に見えてくる。彼自身の存在は実は限りなく薄くて、彼自体が音を生み出す楽器に見えてきた。
要所要所を押さえてぐんぐん来る松居の強烈な尺八が、楽曲のスケールを10倍以上に押し拡げているのはあまりに劇的でズルいし、完全に楽曲をコントロールして演者を支えているようでいて、実は彼らをリードしている流れを叩き出す菅原もズルい。そして、こうした楽曲でのデジタル音源はその世界観を壊す可能性があるのに、そこを的確に捉えて適切な音色で飾る塩入、さすが。
音の強弱、F/O、F/Iが音像に立体感を与えることを、このライヴを聴いて改めて感じた。が同時に、そこが配信の難点だとも感じた。それは、楽器間の音量の差、音圧を体感しづらいのだ。これは生でなければ感じることができない。単にヴォリュームの大小の問題ではない。これは今回の会場の京都RAGの音響とスタッフがいくら優秀であっても、その微細な差を拾い切ることは難しいはず…身勝手な意見ですみません。
なんだろう、これは音楽というべきなのか、それとも現象というべきなのか。息を吸って吐くことのように、音を奏でることは、至極自然なことなのかもーーーん?難しく考え過ぎか?…いけないいけない、余計なことは考えないって言ったばかりなのに笑
演者の皆様、会場スタッフの皆様、配信関係者の方々、お疲れ様でした。
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IAM 2021春 配信ライブ 京都RAG シャローム~きっとまた逢える~
(2021/04/12@京都RAG)
Members:
Knob (Didgeridoo・祝詞・石笛) 松居和 (尺八)
菅原裕紀 (Perc) 塩入俊哉 (Pf)
1 purify water(浄化の水)+
2 ククノチ 木の神さまへ*
3 Wind of Budda^
4 いのちの祝祭
5 四神の護り(平安京)
6 アシタカせっ記〜もののけ姫
7 アース・メディテーション
8 アクロス・ザ・ユニヴァース 〜なにものも私を変えることはできない〜
9 Dream time 〜天地創造 あめつちのはじめ〜
10 音の持つ力〜夢の中で体験した話について++
11 シャローム また逢える
12 ベートーベン "悲壮"より
+塩入
*Knob、塩入
^松居、Knob、塩入
++Knob(朗読/トーク)
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Knob
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松居和
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菅原裕紀
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塩入俊哉
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