ジストニアやイップスになる共通点
この記事は拙著『演奏不安・ジストニアよ、さようなら 音楽家のための神経学』の補足、深堀りです。
スポーツのイップス
スティーブ・ブラス病、ぬけぬけ病
「イップス」という言葉は、プロゴルファーがパターを以前のように打てなくなった症状を、yipsと呼んだところから始まりました。
他のスポーツにおいても、慣れているはずの動作をコントロールできなくなること、運動障害をイップスと呼ぶようになりました。
野球では、極度の制球困難になることを「スティーブ・ブラス病」、陸上選手が走れなくなる症状を「ぬけぬけ病」と言います。
弓道では、矢を無意識のうちに放ってしまう「早気(はやけ)」、弦を離せなくなる「もたれ」と呼び、アーチェリーでも見られます。
ダーツでは、「ダータイティス」と呼ばれます。
ジストニアとイップスの共通点
音楽家のジストニアとスポーツのイップスに共通することは、技術に大事な部位が動かせなくなる、その人にとって重要な動作ができなくなることです。何も考えずに動かせていた手や他の部位の動作ができなくなります。
音楽家のジストニアとイップスに共通する点があります。
正確さが求められる
;試験、コンクール、ゴルフのパター、弓、ダーツなど
フォーカルジストニアは、クラッシック分野の生徒、学生の方が、ロック、ポップス、ジャズに比べて多いようです。日本のコンクールや音大入試では、音をミスすると失格となる、落とされてしまうという話があります。
実際のところはわかりませんが、クラッシックをやられる方は、ミスを恐れる意識が強くなります。
日本人は他の人種に比べて、特にミスを恐れます。他の国の人は、演奏でミスすることをあまり気にしません。
『演奏でミスを怖れていませんか? 理由と対策』
緊張が大きい
;コンクール、試験、本番、大物が見ている、ゴルフのドライバーショットなど
本『演奏不安・ジストニア… 』に書いたように、カーペンターズがホワイトハウスで演奏した時、ニクソン大統領らの前で演奏するとき、皆がピリピリ緊張していて、演奏していて怖かったと。誰が観ているかによって、緊張度は変わります。
競争
;コンクール、試合、首位争いなど
競争というのは、人間にとって恐怖です。選手の中には、競技の前に緊張のあまり嘔吐する人もいます。ショパン・コンクールに出られた反田恭平さんも最終選の前、嘔吐したとおっしゃています。
31歳の若さで引退した宮里藍選手は、パターイップスになったと告白しています。優勝争いの大きなプレッシャーの中、正確さを求められるパターを打てなくなったのかもしれません。
恐怖、怖さがある
;競争意識、ミスや不合格を恐れる、見られる・聞かれることへの恐怖
中高生時代からイップス症状があった選手は多いです。スポーツをする子供においては、怪我の体験や、指導者やチームメイトの態度を恐れていることもあります。昔は、指導者の暴力や暴言によって、子供が恐怖を抱いたり心的外傷を抱えることは少なくなかったでしょう。
過去のトラウマ、心的外傷
;過去の怪我、身近な人やペットの死、幼少期の家庭でのトラウマ、感情的に大きく傷ついた体験、ひどい痛みや動かせないことのショック、病気や手術など生物として危険な体験、災害、恐怖的な出来事など心理的な傷(詳しくは拙著を御覧ください)
心理的な傷は記憶にないものが多く、記憶にあっても、本人がジストニアやイップスとの関連がわかりません。
野球で、デッドボールや暴投によって、乱闘になったり試合に負けたことで、イップスになることもあります。有名選手がスポーツ紙、週刊誌、SNSで誹謗中傷されたりすることも、心理的な傷を被ります。
クラッシックギタリストで、聴神経腫瘍を患い、手術後に顔面神経麻痺になって、その後、運指がおかしくジストニアになったという方がいらっしゃいます。
職業性ジストニアに共通すること
音楽家のジストニア、スポーツイップス、書痙や画家、理美容師、外科医など、他の職業性ジストニアに共通することは、その人にとって大事な動き、プレッシャーがかかる動きが困難になることです。
ジストニアを発症した時点でプレッシャーを感じていなくても、技術に大切な部位が動かせなくなります。
参照;澤宮 優著『イップス 魔病を乗り越えたアスリートたち 』角川新書
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