降谷建志『One Voice』
こんにちは。
今回は、降谷建志さんの『One Voice』を紹介します。
彼はロックバンド、Dragon Ashのボーカルでもあります。この曲は、降谷さんがソロとして2015年にリリースした曲です。
楽曲解説
最初、ギターやシンセサイザーなどの楽器から音が入ります。まもなく降谷さんのボーカルが入りますが、次が一番の歌詞です。
隙間なく積み足した
不確かな選択で今日を選んだ僕ら
曖昧な正解や
間違いを繰り返しやっと進めるんだ
個人的に、この曲が最初から抽象度の高い表現で始まることに強い共感を覚えます。
私自身よく感じることは、彼の歌詞はいつも抽象と具体のバランスが絶妙だということです。ここに、彼の表現方法が「音楽」である意味を感じます。
もし、「抽象」だけであれば哲学や思想などの別の表現方法があるし、また「具体」だけであれば絵画や写真などのより実存的な表現方法があります。音楽は、そのどちらでもない独自の表現方法です。彼は、その音楽の強みを存分に活かして表現しているように感じるのです。
痛みも負わずに喜べやしないよ
ほら今だって僕のままで
これからだって君のままでずっと
そう、音楽は実存的な意味で「全て」を説明する必要はないのです。むしろ音楽として感じる「余白」を残さないと、それは単なる標語になってしまいます。価値の押しつけでなく、薄っぺらい標語や道徳でもない、音楽の本当の価値がここにあります。
声を聴かせて
言葉にならなくて途切れそうでも
一つだけ確かな事は
迷い続けてここにいる事
彼の寛容で優しい表現だからこそ、「一つだけ確かな事は迷い続けてここにいる事」という”一見ありきたり”な言葉も重みをもって迫ってくるのです。
全てを説明するのでもなく、価値も押しつけない。ピンポイントでそっと言葉を置き、すっと去るような表現。ここに彼の繊細さと美学が結実しているように感じます。
実際、彼のソロ活動はバンドの時よりもさらに洗練された、無駄のない表現になっています。
代償もなしに 学べない僕ら
繰り返す様に そっと塗り替える様に
このように、「説明」をせず、中性的で寛容な表現を許容する限り、音楽はおそらく最も優しい表現であり続けるのです。
声を聴かせて
言葉にならなくて途切れそうで
たった一つだけ確かな事は
迷い続けてここにいる事
大事な事は“迷い続ける” それ自体なんだ
最後の「大事な事は“迷い続ける” それ自体なんだ」という言葉。実存的な意味では、転倒しているように感じます。しかし、それさえ彼の音楽の「非意味の世界」では許されるのです。
音楽の意味を感じる、彼の中性的で優しい世界。”One Voice”はそれを指し示しているのかもしれません。