第316回/2021年の「ステレオ・ディスク・コレクション」を振り返った12月[田中伊佐資]
●12月×日/前回「よっぽどのトピックが出てこない限り、次回はステレオ誌の『ディスク・コレクション』の年間総括」と書いたが、案の定よっぽどのことがなかった。
で、各号で選んだ個々のタイトルは下記の通りとなる。
2月号
Monument/Keaton Henson ①
Serpentine Prison/Matt Berninger
ギミ・サム・トゥルース./ジョン・レノン
10 Years Gone/Deafheaven
3月号
Greenfields : The Gibb Brothers Songbook Vol. 1/Barry Gibb & Friends
Two Saviors/Buck Meek
Living On Mercy/Dan Penn
Wrecking Ball/Emmylou Harris
4月号
Parallels: Shellac Reworks/Christian Loffler
Way Down In The Rust Bucket/Neil Young & Crazy Horse
By Request/A.J. Croce
Just Dropped In(To See What Condition My Condition Was In)/Sharon Jones & The Dap-Kings
5月号
Tone Poem/Charles Lloyd & The Marvels ②
The Moon and Stars: Prescriptions For Dreamers/Valerie June
Baby Scratch My Back/Slim Harpo
Le Pollen/Pierre Barouh
6月号
モージョ・ハンド/ライトニン・ホプキンス
Sooner Or Later/Hamish Stuart
Battle At Garden's Gate/Greta Van Fleet ③
Sun/Tomemitsu
7月号
Delta Kream/The Black Keys
Frampton Forgets the Words/Peter Frampton Band
Ups!de Down/Electric Boys
ブルー・バートン/アン・バートン
8月号
A Rainha Da Viola Caipira/Helena Meirelles
They're Calling Me Home/Rhiannon Giddens
Wary + Strange/Amythyst Kiah
Let's Get Together/Dickey Betts Band
9月号
ビハインド・ザ・ダイクス/ビル・エヴァンス
Beautiful Scars/Merry Clayton
Layla Revisited(Live At Lockn')/Tedeschi Trucks Band Featuring Trey Anastasio
Fist Full Of Devils/Earl Slick
10月号
Nocturne/Charlie Haden
The Good Samaritan Tour 2000/John Mellencamp
Careless Love/Madeleine Peyroux
Mingus at Carnegie Hall/Charles Mingus
11月号
The Look Of Love(Burt Bacharach Songbook)/Traincha, Metropole Orchestra
この猟犬スライドに憑き/ハウンド・ドッグ・テイラー&ザ・ハウスロッカーズ
マイルストーンズ/マイルス・デイビス
Mr Luck - A Tribute To Jimmy Reed: Live At The Royal Albert Hall/The Ronnie Wood Band
12月号
Carnegie Hall 1970/Neil Young ④
662/Christone Kingfish Ingram
Grand Songs/Lisa Ekdahl
All I Know So Far: Setlist/P!NK
1月号
Another Side/Leo Nocentelli ⑤
Deciphering The Message/Makaya McCraven
In Baltimore/George Coleman
Heavy Load Blues/Gov't Mule
昨年もやはりすべて自分が欲しいもの基準で選んだレコードだった。そのほとんどは輸入盤だ。
まあCDそのものがあまり買う気がしないのでこれはもう仕方がない。となるとCDでしか聴けない作品は完全スルーしていることになるのだが「これは話題作だから」とか「こういうのが好きな人は多いはず」というような欲望とは別の視点は僕にはない。
このなかから復刻盤は除いて(ジョン・レノンやライトニン・ホプキンスが入ってくるとややこしい)、録音が古くても初めて世に出た新譜に絞ってマイベスト5を選んでみるとこうなる(雑誌掲載順)。
①Monument/Keaton Henson
キートン・ヘンソンは英国フォーク系シンガー・ソングライター。ギターやピアノなど楽器は最小限に抑え、囁くように静かに静かに歌う。
雑誌には「最初は素っ気ないと思ったが、そのうちじわじわと染み込んできた」と書いたが、その染み込みがどんどん拡大した。
雑誌のその号ではイチオシではあったけど、まさかその段階で年間ベストに選ぶとはまったく想像していなかった。地味シブな音楽は一度いいなあと心に刻まれるとなかなか飽きがこないものだ。
②Tone Poem/Charles Lloyd & The Marvels
チャールス・ロイドのサックスはもちろん好き。だがそれよりロイドの老境に入ってからの音楽の世界観、視野の広さが僕にとっては気持ちいい。
具体的にいえば、ギターのビル・フリゼールとペダル・スティールのグレッグ・レイズが属すザ・マーヴェルスと絡んだジャズのようなアメリカーナのようなファンクのような、型にはまっていない目線がまさに新鮮。
マーヴェルスはロイドのために結成したバックバンドのようなのだが、このバンド名義の作品をぜひ聴きたい。前も書いたけど。
③Battle At Garden's Gate/Greta Van Fleet
70年代ストロングスタイル・ロックの温故知新サウンド。オッサン・ロッカーが焼き直しをしているのではなく、平均年齢25歳のバンドというのがとてもいい。
僕はデビューシングルなどのEP集『From The Fires』が好きで、デビュー盤はまとまりが良すぎてもうひとつ引っ掛からなかったのだが、このセカンドは一皮剥けてポップ度が増した感じがある。
このまま70年代ロックの旨味を継承しながら、若さ一杯のエネルギーを発散して欲しいです。
④Carnegie Hall 1970/Neil Young
優れたライヴの海賊盤を公認する「オフィシャル・ブートレグ・シリーズ」第1弾。といってもカーネギー・ホール公演はこのとき2回行われていて、流出していたのは第2回のほう。これは1回目らしい。なので新たに発掘された音源といえるが、そのあたりの意図はナゾ。
というかそんな背景はどうでもよくて、生ギターとピアノの弾き語りで初期の名曲を歌いあげるヤングの熱唱がとにかく素晴らしい。カーネギーという場所と満員の観客が激しく鼓舞したと解釈したい。
⑤Another Side/Leo Nocentelli
ミーターズのリードギタリスト、レオ・ノセンテリが70~72年にかけて録音したソロ・アルバムなのだが、発表前にテープが消失、いまから3年前にカリフォルニアのマーケットでレコードコレクターが発見したという。何という奇跡的な発掘。
ミーターズのファンクなサウンドとは異なり、アコースティック楽器を用いたラフなセッション風の仕上がり。ニューオリンズの腕利きミュージシャンたちのグルーヴ感はハンパではなく、雰囲気的は牧歌的なのだがリズムのノリが強烈だ。
(2022年1月20日更新) 第315回に戻る
過去のコラムをご覧になりたい方はこちら
→Twitter
東京都生まれ。音楽雑誌の編集者を経てフリーライターに。近著は『大判 音の見える部屋 私のオーディオ人生譚』(音楽之友社)。ほか『ヴィニジャン レコード・オーディオの私的な壺』『ジャズと喫茶とオーディオ』『オーディオそしてレコード ずるずるベッタリ、その物欲記』(同)、『僕が選んだ「いい音ジャズ」201枚』(DU BOOKS)『オーディオ風土記』(同)、監修作に『新宿ピットインの50年』(河出書房新社)などがある。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?