見出し画像

バイエルをやりたい人へお勧めの曲番

バイエルは、その単調さとつまらなさで有名な初級ピアノ教本で、指導者、学習者とも毛嫌いする人は多い。一方、生徒の指向を無視して全員にバイエルを使わせる先生も未だにいるので、これが性に合わない場合、結構辛いかもしれない。一般的に言って、現代の子供たちの感覚には合わないし、大人にとっても、これが大好きになる人は稀である。

それでもバイエルの全てが悪い訳ではなく、使い方によっては有効活用出来る。特にクラシック独習者には、一人で理解し易く、その単調さゆえに、読んで弾いていくだけでそれなりに読譜の基礎が習得出来るよう構成されている。古典派音楽(モーツァルトやハイドンやベートーヴェンの一部など)しか興味がない、初等教育試験などで単純な伴奏が出来れば充分という場合には、バイエルで基礎を覚えるのは都合が良い面もある。

今回は、あくまで上達を目指すための、読譜、テクニック、音楽性習得という観点から、バイエルの中でも弾いて損はないだろうという曲番をピックアップしてみる。基本的にバイエルは要らないけれど、いくつか弾いてみるとしたら何番をやるのが効果的か知りたい、という学習者向けである。

バイエルは片手練習から始まって、両手の練習に入り、各音部記号を覚え、音域、音符の種類を拡張しながら、106番まで続く。今回は両手を使う3番以降で、伴奏を要さず、学習者一人で弾くものの中から取り上げる。なお、バイエルは新しく学習した調や音楽規則を使って、それらを定着させるために似たような曲を繰り返すという構成なので、調の偏りなく学習したい場合は、教本にある全ての調の曲を、最低一曲は弾くことを勧める。

①対位法的動きを習得出来るもの・・・16、22、24、25、27、37、40、60、75、79、95

バイエルは単純なメロディを単純な三和音の伴奏に合わせたものが多いが、対位法的な動きの入った曲は、比較的よく出来ている。左右独立した動きを確実に出来るようにすることは、ピアノ上達のための大事な要素。バイエルは右手に偏っている部分が多いので、これらの曲は左手のテクニック習得にも役立つ。(似たような曲は省いた)

②バイエルの中では音楽性があり、表現の工夫など多少は楽しめるもの・・・67、75、79、80、81、82、88、91、95、98、100、102、

バイエルの中には苦痛しか感じない非音楽的な曲もあるが、多少なりとも曲想を楽しめるものもある。これらは無味乾燥な練習ではなく、曲を弾いているという感覚を味わえる。また、左右の交差が要求される曲も含めた。

③つまらないが、単にテクニック習得のために役立つもの・・・56、65、83、84、96、97、101、105、106

他のテクニック教本を使わず、どうやって指を動かして良いのか分からないという場合には有効。音階や半音階の指使いなど基礎を覚えておくと、必ず役に立つ。和音の連続を綺麗に弾くための練習として、効果的な曲もある。

一曲ずつ分析しながら気づいたのは、バイエルの中でも両手曲の初歩である15〜40番辺りの独奏練習曲は、読譜の基礎の基礎を固め、左右の独立した動きを習得するために、結構よく出来ているのではないか、ということだ。誰もが躓かずに進めるよう、なだらかな進行具合で、飛躍や無理の生じる箇所がない。ただし、バイエル後半は、メロディ+単純伴奏のパターンが多過ぎであり、これを全曲やることにどれだけの効果があるかは疑問である。個人的には75%もやれば充分かと思う。

クラシックピアノを始める人は几帳面な場合が多く、教本は全曲やるものという意識が高いかもしれないが、上達の面から言っても、効率の面から言っても、それはお勧めしない。全曲やることにこだわると、それ自体が目的となり、何を目標にその教本を使っているかという点を考えなくなってしまう。

早いうちから、多くの作曲家の多彩な音楽に触れた方が、音楽性が高まることはもちろん、楽しさも加わって、結果挫折が少なくなり、長続きするものだ。無理して全曲制覇にこだわっても、得られるものは少ない。バイエルも同様。

クラシック音楽の楽譜は、教本も含め、相当数無料ダウンロード可能なので、わざわざ購入しなくとも、数曲だけ試し相性を確かめてから、メインの教本として使うことを決められる。音源も無数にあるので、聴覚的に自身の感性にマッチしているかも簡単に調べられる。

楽器上達には、弛まぬストイックな練習と、妥協しない緻密さが不可欠だと考える人も多いかもしれないが、最終的に最も長く続けられ、遠くまで行くのに必要なものは、柔軟性である。いくら練習しても弾けるようにならない、ということは、どこかの時点で必ず遭遇するからだ。しかし、半年放っておいたら、なぜか苦もなく弾けるようになっていた、という事態にも遭遇する。あまり一つの要素にがんじがらめになってしまうと、上達も愉しみも阻害されてしまう。

プロの演奏家にだって得意不得意は存在する。だから得意とする部分を最大限活かすようなレパートリーを作っている。その辺りの自己分析が、プロは凄く上手いのだ。

人間は機械ではない。自分の嗜好や感性を無視して闇雲に練習しても、百害あって一利なし。






いいなと思ったら応援しよう!