初見能力の高め方 その2
その1で、初見能力は
1、的確な情報処理をするために、楽譜を読み取る合理的な目の使い方。
2、楽譜情報を即座に再現するためのテクニック。
3、楽曲の展開がある程度予想できる理論の知識。
の3つに集約出来ると書いた。今回は、ピアノ初見演奏の練習に取りかかる前に必要な、前提部分について書く。
まず、楽譜が読めるというのは絶対条件である。日本語の文章を読むには、平仮名、片仮名、漢字、句読点、各種記号などを知らないと、そもそも文を理解するのが不可能である。同じように、楽譜を読むには楽譜に登場する個々の要素を知っている必要がある。ではどの程度のレベルまで頭に入っている必要があるかというと、これは最終的にどの程度複雑な楽曲まで初見で弾けるようになりたいか、という目標次第だ。
4声のフーガや現代曲なども初見でスラスラ弾けるようになりたければ、当然それらの楽譜が自力で読める必要がある。ブルグミュラーやソナチネのような、古典の初級辺りまで対処出来れば良いと考えるなら、そこまで難しい読譜は必要ない。大事なのは、楽譜を自力で再現出来るという点だ。参考音源を聴いてからでないと上手くリズムが取れないとしたら、それはまだ自力レベルには至っていない。片手ずつ譜読みしたり、ゆっくり練習したりすれば、時間がかかっても、自分だけで一通り弾けるようになっているか、というのがポイント。
特に、音は読めてもリズムは聴覚頼りに弾いて来たような場合、視覚情報だけでは拍子に当てはめて弾けなかったり、シンコペーションが崩れたり、思った以上に苦労する。音楽は楽譜ありきのものではないので、耳コピでも何ら問題はないのだけれども、初見能力に限って言えば、視覚情報だけでリズムが取れないと次に進めない。古典音楽だけなら大して複雑なリズムは要求されないので、巷に溢れる教本を使ってみると良い。メトロノームを鳴らして、様々なリズムパターンを当てはめて弾く練習も効果的。漠然とリズムを真似るのではなく、縦の線を意識してリズムが取れるようになると、応用が効く。
他に、拍子、調性、調号、五線上の音の配置、装飾音記号、繰り返し記号を知っているというのが、読譜の最低条件だと思う。これに、各種アーティキュレーション、強弱記号、発想記号、速度記号などが加わるが、この辺りは多少曖昧であったとしても、何とか弾けてしまう場合が多い。
高度な曲まで弾けるレベルでないと初見は無理、と考えるのは間違っている。それなりに意識して初見能力を身に付けようとすれば、自分が練習して弾けるレベル×75%位までは、初見で弾くことが可能だ。これは小学生でも可能だし、初級者でも可能。ただ、初級のうちは何かと、楽譜を正しく読んできっちり弾こう、ということが求められがちなので、楽譜は練習して弾けるようになるもの、という先入観が植え付けられる。よって初見能力は上級者のもの、という思い込みが生まれる。
もし初級者のうちからどんどん初見能力を伸ばしたいと思うのなら、確実に弾けるレベルの曲を片っ端から弾くのが効果的。少し難しいものにチャレンジしてみたくなるかもしれないが、初見能力という点から言うと、量が大事なのだ。その代わり似たようなものに偏らず、様々な様式、性格、調性の楽曲を使うと幅が広がるし、飽きない。何とか名曲集のような本が色々と出版されているが、初見練習に使い勝手が良い。インターネット上にも無料楽譜がいくらでもあるので、わざわざ購入しなくても、楽譜には不自由しない。
そして、もしどこかで習っている場合には、先生に初見能力を高めたいと言っておくと良いと思う。一般によくやるような、練習、訂正、発展を繰り返すようなレッスンは、音楽的には上達するけれども、初見練習にはもう少し別のアプローチが必要だからだ。例えば、弾けるレベルの連弾曲を毎回初見で弾く、というのはとても良いトレーニングになる。一定の速度を保って読み続けるという点が、強制的に無意識に訓練されるからだ。そして、初見の前提条件である、楽譜理解のどこに弱点があるかが客観的に分かる。多くの場合、リズム、拍の問題であることが多い。
次回は、初見練習で最も重要と思われる、1、の目の使い方について書く。これが最も大事だと思えるのは、テクニックや曲の展開についてはある程度弾いていると自然に身につくけれども、目の使い方は意識しないと変わらないからだ。