Chris Spedding / クリス・ペディング ソロ・アルバム 1976
クリス・スペディングはイギリス人スタジオ・ギタリストで著名アーティストのレコーディングとツアーに参加していた。
その中でもスコットランド出身のフォーク・ロック・ミュージシャン、ドノヴァンのレコーディングで知り合ったプロデューサーのミッキー・モストからモスト自身が運営するRAKレコードのソロ・アーティストの契約を結ぶことができた。1976年に本作のソロ・アルバムをリリースしている。
イギリス人ロック・ギタリストのシンプルな「アメリカーナ」がコンセプト
アルバムリリースの前年「Motorbikin」という曲をシングル先行でレコーディングしている。この曲で革ジャンにグリースで固めた髪というバイカースタイルで「トップ・オブ・ザ・ポップス」などのTV番組出演し、イメージを確立する。このコンセプトをアルバム制作に発展させていく。
そして究極の音のミニマリスト
プロデューサーのミッキー・モストとクリス・スペディングの「作品コンセプト」を一致させ追求した結果、本作品は「究極の最小人員の簡素化」に辿り着く。
それは極限までそぎ落とされた音で、メロディ・ラインもギターシンプルなリフやバッキング、アコギのストロークだけで聴き手の記憶に残る作品を作っている。ベース、ドラム、ギターのみの全編構成で、キーボードとピアノも一切存在しないという徹底ぶりだ。
作品を聴いた推測からの使用ギター、セッティング
エレキ・ギターはギブソン・フライングVを使用。ギターの音の伸び(サスティン)具合からギブソンのハムバッカー・サウンドでアーミングをかけた音が聴けるのでフライングVはアームが装着されたギターでもあるので、この点から判断。
アンプは同じ英国のVOXのコンボタイプのアンプをボリュームの加減で歪ましてるか、あってもブースターのスイッチで歪ましているのではと推測。ピッキングの微細な強弱のコントロールでフィードバックやサスティンを得ている。
アコースティック・ギターはこれはギブソンのフラット・トップ系統でJ200か。コード・ストロークの「美音」を作中で追求しているよう聴こえる。あったとしてもギルドのメーカー系統か。
曲目
1 New Girl in the Neibourhood
2 School Days
3 Sweet Disposition
4 Enchanted Girl
5 Guitar Jamboree
6 Jump in My Car
7 Hungry Man
8 Motor Bikin'
9 Catch that train
10 Nervousness
11 Boogie City
12 Working for the Union
13 Running Around
14 Truck Driving Man
曲目抜粋
Guitar Jamboree
クリス・スペディングのルーツとなっている黒人ギタリストへの憧憬と同時期の英国同期のギタリストのオマージュが1つの曲中にまとめられた曲。本作品ハイライトになっている。
一番最初に黒人のブルース・ギタリストのアルバート・キングを出して来ている。2人の共通項は同じフライングVを使っていることだ。
フライングVは、当時ギブソン社長がピアノのセールスマンの経歴から左右対称のVシェイプは均等な鳴動とサスティンが得易いという開発動機があり、アルバート・キングの長めのチョーキングはこのギターを選ぶ動機になっている。
クリスの作中のプレイはそのチョーキング&ビブラートと残響音のサスティンを強調させた最大級のトリビュート・プレイなのである。
チャック・ベリーが2番目に出てくるが、ここではあえてこもった音にさせることで本家に似せてきている。そして歌詞のダックウォークの後世に与えた影響についてと、ジョニーBグッドのあからさまな定番フレーズに加え、わざとつまらせるプレイ箇所など細部を己のフィンガリングでリアルさを追求している。
そして3番目は避けては通れないギター・レジェンドのジミ・ヘンドリックス。ここも同じフライングVでのプレイ、ここでは、フロント・ピックアップと機材のマホガニー本体から出る「甘いサウンド」を強調している。
そしてバッキングがトレードマークの通称ジミヘン・コードでアグレッシブにソロを弾いている。
早弾きも肉迫しているが、特にわざと音を外すオーバー・チョーキングをさりげなく1か所入れるところに細かいが、それこそが本質的な特徴を分かりやすく伝えている。
以降フェイド・アウトするまでに登場するギタリストは、メドレーほぼ英国人の同時代の同業ギタリストを瞬時にフレーズを羅列していく。
ジャック・ブルース(英国人ベーシスト)、ピート・タウンゼント、キース・リチャーズ、ジョージ・ハリスン、エリック・クラプトン、ジミー・ページ ジェフベック ポール・コゾフ レスリー・ウエスト(アメリカ人マウンテンのギタリスト)、デイブギルモア
特にジミー・ページ、ジェフ・ベック、 ポール・コゾフの3人をピックアップ。
ジミー・ページの初期ツェッペリンの「ハートブレイカー」(そこを選ぶか!)
ジェフ・ベックはスティービー・ワンダーのゲストで弾いたワンフレーズ
(それなんだ、でもOK!)
フリーのポール・コゾフの1959年製レス・ポール独特サウンドに剛腕チョーキング&ビブラートをたった一発のみ表現(それしかないのを敢えて盛り込むスリリングさ!)
これ以上無いくらい本質とリスナーへの伝達性は、彼しか出来ない。
総論
全パートの演奏がしっかりしているので、骨太な演奏が気持ちよく聴ける。
徹底的に簡素化された本作品だが、余計なものを究極に削ぎ落していった結果、他では見かけない「ロックの本質なカッコよさとは何か」を具体的に提示している隠れた名盤。
終わり