1982 ボニー・レイット / グリーン・ライト (2008 リマスター・バージョン) Bonnie Raitt /Green Ligtht
女性スライド・ギタリスト&シンガー、ボニー・レイットの1982年の作品
イアン・マクレガンがリーダーの「バンプ・バンド」と主体的に組む。
だがバンドとの共作は僅かで、従来のの外部ソングライターの個人楽曲なり合作で構成されている。
かねてからNRBQの音楽ファンだった
前作のスタックスのアイザック・ヘイズ、モータウンのメリー・ウェルズのソウル・ミュージックやロバート・パーマーの言うなれば洗練されたカバーから今回テイストを変える。
(元祖パワー・ポップ)ロックンロール・バンド「NRBQ」のカバー2曲。他にもNRBQテイストをまとったレゲエ・ナンバーはロッキン・レゲエのアレンジで垢抜けている
音のレンジやエコー、ギターがクリアでエッジが効いた硬い音作りになっている。
本作品でプロデュースをエリック・クラプトンの「No Reason to Cry」で実績のあるロブ・フラボニに託し、彼女の今作の音の意向に沿って整合を図る役目を務めている。
YOU TUBE、アマゾン・ミュージックで視聴が可能
収録曲
Keep This Heart in Mind
River Of Tears
Can't Get Enough
Willya Wontcha
Let's Keep It Between Us
Me And the Boys
I Can't Help Myself
Baby Come Back
Talk To Me
Green Lights
曲目解説
Keep This Heart in Mind
1曲目はレイドバックしたミディアム・テンポのナンバーで明ける。冒頭
珍しくディストーションをかけたバッキングのスライド・ギターでアプローチ。全体の音量の大きさと楽器の分離もはっきりしている。
常連参加のジャクソン・ブラウンがバッキング・ボーカルで参加。
明快でストレートなロックで幕を明け、吹っ切れた印象を与えている。
River Of Tears
旧知のシンガー・ソングライターのエリック・カズ作曲のナンバー。
ここでも力強いアレンジで、ドラムの音量の大きさに伴って各パートの楽器の音量も分離して大きい。ここでも直球で展開。
フォーキー&アコースティックのエリック・カズと申し合わせているのだとは思うが、異例のラウドなサウンドがサプライズ。
そしてよく聴くとサビのタイトル部分から男声コーラスが「ザ・バンド」のリチャード・マニュエルが一緒に歌っている。
曲に一層の厚みと幅という存在感が増幅されている。そこに音数の少ないスライドギターの絡み、魅力が倍増している。※クリーンもしくはオーバー・ドライブ気味の音の方がやはり耳にスッと入って来やすい。
ミディアム・テンポのソウル・バラードはいかにも「ザ・バンド」っぽいがここではトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズにもアプローチが近い気がする。
Can't Get Enough
ボニー・レイットとウォルト・リッチモンドの共作でイントロはレゲエのテンポで始まり歌メロからマイナーコードの曲調に上手い具合に変わる。
共作者は後年エリック・クラプトンでのキーボード・プレイヤーとして、またプロデューサーとして活躍していくが、相変わらず人選の慧眼があり、当然曲全体がが良い。
そして左右のクリーンのシングルコイルのトーンのリフはジョニー・リー・シェルで後年ジョン・フォガティのツー・ギタリストでも起用されるという人材だと分かると存在感のある演奏と音であることに気づく。
Willya Wontcha
ジョニー・リー・シェル作曲のナンバーはロッキン・ブルースで作中で最もキャッチーで分かり易い。※ジョン・フォガティのバンドでもそれこそハマるだろう。
このグルーブとノリ。。どこかで感じたことのあるのはローリング・ストーンズっぽくもあり、ファビュラス・サンダーバーズをも彷彿させる。
バンプ・バンドのリーダーのイアン・マクレガンの跳ねたピアノが躍動する。ボニー・レイットのスライド・ギターも作品中最もドライブしている。
Let's Keep It Between Us
ボブ・ディランのカバーでブルージーなナンバーとチョイスが渋い。
ボニーは歌に徹しており、腰の据わったボーカルだ。
タメを作り重たいブルージーなアレンジに仕上げている。
プロデューサー/アレンジャーのウィリアムD.”スミティー”・スミスの
オルガンが重要な位置を持ち存在感を持つ。
前の曲と本曲の流れが良く、曲が一層際立っている。
後年のディランのマジソン・スクエア・ガーデンの30周年ライブで演奏してもおかしくない。それどころか、あのステージで実際演奏してる風景が浮かんでくる。
Me And the Boys
NRBQのナンバー。今回の普段よりもエッジの効いたロックというコンセプトととして最も象徴的だ。
同曲カバーだとデイブ・エドモンズのバージョンも存在する。オリジナルのNRBQと近似的で、このボニー・レイットのバージョンも同じだ。
ふと、ジョージア・サテライツもこの曲を演奏したら絶対ハマりそうな妄想が起こる。バンプ・バンドの演奏がここでもハマっていて、特にイアン・マクレガンのピアノがそう思わせてならない。
アルバム中のハイライトのナンバー。
I Can't Help Myself
レイット、シェル、リッキー・ファター 、レイ・オハラ(小原礼渡米して音楽活動)のクレジットは、ようやくここでバンプ・バンドとのクレジット曲が登場する。
これまでに聴かないパワー・ポップなナンバーで演奏も迫力を感じる。
ギターが左右にリック・ヴィトーが追加で参加してるが、ラフ気味なリズム・ギターがストーンジーだ。※ギターのイントロもスタート・ミー・アップみたいなタメがあるし、フェイザーを通したオブリもあってモロだ。
ただ、彼女のスライド・ギターがここで聴けないのが物足りない。
Baby Come Back
イギリスのバンド、ザ・イコールズの1967年のカバー。
キャッチーなメロディのスカ&レゲエナンバー。トレモロを深めにかけたギターも珍しい。
ドラムはロックンロールの8ビートだが、この強めのビートに合わせ、彼女のボーカルがパワフルだ。こういう爽快な場面であるが、影のあるボーカルなので独特の視聴感がある。
Talk To Me
後年エリック・クラプトンの"Running on Faith"の作曲者であるジェリー・リン・ウィリアムスのナンバー。
ここも珍しく早いテンポで、前曲同様に前傾気味にパワフル。
彼女のスライド・ギターのソロが来るかと身構えるが、デビッド・ウッドフォードのサックスに委ねている(これはこれで良い)
ラス前まで来て本能的に彼女のスライド・ギターを渇望している。。
Green Lights
ラストは(予定通りの)NRBQのカバー。ここもオリジナルに忠実に再現している。
ここでも今まで聴いたことも無かった尖ったアップ・テンポを意図的に、バンプ・バンドのノリとサウンドを楽しんでいるのが伝わる。
にして、ようやくスライド・ギターが聴ける。フレーズが多めなのと歪み少し多めで珍しい。
この曲もジョージア・サテライツもしくはリーダーのダン・ベアードのソロとかでも演奏してそうな曲だ。(あったら聴いてみたい)
まとめ
イアン・マクレガンがリーダーのバンプ・バンドと組み、彼女が新鮮な気持ちで歌っている。その結果前のめりでパワフルだ。
アコースティック・ギター、ピアノのバラードがいつもあるはずが、1曲も無いところに今回の路線に対する強い意思を感じる。そしてスライド・ギターもあったとしても短くあっさりとして執着が希薄。
密かに感じる「影の声」が魅力なので、従来の作品と比べて明るさと強さがあるとき、この作品の異質さを感じることもある。
後年再ブレイクする「Nick of Time」以降のバンド・サウンドはこの作品が伏線になっている。つまり将来のアーティスト像を再構築と模索を結果的に行っていた作品の様に聴こえる。
もう一つのアコースティック・ナンバーやバラードも名曲が生まれ、表現者としてのバランスが取れたとき、自信を取り戻したシンガー&ギタリストに後年生まれ変わっていく。
終わり