イージー・ライダー サウンドトラック 1969 / Easy Rider Soundtrack (1969 Film)
ロックのサウンドトラックとして先駆的作品。
映画イージー・ライダーはカンヌ国際映画祭新人監督賞を受賞作品。
非合法で得た金を元手に改造ハーレーのバイクでアメリカを放浪するサブ・カルチャー的ストーリー。
俳優のピーター・フォンダ(監督と脚本)とデニス・ホッパー(脚本)による1969年公開のアメリカ映画。コロンビア映画配給。
映画のサウンドトラック・アルバムは1969年8月にダンヒル・レコードから発売された。1970年1月にゴールド・ディスクに認定された。
当時を反映するロック・ナンバーと映画が融合し、選曲も内容もユニークなサウンドトラック。
曲目
1 The Pusher / Steppenwolf
2 Born To Be Wild / Steppenwolf
3 The Weight / Smith
4 Wasn't Born to Follow / The Byrds
5 If You Want to Be a Bird (Bird Song) / The Holy Modal Rounders
6 Don't Bogart Me (Elliot Ingber/Larry Wagner) / Fraternity of Man
7 If 6 Was 9 / Jimi Hendrix Experience
8 Kyrie Elerison / The Electric Pruns
9 It's Alight Ma (I'm Only Bleeding) / Rodger McGuinn
10 Ballad of Easy Rider / Rodger McGuinn
曲目感想
1 The Pusher / Steppenwolf
ブルース・ロック・バンド、ステッペンウルフの1968年のファースト・アルバムからの収録曲。タイトルは映画のアイディアにも直結する「密売人」。
長尺でタイトルのイメージのままダークかつダウナーでギターの怪しいフィード・バックが耳に残り落しどころが無い。
リーダーのジョン・ケイルのスタジオ入りの遅刻から、待機時間でキーボード奏者のジャム演奏から作られたようだ。
2 Born To Be Wild / Steppenwolf
「ワイルドで行こう」という直球の邦題曲は、バンドの代表曲でもあるが、現在でも馴染みの多いスタンダード・ナンバー。
本作品のバージョンはイントロにバイク音のSEが付け加わっている。
ギターはリア・ピックアップを選択してカリッと乾いたトーンだ。エフェクターは「ファズ・ペダル」を通すことで粒立ちの粗い凶暴な歪みを施している。
ファズというエフェクターを最大限に有効活用しており、キーがEでギターの響きが耳に残りやすいリフだ。ハーレーダビッドソンのバイクの疾走シーンにこれ以上ないくらいハマっている。
「The Pusher」と「ワイルドで行こう」の2曲が映画のイメージの土台だ。
The Weight / Smith
オリジナルのザ・バンドの有名な曲だが、使用許諾NGだったためデビューしたばかりのスミスというグループがこの作品用にレコーディングを行うことになった。
ボーカルのジェイムス・クリバーンの歌の上手さがストレートに伝わる。歌詞の発音が良いのと、ピッチも安定して爽やかな作風になっている。
オリジナルよりキーが1音下がっている。しかしアコースティック・ギターのイントロの開放弦を使ったフレーズがザ・バンドと同じなので、ギターの弦を1音下げたチューニングで弾いている可能性が高い。
その影響で開放弦の音色も少し違う。
オリジナルに忠実に演奏しているが、スミスの方が空間や音圧が少し平坦な印象だ。
Wasn't Born to Follow / The Byrds
バーズのナンバーは映画の荒涼としたシーンに合っている。
中盤でドラムがいきなり左右にフランジングする。カントリーから一転サイケデリアに変貌する。そして程なく何事もなかったかのようにカントリーの曲調に戻る。※以後も揺れ系重視で選曲されている。
演奏では、ギターのクラレンス・ホワイトのストリングベンダーのテレキャスターで、彼特有のカントリー・フレーズの存在が聴きどころ。
ドラムはデレク・アンド・ザ・ドミノスで有名なジム・ゴードンが叩いており歴史的にも貴重なトラックだ。
If You Want to Be a Bird (Bird Song) / The Holy Modal Rounders
ホーリー・モーダル・ラウンダーズはニューヨーク出身のフォーク・ミュージックを土台にサイケデリック風味をブレンドさせた少し変わったフォーク・デュオだ。
※ちなみにスティーリー・ダン、ドゥービー・ブラザースに在籍する前のジェフ・バクスターがギタリストとして在籍した驚愕の事実が判明!
魔訶不思議な作風で、(やはり)ボーカルを右から左にフランジングさせたり、長めのフィードバックをさせたりして遊んでる。何やら鳥のように自由に「アチらの世界」にトリップしたくて仕方がないようだ。
Don't Bogart Me / Fraternity of Man
今度はこのグループ、ドラムがリトル・フィートのリッチー・ヘイワードが叩いているということが判明!
が、しかし超スローなカントリー・ソングでリムショットしか聴こえないのでどんなドラミングだったのか分からない。。
ペダル・スティールのスローなテンポに耐えきれない。頑張ってこのテンポに付き合っていくうちに曲はブレイクする。
突然途中から「ローーー」って声が左右にパンニングさせていく。
何回も書くがとにかく極端に左右に振っていく曲に軸足を置き過ぎている。
If 6 Was 9 / Jimi Hendrix Experience
ピーター・フォンダとデニス・ホッパーは、この曲の挑発的で謎めいた歌詞から映画のエンディングのアイディアを拝借している。
この曲もやたら歌やRAPが左右にパンニングしていく。さらにダメ押しとばかりにフランジャーをかけている。演奏的に映えるジミヘンのナンバーを選ぶのではなく、いかに心の闇を覗かせるかに選曲のエネルギー注力している。
Kyrie Elerison / The Electric Pruns
このサウンドトラックの裏ハイライトで曲が極めつけの揺れ系だ。
エレクトリック・プルーンズは、綿密に計算して録音に臨んでいるふしがある。
バンド名に「エレクトリック」とつけるだけあって、ギターにかけるトレモロやリバーブ、ワウ・ペダルの周波数のかけ方やファズのフィード・バックも相当試行錯誤しているのか確信的だ。
楽器メーカーのVOXとプロモーション契約の実績もあり(偏執的な)ノウハウも充分蓄積してるようだ。
この曲は上記のように高い技術力を持っているが、演奏側の満足度を優先し、聴き手にどういう風に聴こえてるのかという考えが欠落している。
逆にそれも折り込んで計算しているのが何となく聴いてて分かるのでちょっと怖い。。
例えば、ボーカルが教会のエコーのような処理に加えて何か経典を唱えてるような歌なのだ。演奏も様々な揺れ系のアイディアを地雷のように仕込んでいる。。
ある意味で先駆的で狂気の異才集団かもしれない。
It's Alight Ma (I'm Only Bleeding)
Ballad of Easy Rider / Rodger McGuinn
「It's Alight Ma」は最初にオリジナルのボブ・ディランに曲の許諾を依頼したが許可が下りなかった。そのため名指し指名でもあったロジャー・マッギンにハーモニカとアコースティック・ギター1本での弾き語りでカバーする事になった。
普段のバーズでは見かけない激しいコード・ストロークだ。
長めの歌詞をブロークンに歌っている。
「Ballad of Easy Rider」はボブ・ディランがナプキンに書いた詞の断片にマッギンが歌詞を加えて曲を作って完成させたようだ。
しかし、ディラン本人の希望で歌詞のクレジットが無いロジャー・マッギンのオリジナルという体裁になっている。
同年、自身がリーダーのザ・バーズでそのままの「Ballad of Easy Rider」というアルバム・タイトルでリメイク・レコーディングしている。
そこでは、川の流れをアコースティック・ギターのアルペジオで丁寧に表現し、オーケストラ仕様で最終バージョンを仕上げている。
このサウンドトラックの存在意義というか律儀なロジャー・マッギンの良心的行動は、殺伐とした映画ゆえに何か救われた気がする。。
総論
王道のロック・ナンバーと幻覚イメージが強過ぎる曲の混沌さが極端で映画同様に表の顔と裏の顔がある。
有名な曲は、サウンドトラックの収録曲として聴いてみると違った音の風景が見えるかもしれない。
既存の曲が映画のためにあるのでは無く、既存の曲からアイディアを拝借して映画を完成させたとも推測できるサウンドトラック作品。
終わり