20240802 ジョン・レノン「 I'm the Greatest」 & 「Rock'n Roll People」 / John Lennon 「Mind Games The Ultimate Collection」
1973年リリースの元ビートルズのジョン・レノンのソロ・アルバム、「マインド・ゲームス」のUltimate Mixesと銘打った新バージョン。2024年8月2日リリース。
収録曲ラスト2曲がアウト・テイクスとして「I'm the Greatest」「Rock'n Roll People」が視聴できる。
※アマゾン・ミュージックとYOU TUBEで視聴可能
「マインド・ゲームス」リリース時の1973年(70年代前半)は個人のアメリカ永住権の獲得問題、政治、反戦などありとあらゆる世の中の問題を積極的に発信することでミュージシャンを逸脱した「世の中の渦中の人物」と化していた。
さらに家庭では年長パートナーのオノ・ヨーコとの距離が近すぎるが故の人間関係のヒート・アップ(同志、ソウル・メイトの一方で本能的に相入れない価値観の齟齬)などの結果のアルバムリリース後の別居など神経をすり減らすギリギリの日常を送っていた。
そんなジェット・コースターの日常が濃厚かつリアルに反映された「マインド・ゲームス」が録音された一方で、しがらみが少ないピュアなジョン・レノン像を彷彿させる2曲が本作にラスト2曲追加して収録されている。
I'm the Greatest
メンバー
ピアノ&ボーカル ジョン・レノン
ギター ジョージ・ハリスン
ドラム リンゴ・スター
ベース クラウス・ヴーアマン(フォアマン)
曲目感想
ほぼビートルズのメンバーの録音
ビートルズのメンバーのリンゴ・スターに送った曲のジョン自身のボーカル・バージョン。
ドラムがそのリンゴ・スター、ギターにジョージ・ハリスン、ジョンのソロ作品に参加し、ビートルズのドイツ遠征時代の旧友のクラウス・ヴーアマン(フォアマン)のビートルズに近いメンツで録音されている。
曲のタイトルも作曲者のジョンのソロでリリースしてしまうと、ひんしゅくを買いそうなところを「愛されキャラ」のリンゴが歌うことで曲が見事に中和されている。それを織り込んだ上でのレコーディングのバージョンになっている。
リンゴへの本番レコーディング前の状態をパッケージされている。
本リリースの「究極ミックス」は音も分離し、前面に声も楽器も聴こえる。
ただリハーサル・バージョンなのでギター・ソロが入るであろう途中で「OK」とジョンが演奏を中断させてしまう。しかしその中断よりも「生々しい空気感」がこの曲を意義を充分に上回っている。
すっとぼけた作風がかつてビートルズにあった飄々とした空気というものを一瞬でフィードバックさせてくれる。(理屈抜きにこの臨場感に感動する)
そしてリンゴの本作リリースでは、リンゴがメーターを吹っ切って「グレイト・スター」を演じきって歌ってくれているのが対比的に分かるし、本作のジョンの歌も「基本ラインはこんな感じで歌うけど」っていうガイド・ラインのようにも聴こえる。
ジョン・レノンのコーラスもリンゴのバージョンで聴けるが「あ、ビートルズだ!」と一瞬ハッとするのが最高。
ジョージ・ハリスンのこの頃にはトレード・マークになったスライド・ギターは、リンゴのバージョンでは普段より歪みを増したセッティングでスライド・ギターを弾き「トゥーマッチ感」を敢えて演出させた最終バージョンが聴ける。
だがジョンの本作のバージョンはスライド・ギターが入っておらず「イメージ模索段階」という手探り感が却ってリアリティをもたらせてくれている。
とにかく殺伐とした当時の表の日常とは対比的に「何があったとしても帰れる居場所(ビートルズ)」というものを密かに死守していたもうひとつのジョン・レノンが垣間見えるテイクになっている。
Rock'n Roll People
メンバー
ギター&ボーカル ジョン・レノン
ギター デビッド・スピノザ
ピアノ ケン・アッシャー
ドラム ジム・ケルトナー
ベース ゴードン・エドワーズ
曲目感想
本曲は「マインド・ゲームス」のレコーディング中に録音されている。1986年の「Menlove Ave」の未発表音源を集めたコンピレーション・アルバムでも別テイクとして視聴できる。
今回の「究極ミックス」バージョンはこの1986年のものとは違った出来に聴こえるのと、ラフ気味に感じるので前の段階のリハーサルに近い。
「Menlove Ave」のバージョンはジョンの「(1),2,3,4」のカウントが入ってるが、こちらは録音テープを早回ししたようなキュー音から始まり演奏がいきなり始まっている。
デビッド・スピノザのリード・ギターも本作は手探り感を感じる。しかし、バージョンは異なれどこちらは音が鮮明にリメイクさているので、ギターのレスポールの甘めでサスティーン(伸び)がまろやかに生々しい。トーンが新装されていて魅力的だ。
またギターソロが途中から入ったり、同じフレーズをひたすら繰り返す中盤などは超手探り状態といったドキュメンタリー・アーカイブだ。
ジョンの歌も歌詞がまだ頭に入り切っていなかったりカッコいい瞬間を捕えようとする手探り感や「アレッ(笑)」みたいなリアクションも感じ取れる。
それらを経た結果が「Menlove Ave」の最終バージョンに繋がっていく。
しかし「マインド・ゲームス」では採用されていない。
コンセプトに沿わなかったのだと推測される。しかしこのニューヨークのスジオ精鋭ミュージシャンのバンド・サウンドと言った側面で聴くと非常に興味深い。
何となく粗削りなロックがまろやかに洗練されているように聴けて、これはこれでカッコいい。
また後年の音楽精鋭集団「スタッフ」のメンバーであるゴードン・エドワーズにロック・バンドのテイストのベースを弾くというレアな瞬間とかも非常にありがたみを持って聴きたいナンバーだ。
最終的に本作の行き場となったのは、アメリカのブルース・ロック・ギタリストのジョニー・ウィンターに提供されることになる。
ジョン・レノンの録音でレコーディング・エンジニアを務めたシェリー・ヤクスがジョニー・ウィンターの作品をプロデュースを務める際この作品の採用を勧めた経緯となっている。
そして偶然だとしてもジョニー・ウィンターのためにあるかのような曲をマッチングさせたシェリー・ヤクスのロックンロールのセンスもアンテナが鋭く直感的な現場感覚と嗅覚を持っていたからこそだと思う。
ジョニー・ウィンターはライブのセット・リストのレパートリーとなりライブアルバムで後年収録される「Caputured Live」で史上屈指のロック・ナンバーにバージョンアップし奇跡のロック・ナンバーとなっていく。
まとめ
人生最大の(精神的)過渡期を猛スピードで潜り抜けている渦中の「マインド・ゲームス」。
スリリングな作品の制作の環境下、一方で平行線的に「等身大のロックンローラー」という(きっとそうに違いない)本来のアイデンティティも僅かに残されたエネルギーを持って存在していた。
今後は、このジョン・レノンの「ロックンローラーの魅力」についてキラリと放っていた事実が再評価される(もしくはされ始めている)証拠物件になって欲しいと願っている。
理屈無くシンプルにジョン・レノンの歌と声は「ロック史上最高のボーカリスト」であるからだ。
誰にも入り込むことが出来ない唯一の魅力が未だに眩しすぎるのだ。
ポール・マッカートニーをないがしろにしている訳ではない。
「 I'm the Greatest」の元ビートルズ3人のブッキング、さらに各自メンバーのソロ・アルバムのミュージシャンの起用はビートルズ3人のメンバー必ず誰かが被っている。
ジョンとポールの2トップが1970年代に顔を揃えた瞬間に負のハレーションが起きるのは双方分かっていたと思う。
起用したミュージシャン、例えばギタリストのデビッド・スピノザはポール・マッカートニーで録音で先に起用されているが、こうした接点が疎遠ではない何か意味があったものだと妄想できる。
2023年にリリースしたビートルズ名義の「Now & Then」を4人の再会を熱望していたジョンの曲だと解釈してみば、ビートルズ名義でも無くても何でもよいので4人で顔を合わせて音を出したい気持ちは「マインド・ゲームス」の1973年当時も持っていた。もしくは心の奥に大事に仕舞っていたに違いない。
ジョン自身の「マインド・ゲームス」(心理戦)を整理したとき、新しい何かが生まれていたに違いない。(と思って音楽に接したい)
終わり
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?