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#39 マック・デマルコ『Five Easy Hot Dogs』
服部さんへ
ジェイコブ・バンクス、名前を聞いたこともなかったですが、一聴して好きになりました。表題のセンスもいいですね。
最初はボン・イヴェールやアウスゲイル、あるいはサム・スミスなんかと同じような文脈で聴いたのですが、熟聴するともっとルーツ感が強いというか、ヴィンテージっぽいというか、時代性やトレンドなどとは無縁な気がして、逆にそこが今っぽいのかなと。最近の個人的なお気に入りで言えば、ステファン・サンチェスしかり、ジェイク(JVKE)しかり、ちょっとさかのぼればザ・ストライプスしかり、タイムレスを文字通り体現するアーティストを目の当たりにすると、不思議さと同時に、シンプルに音楽ってすごいなあと思ったりします。
意図的にライヴ・レコーディング風にしているのであろう「Won't Turn Back」に顕著ですが、ゴスペルをはじめとする黒人音楽への畏敬の念みたいなものも伝わってきて、ともすると忘れかけてしまいがちな、感情の発露としての音楽の魅力にじっくり向き合えた気がします。トラップっぽい曲もあるあたり、やっぱり2020年代の才能ですね。
生で聴きたい、観たいと思わせるアーティストでもあります。きっと、心震えるようなライヴ体験ができることでしょう。今後も注目するとします。
マック・デマルコ『Five Easy Hot Dogs』
今回は、初めてインストゥルメンタル・アルバムを紹介したい。考えごとをする時や、ものを書く時に、言葉が入ってくると集中できず、インストを聴くことがけっこう多いもので。
と言っても、マック・デマルコは、インストゥルメンタリストではなくシンガー・ソングライターなのだけど。出身はカナダ。ローファイなサウンドと力の抜けた歌メロが、特にここ数年の自分の気分とマッチしていて、とぼけたような名前の響き(スミマセン!)や、隣のあんちゃんみたいなキャラにもハマってしまった。要は、ゆるいのだ。映えることがすべてで、時間が惜しいからTVドラマなどを早送りで観るティーンも多いという、この隙間のない窮屈な時代に、ゆるいのだ。たとえば、こんな感じ(↓)。
4年ぶりとなる今回のインスト新作は、昨年、旅をしながらレコーディングしたのだとか。アメリカのグアララやポートランド、シカゴ、カナダのヴィクトリアやヴァンクーヴァーなど、楽曲タイトルにも都市名が並んでいて、自身が訪れた地であることは想像に難くない。ゆるい。アルバム・タイトルがまた、ゆるい。
もう何度リピートして聴いているか、わからないぐらいなのだけど、サイケがかった、ふんわりしたポップ・サウンドが、とにかく心地よすぎてたまらない。ホッとする。肩の力が抜ける。生きていてもいいんだと思える。疲れているのか、俺。ともあれ、あえて今作収録曲のMVは貼り付けないので、アルバム1枚通してお試しいただけると、これ幸い。トータル30分ちょっとだし。
ロード・ムーヴィーならぬ、ロード・ミュージック。これはアルコールにもピッタリだ。フジロック@苗場で、雨ではなくきれいに晴れた昼日中に、酔っ払って体感したら最高だろうなあ。また来てね。
鈴木宏和