#46 ギャビ・アルトマン『ギャビ・アルトマン』
ギャビ・アルトマン『ギャビ・アルトマン』
空間に溶け込むような、そんな軽やかな音楽が好き。とりわけベタッとする夏には。そんな季節にギャビ・アルトマンの淡い歌声が届けられた。ギャビは、パリ出身のシンガー・ソングライターで、2018年にジェシー・ハリスと出会ったことが転機となり、21年にEPでデビュー。海外では1月にリリースされたこのアルバムで日本デビューとなった。
初めて聴いた時、ボヘミアンな空気に包まれた歌声だなぁと思ったら、20歳で渡ったブラジルを皮切りに、心の赴くままにロンドン、南アフリカ、ギニア、ポルトガル、ニューヨークを旅してきたという。音楽、特に歌声にはその人の人生が反映される、というか、そういう人となりが感じられる歌が私は好きなのかもしれない。
20歳から始まった旅でギャビは、さまざまな音楽を吸収してきたようで、それらの影響が随所にちりばめられている。カリンバが聴こえたり、歌詞もフランス語、英語、ポルトガル語、そして、アラビア語も少し。語感の違いが作品に生かされていて、私がボヘミアンだなぁと感じたひとつもここにあるのかもしれない。
プロデューサーのジェシーと共作した曲をはじめ、アフリカの島国カーボベルデをルーツに持つ友人が提供した『透きとおった心』や影響を受けたアンリ・サルバドールが歌った『恋の病』なども取り上げている。ジャズやボサノバ、シャンソンなどが溶け合った音楽。そして、さまざまな情景を綴った歌詞、そのなかには地中海を渡る難民の悲劇を歌ったものもあり、心を刺激されるけれど、あまりに明け透けなリアルな表現を好むアメリカの若いアーティストの歌を聴いた後は、脳が浄化される思いがする。
服部のり子