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#23 バディ・ガイ『ザ・ブルース・ドント・ライ』

鈴木さんへ

 テイラーの新作、発売初日からいろいろ記録を作るくらい爆発ヒットをしているようです。確かにFワードは耳を疑いました。でも、それくらいFワードって日常用語になっているってことですよね。ただ、私はまだ女性アーティストがMother F*****を使うのは抵抗があります。
 さて、ドライ・クリーニングですが、初めて知りました。フローレンス・ショーの一見乾いているんだけれど、でも、官能的という声がまずいいですね。ポエトリー・リーディングの手法とロングヘアのルックスに「あなたは、何年生まれ?」と、とても日本人的な質問をしたくなりました。それとゴージャズの対極にあるサウンドも好きです。サウス・ロンドンと言えば、かつては労働者とか、移民とかが暮らすエリアだったけれど、今では開発されて、街の雰囲気がすごく変わってきたと聞いています。それでもサウス・ロンドン出身という言葉にすごく惹かれます。何かそこに未知の可能性のようなものが感じられて…。
 この週末も大阪日帰り出張で原稿のアップが遅くなりました。体力がな~い。


バディ・ガイ『ザ・ブルース・ドント・ライ』

 御年86歳。シカゴ・モダン・ブルースの黄金期を築いたひとりで、若き日に南部ルイジアナ州の農場で働き、公民権運動も経験したバディ・ガイは、ブルース黄金期最後の生き字引と言われている。そんな彼の新作は、まずアルバム・タイトルに泣いちゃう。今はどのジャンルでも”リアル”が重視されて、誰もが自分で曲を書くようになったけれど、ブルースはまさに日常から生まれた音楽。偽りのない心情が誠実に歌われてきた。そこには日常の出来事とかも盛り込まれているので、記録ではないけれど、当時の生活をうかがい知ることが出来たりする。
 その面影というか、バディの歌にも「昔はこうだった」という歌詞があり、色褪せた古い写真が浮かんでくるよう。たとえば、ゴスペル歌手のメイヴィス・ステイプルズと共演している『ウィ・ゴー・バック』では「5セントで一杯のコーヒーが」と歌い始める。この歌が最高!!  声に刻まれたしわから長き人生が伝わってくる2人が1960年代の公民権運動時代を回想しながらも、感傷に溺れず、力強く歌っていて、メイヴィスの「ひどいもんだったわ」という心の声が聞こえてきそうな、思わずもれた苦い失笑のような声にグッとくるし、言葉を持つようなギターも静かに叫んでいるし。2人がアドリブで会話するように歌うアウトロなんて、この年齢だからこそのもの。でも、決して枯れていないのよね。

 また、86歳のバディより3歳も年上のボビー・ラッシュとの『ホワッツ・ロング・ウィズ・ザット』なんて最初のジャ~ンと響くギターの音にワ~と口を開けたまた金縛り。他にもウェンディ・モートン、ジェイソン・イズベル、エルヴィス・コステロ、ジェイムス・テイラーといった人達もゲスト参加している。
 どこかで「ブルースは、アフリカン・アメリカンのサウンドトラック」という言葉を読んだことがある。決して悲哀ばかりを表現している回顧主義の音楽じゃないとも。それを心から実感できるし、バディのギターも、オルガンも、ドラムも、バックコーラスも全てが一流で、一音一音全てに魂が込められた演奏。こういう音楽の前にすると、言葉が無意味に思えてしまう。ぜひどんな世代にもどんな音楽のファンにも聴いてもらいたい。

 また、宣伝になってしまいますが、構成を担当しているラジオ番組『My Jam』の今週水曜日、9日の放送でバディ・ガイを紹介します。こちらも良かったら、聴いてください。
詳細:https://www.fmosaka.net/_sites/16783599

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