#23 バディ・ガイ『ザ・ブルース・ドント・ライ』
バディ・ガイ『ザ・ブルース・ドント・ライ』
御年86歳。シカゴ・モダン・ブルースの黄金期を築いたひとりで、若き日に南部ルイジアナ州の農場で働き、公民権運動も経験したバディ・ガイは、ブルース黄金期最後の生き字引と言われている。そんな彼の新作は、まずアルバム・タイトルに泣いちゃう。今はどのジャンルでも”リアル”が重視されて、誰もが自分で曲を書くようになったけれど、ブルースはまさに日常から生まれた音楽。偽りのない心情が誠実に歌われてきた。そこには日常の出来事とかも盛り込まれているので、記録ではないけれど、当時の生活をうかがい知ることが出来たりする。
その面影というか、バディの歌にも「昔はこうだった」という歌詞があり、色褪せた古い写真が浮かんでくるよう。たとえば、ゴスペル歌手のメイヴィス・ステイプルズと共演している『ウィ・ゴー・バック』では「5セントで一杯のコーヒーが」と歌い始める。この歌が最高!! 声に刻まれたしわから長き人生が伝わってくる2人が1960年代の公民権運動時代を回想しながらも、感傷に溺れず、力強く歌っていて、メイヴィスの「ひどいもんだったわ」という心の声が聞こえてきそうな、思わずもれた苦い失笑のような声にグッとくるし、言葉を持つようなギターも静かに叫んでいるし。2人がアドリブで会話するように歌うアウトロなんて、この年齢だからこそのもの。でも、決して枯れていないのよね。
また、86歳のバディより3歳も年上のボビー・ラッシュとの『ホワッツ・ロング・ウィズ・ザット』なんて最初のジャ~ンと響くギターの音にワ~と口を開けたまた金縛り。他にもウェンディ・モートン、ジェイソン・イズベル、エルヴィス・コステロ、ジェイムス・テイラーといった人達もゲスト参加している。
どこかで「ブルースは、アフリカン・アメリカンのサウンドトラック」という言葉を読んだことがある。決して悲哀ばかりを表現している回顧主義の音楽じゃないとも。それを心から実感できるし、バディのギターも、オルガンも、ドラムも、バックコーラスも全てが一流で、一音一音全てに魂が込められた演奏。こういう音楽の前にすると、言葉が無意味に思えてしまう。ぜひどんな世代にもどんな音楽のファンにも聴いてもらいたい。
また、宣伝になってしまいますが、構成を担当しているラジオ番組『My Jam』の今週水曜日、9日の放送でバディ・ガイを紹介します。こちらも良かったら、聴いてください。
詳細:https://www.fmosaka.net/_sites/16783599
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