#15ラン・ラン『ディズニー・ブック』
ラン・ラン『ディズニー・ブック』
中国の地方都市で生まれたラン・ランは、壮絶な努力を重ねて世界的なピアニストになった。自伝を読んだことがあるけれど、そこに綴られた半生に圧倒された。なぜここまでと心が苦しくなりながら、でも、ここまでしないと、天性の才能が世界で認められることはなかったんだとも思う。デビュー以来、レコーデインングもチャイコフスキー、ショパン、バッハ、モーツァルトなどに精力的に取り組んでいる。まさに正統派のピアニストだけれど、私自身、純粋なクラシックは専門外なので、素晴らしいことはわかるけれど、そこ止まりだった。それが『エリーゼのために』をはじめ、子供の頃に習うピアノ練習曲を弾いたアルバム『ピアノ・ブック』を聴いた時、涙が溢れた。嫌々弾かされた曲がこんなに素敵な曲だったとは…。その表現力に一気に親しみが湧いた。
そんなラン・ランが新作の『ディズニー・ブック』を9月16日にリリースする。タイトルどおり、ディズニーの名曲を演奏している。1曲目の『美女と野獣』の弾き始めから、ジャケットにあるように鍵盤から星が降るような心ときめくピアノを奏でる。資料に「アニメーションは私の想像力を刺激し、私を別世界に運んでくれる魅力的な存在です」と彼自身の言葉がある。それが心ときめく演奏の源流にあるものだろう。また、「13歳のとき、東京ディズニーランドを訪れ、初めて『小さな世界』を聴き、そのメロディーは一日中、そして、その後もずっと私の心に残っていました」ともいう。『小さな世界』とは『イッツ・スモール・ワールド』のこと。シャーマン兄弟が作曲したテーマソングは、子供も大人も世界中で愛されている歌。私もなにか大きな幸せに包まれるようで大好きだ。
超一流のピアニストとディズニーの名曲、絶対に外さない企画ではあるけれど、それをどう演奏するかが問題だ。アレンジャーは、ディズニーならではのドリーミングな雰囲気、誰もが歌いたくなるメロディーを大切にしつつも、ドビュッシーやショパンといった作曲家の作品を彷彿させるような、クラシックのピアニストじゃないと演奏できないアレンジにしている。それをクラシックにより過ぎず、『ザ・ベアー・ネセシティ』などではラグタイム風の演奏も披露する。そこにラン・ランのセンス、柔軟な感性、ディズニーを愛する心が発揮されている。
ほぼ半数でロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団と共演し、ゲストも6組迎えている。そのなかには作曲者のジョン・バティステの楽しそうな歌が聴ける『イッツ・オールライト』や、彼の妻でピアニストのジーナ・アリスが歌う『星に願いを』もある。私もまだまだ聴き込めていない。聴くたびに新たな発見があるので、それが今楽しみになっている。クラシックに苦手意識がある人にこそ、オススメしたい1枚だ。
アーティスト写真 (c)Simon Webb
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