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#31リトル・シムズ『NO THANK YOU』

鈴木さんへ

あけましておめでとうございます。2023年はどんな年になるんでしょうね。コンサートが増えるのは確実だけれど、建て替えで使えない会場が出てくるからなぁ、などとつらつら思いつつ、今年もよろしくお願いします。
 さてさて、ウェット・レッグは、ワイト島出身ですか。60年代に伝説の音楽フェスが行われた場所ですよね。そこに興味を持ちました。行ったことはないですが、絶対にロックが魂というか、伝説の誇りが島全体に宿っているんだろうなと。その影響を受けていないわけがないと思うと、やはり育った環境の影響力、計り知れないその大きさを感じてしまいます。
 そして、アルバムを聴きながら、無性に青春したくなりました。クルマに詰めつめ、法律違反状態で、友達を乗せて、窓全開でこのアルバムをかけながら、みんなで一緒に歌ってしまう。そんなノリノリの景色が浮かんできました。それからこの作品もビート・レコードなんですね。私がこれから紹介するアルバムもビート・レコードからのリリースです。

リトル・シムズ『NO THANK YOU』

 

 『NO THANK YOU』なんて、攻めているタイトルだなぁ。ナイジェリア系移民2世として北ロンドンで生まれ育ったラッパーは、前触れなく年末に突然この新作をリリースした。昨年のアルバム『サムタイム・アイ・マイト・ビー・イントロヴァート』が高く評価されて、UK音楽界最高の名誉であるマーキュリー賞を受賞している。彼女が書くリリック、ライムは、ローリン・ヒルをはじめ、アメリカのヒップホップ界からも称賛されている。また、女優としてNetflixのドラマ『トップボーイ』に出演するなど、傍目には順風満帆な活動をしているように見えた。
 ところが、新作の制作動機となったのはどうやら「怒りや不満」のようだ。背景にあるのは評価と現状のギャップか。これだけ作品が注目されて、ヒットもしていても、昨年計画された全米ツアーの経費は、自己負担とかで、採算が取れないことを理由にキャンセルせざるを得なかった。昨年の来日公演は評判になったので、パフォーマンスに問題があるわけじゃない。ただただインディーズであるがためにメジャーのようなレーベルからのサポートを得にくい。これが一番のネックになっているようだ。


 それらの「怒りや不満」に影響を受けた作品だけれど、それを力任せにぶちまけるパワフルというか、もっと言えば、暴力的なラップではないところがいい。韻を踏みながらの詩的なリズムが私には心地好く響く。『Control』という曲では「ワビ、サビ」という言葉も聴こえてくる。
 楽曲は、プロデューサーのインフローと、曲によっては友人であり、ゲスト・ヴォーカリストのクレオ・ソルと共作している。クレオのせつなさを運ぶような浮遊感のある声が好きなので、彼女の参加はうれしい。そして、サウンド面は、ストリングスがドラマを演出し、ループするビートに恍惚感を抱きながら、なによりも声を楽器のように使っているのが印象的だ。聖歌のような合唱、おそらくひとりの声を多重録音しているのだと思うけれど、声の集合体が人の絆、そこから生まれるパワーの象徴として新作の核心になっているように思う。そこが意味するところは聴き手それぞれの解釈でいいと思うが、個人的には観たばかりの映画『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』で連呼される「bond」(絆)と重なるところがあって、妙に”合唱”に心を持っていかれる。
 最後にまた宣伝になってしまうけれど、ラジオ番組『My Jam』の1月18日放送でリトル・シムズを取り上げる予定なので、ぜひ聴いてください。
◆『My Jam』 毎週水曜日 FM大阪19:00~19:30 interfm21:00~21:30



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