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#129 モグワイ『ザ・バッド・ファイア』

服部さん、そしてスヌープ・ドッグ好きの読者さんへ

 まさか服部さんがスヌープ(&ドクター・ドレー)を取り上げるとは、こいつは春から縁起がいいというものです。いや、実はこれ、僕も聴いておりまして、なんなら取り上げようかと思っていました。
 というのも、ご指摘の通りロック・アクトとの共演のセンスが光りまくっているからで、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのヒット曲使いには、個人的にずっと注目していたジェリー・ロールがフィーチャーされていて、これが見事なまでにハマっているし、ザ・ポリスの名曲のサンプリングも、大胆にして激クール。「Thank You」でのスライ&ザ・ファミリー・ストーンの援用も、ニクいほどです。
 アイス-Tのメタル・プロジェクト、ボディ・カウントによるピンク・フロイド「Comfortably Numb」のカヴァーといい、ピットブルがボン・ジョヴィの「It's My Life」を生まれ変わらせた「New Or Never」といい、ラッパー陣に敬意を表したくなりました。
 さて、僕は今回、モグワイの新作を取り上げさせていただきます。

モグワイ『ザ・バッド・ファイア』

 ちょうどモグワイが日本で火が点き始めたころ、フロントマンのスチュアートにインタビューする機会があり、当時の辛辣なコメントやメッセージ(「ブラー はク●」とか)から手強そうな相手だと思っていたら、コロコロして笑顔がかわいいフランクな青年で、脱力した覚えがあります。音とのギャップにも、今風に言うならば、萌えました。って、もう言わない?
 ともあれ、自分の中に定期的に聴きたくなる波が来るモグワイは、たとえばマイ・ブラッディ・ヴァレンタインなどのシューゲイザー勢と同様に、大音量で体験してこそ魅力を堪能できるバンドだと思っているので、ご興味ある方は、できればスピーカー・システム、難しければヘッドフォンにてぐっとボリュームを上げて聴いてみてください。あ、特に都会在住の方は、くれぐれも近隣への配慮をお忘れなく。
 毒と蜜、あるいは棘と花、はたまた悪魔と天使とでも言うべき、アンビバレントな感情、情景を描き出すサウンドがモグワイの魅力ですが、今作ではそれらの甘いほう、きれいなほう、優しいほうに、よりシフトしている印象を持ちました。もちろん、せめぎ合いながら、ですが。個人的ベスト・チューンは、もっとも長尺のこれです。ぜひ、最後まで! って、もしどうしても我慢できなければ、3分30秒ぐらいから聴いて、5分30秒ぐらいからの大転換を味わってもらえればと。

 かと思えば、シレっと、いやさらっと、こんな素晴らしいポップ・ソングを聴かせてくれちゃうところが、お茶目というか確信犯というか。モグワイ初心者の方には、こっちから聴いてもらうほうが、入りやすいかな。

 調べてみたら、バンドは今作を、“喪失感”のアルバムと位置付けているようで。もう20年ほど前にユーミンにインタビューした際の、「私の中で悲しいことと美しいことはイコール」という言葉が、今でも忘れられないのだけど、やっぱり“悲”と“美”はつながっているのだなと実感。
 正直なところ、たとえばステレオ・セットでのリスニングや、アルバム全曲鑑賞などに興味がないZ世代に、こういう作品がどれだけ心に響くのか、まったくもってわかりません。ただ伝えたいのは、素晴らしい音楽は、アルバムは、厳然と存在するという事実なのであります。
                              鈴木宏和


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