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#37 インヘイラー『カッツ&ブルーゼス』

服部さんへ

 恥の多い生涯を送ってきました(マルC:太宰治)が、僕の数ある後悔の中のひとつが、漫画を読まなかったことです。まあ、興味が持てなかったのだから仕方がないのですが、読んでいたらもっと創造力やら想像力やら妄想力やらが身について、表現にいかせているのではないかと。
 人気漫画のサントラなんですね。しかも、上原ひろみ。「おっ!」と思って聴いてみて、ちょっと意表を突かれてしまいました。僕は上原ひろみの、あの取り憑かれたかのようなピアノ・プレイが好きなのですが、あらまあ、シラフでいらっしゃる。
 なるほど、ソロではなくてトリオだし、他のメンバーがメイン・フレーズを演奏する曲も多い。だからなのでしょう。考えてみれば、僕がイメージする上原ひろみは、ソロでした。なんか新鮮だし、こういうちょっと抑制気味の彼女も魅力的です。たおやかに旋律を奏でるM-18なんか、沁みますね。
 とはいえ、エレキが歌いまくるM-4、サックスがフリーキーに走るM-17に本能的に反応してしまうあたり、やっぱりロック脳なんだなと思い知りました。漫画読んでいたら変わっていたかなあ……。

インヘイラー『カッツ&ブルーゼス』

 インタヴューをした時も、アルバム発売を待たずして行われた初来日公演を観た時も、このバンドを応援したいと心から思った。逆風が吹き荒れる中、ロックに真っ直ぐに向き合い、信じる音を鳴らそうとしている姿に、若いのにと言っちゃなんだけど、“覚悟”のようなものを感じたからだ。
 フタを開けてみれば、ファースト・アルバムは本国アイルランドでもイギリスでもチャート1位という快挙。どんなもんだいっ! 美味いもんは美味い、いいもんはいいんじゃ!
 というわけで、ここに届いた2作目。これがまた、キモの座りっぷりが素晴らしいアルバムなのだ。奇をてらうとか、売れ線とか、流行に目配せとかはゼロ。愚直なまでにオーセンティックなギター・ロック・バンドとしての自身を表現している。グッド・メロディと、表情に富んだ演奏、エモーショナルなヴォーカルで真っ向勝負しているのだ。
 個人的な推しは、サビの合唱が目に浮かぶフィール・グッドな「ジーズ・アー・ザ・デイズ」と、ちょっとジョイ・ディヴィジョンの香りが漂うクールな熱を帯びた「ダブリン・イン・エクスタシー」。後者のほうがより気に入っているのだけど、MVが見つからないので前者をどうぞ。

 “覚悟”と言えば、インタヴュー時にイライジャ・ヒューソン(Vo/G)にもそれを見た気がしている。どうあっても自分がボノの息子であることからは逃れられないということを、このフロントマンは何よりわかっているように思えたのだ。ちょっと贔屓目も入っているかもしれないが、とにかく芯の強いバンドであることは間違いない。さらなる飛躍を願うのみ。
                              鈴木宏和


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