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#29 ルイ・アームストロング『サッチモ・クリスマス~ルイ・ウィッシズ・ユー・ア・クール・ユール』

鈴木さん

 アヴリル・ラヴィーンのコンサート、やはり盛り上がったんですね。入国制限の緩和以降、怒涛のごとく来日公演が続いていますね。私も東京ドームでマルーン5のライヴを観ましたが、会場を埋め尽くす観客から「やっと」という思いが溢れ出ていたように思います。みんな歌っていたし……。
 アヴリルは、初来日公演の印象が鮮明に残っています。16歳でしたっけ?デカイ会場に挑む感じが初々しかったですね。そこからまさかあんな病気になるとは想像していなかったですが、アルバムを聴くかぎり、パワーダウンしていないし、ポップなかわいさもそのまま。
 それからタトゥーだらけのビジュアルに尻込みというか、それだけの先入観で避けてきたマシン・ガン・ケリーがゲスト参加していて、初めてちゃんと歌声を聴きましたが、いいじゃないですか!! こういう出会いがあるのもゲストを迎える良さかな。
 アルバムを聴きながら、ライヴの盛り上がりが浮かんできました。すごくアリーナクラスでのライヴをイメージした音楽作りをしていると思います。ごめんなさい、そんな冷静な目線で聴いてしまいました。

ルイ・アームストロング『サッチモ・クリスマス~ルイ・ウィッシズ・ユー・ア・クール・ユール』

 一見再発の復刻盤のように思えるかもしれないが、ルイ・アームストロングにとって初めての公式クリスマス・アルバムになる。昔の時代なので、シングルとか、EPとかで出していたクリスマス・ソングやウィンター・ソングを1枚に集めた内容ではあるけれど、歌のひとつひとつが本当に素晴らしい!
 『ウィンター・ワンダーランド』や『ホワイト・クリスマス』といったスタンダードナンバーでは気品に満ちたストリングスがサッチモのあったかい歌声を優しく包みこむように奏でられ、「おウチでクリスマス」という言葉が浮かんでくるが、私自身はやはりジャズナンバーに心惹かれる。エラ・フィッツジェラドとのデュエット曲『I've Got My Love to Keep Me Warm』ではイントロなしで、2人が「イッツ・スノウ~♪」と軽やかに歌い始めるんだけれど、洒脱というか、その雰囲気がとにかく粋。何度聴いても「はぁ~」とやられてしまう。
 他にも彼が1950年代に初めてレコーディングした『クリスマス・イン・ニューオリンズ』とか、『クリスマス・ナイト・イン・ハーレム』とか、温かみのある曲ばかりで、私自身がニガテとする商業的な賑やかさがなく、クリスマス本来の気分に浸らせてくれるし、サッチモ得意のスキャットがまた心に染みるんだなぁ。
 

初めての公式クリスマス・アルバム

 もちろん名曲『この素晴らしき世界』も入っているし、最後には未発表だった朗読『A Visit From St.Nicholas』が聴ける。世界中に子供たちにサッチモおじさんがクリスマスの物語を聞かせるよ、といった感じで語り始めるのだが、サッチモ=ダミ声と言われ、なんだかくぐもった声がイメージされがちだけれど、発音がクリアなので、単語ひとつひとつがちゃんと聞き分けられる。そこからあらためて歌を聴き直すと、歌の発音もそうなので、それがまた歌から感じられる気品、知性の理由なんだと思う。
 サンタクロースに扮したジャケットもいい。今どきはこんな衣装でアーティストが撮影することもないから。ふくよかな体がまたサンタクロースの雰囲気にピッタリで、ヴィジュアルでもほのぼのさせてくれる。
 今年もアリシア・キーズ、ティル・ブレナー、リンジー・スターリングらさまざまなアーティストがクリスマス・アルバムをリリースしているけれど、私の一番のオススメは、ルイ・アームストロングだ。
                            服部のり子


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