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【イラスト小説】マーモットとの暮らし⑥最初の晩餐

 やっとこさスーパーから家まで帰ってきた。
 スーパーから自宅までは比較的近いといえども、私の歩速で15分ほどかかる。マーモットの歩速だと倍近くかかってしまう。彼はスーパーを出て5分ほど歩いたあたりで疲れがピークに達したようで、立ち止まってしまった。無理もない、長距離のフライトと電車移動だけでも相当体力を消耗しただろう。そこから私は荷物を全て彼のキャリーケースにまとめ、彼をおぶって自宅まで歩いたのだった。
 誰かをおぶったのはこれが初めてだ。空は少しずつ暗くなっており、少し肌寒さを感じていたが、背中だけは温かくて、なんだかくすぐったい気もする。彼は私の背中で寝息をたてていた。

 私は買っておいたクッションに彼を寝かせ、買ってきた野菜などを冷蔵庫に入れた。家に着いたという安心感からか肩にどっと疲れが乗っかってくる。空腹感が迫ってくるが、それよりも瞼が重い。私は眠気に身を任せて、ソファに寝転がり、瞼を閉じた。


 草が擦れるような音で目が覚めた。音の方向を見てみると、彼が先程買ってきた干し草を貪り食っていた。私の空腹のピークはとうに過ぎたようで、あまり何か食べたいと言う感じではなかった。
 時計を確認すると1時間ほど眠っていたようだった。空腹を感じていないとはいえ、昼にサンドイッチを食べたきり、何も食べていない。このままだと低血糖になりそうだったので、重い体を起こし、晩御飯の準備に取り掛かった。
 干し草を食べ続ける彼に野菜を食べるか尋ねると、食べたいようなので,彼の分も一緒に準備することにした。

 冷凍庫に残っていたうどんとネギや白菜をだしと一緒に煮込む。煮込んでいる間に彼用の人参やさつまいもをスティック状にカットして、平皿に盛り付ける。うどんが煮えたら卵を落として、もう少しだけ煮込んで、器に移す。

 一人と一匹で小さなちゃぶ台を囲んで、向かい合う。ご飯を食べる前にはいただきますと挨拶することを教えると、どうやら彼はこの習慣を知っていたようだ。あらかじめ勉強してきたらしい。
 小さな手を合わせてから、彼は人参とさつまいもをあっという間に平らげていく。どうやら初めての人参やさつまいもは彼のお眼鏡にかなったようだった。私は猫舌なので、熱々のうどんを冷ましながらゆっくり食べる。それでも毎回上顎を火傷するのは避けられない。

 誰かと向かい合ってご飯を食べるのは久しぶりだが、なんだか悪くない。別にそんなにコミュニケーションをとるわけでもないが、いつもの食卓よりも賑やかに感じた。

 明日、仕事帰りにまた彼が好きそうな野菜を買っていってあげよう。

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