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【イラスト小説】マーモットとの暮らし③出迎え

 検疫やらなんやらの手続きを済ませ、ようやく彼が日本にやってくる日が来た。検疫の手続きが特に面倒で、書類を用意したり役所に申請したりと慣れない手続きばかりで大変だった。齧歯類は入国が特に厳しいらしい。彼の場合は運良く申請が通ったが、申請が通らないことも多々あるらしい。
 日本でマーモットとの同居なんて本当にできるのだろうか。これだけで先が思いやられた。

 彼は昼過ぎのフライトでやってくるらしい。
 朝食をとり、身支度を整えて10時過ぎに家を出た。空港なんて行くのは何年ぶりだろう。私の薄給では海外旅行なんて縁遠いが、空港に行くことはそんなに嫌いではない。
 空港という空間にいると、不思議な心持ちになる。見知らぬ、文化も異なる人々がそれぞれの目的地を目指して空港に集まる。旅に出る人、新たな挑戦に挑む人、仕事へ向かう人、家路につく人、それぞれの人生が交差する空間。電車やバスでもそうなのかもしれないが、飛行機はもっと、ドラマティックさのコントラストが鮮明な感じがする。
 何もかも嫌になった時、空港行きの電車に飛び乗り、空港のデッキでぼーっと飛行機が飛んでいくのを眺めていたこともあった。私が勝手に空港にいる人々にドラマティックなストーリーを求めていただけで、誰にとっても現実は平坦なことが大概だろう。だが、わかっていても、そんな世界から一時でも目を逸らしていたかった。

 最寄りの駅から空港までは1回の乗り換えで着く。1時間ちょっと電車に揺られ、気づいたら空港に着いていた。

 少し早めに着いたので、空港内のレストランで昼食をとろうとしたら、どのレストランも長蛇の列。みんなスーツケースを抱えてメニューを眺めながら待っている。そこまでしてレストランに入る気分でもなかったので、カフェでサンドイッチとコーヒーを買い、展望デッキで食べることにした。

 何度もエスカレーターを乗り継ぎ、デッキへの入口を抜ける。手頃なところにベンチを見つけ、そこに腰掛ける。

 今日は幸いなことに晴天だが、若干風が強い。開けたサンドイッチの包装フィルムが飛ばされそうになる。
 彼の飛行機が遅れたりしていないか気がかりになり、運行状況を検索してみる。今のところ予定通り飛んでいるようだ。この調子ならもうすぐ彼と落ち合えるだろう。

 ぼーっと空を眺めつつ、コーヒーをすする。少し重ためのコーヒーだ。私はどちらかというと酸味の強い、重たすぎないコーヒーが好きだ。かと言って残すのもなんだか罰が当たりそうなので、こういう時も飲み切るようにしている。液体は捨てるのも面倒だし。

 手元の時計を見ると、到着予定時刻が近づいていた。私は残りのコーヒーを流し込み、到着ロビーへと向かった。

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