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トリプルファイヤー『EXTRA』が野に放たれた

本日7月31日、ようやくトリプルファイヤーの7年ぶりとなるアルバム『EXTRA』が野に放たれた。一時は完成しないのではないかという説が浮上していたし、ようやく完成したらと思ったら、今度はなかなかリリースされないので「こいつはどうも様子がおかしいぜ?」といった声が挙がったりしたものの、おかげさまでなんとかこの日を迎えることができた。この間、心をざわざわさせたり、もやもやさせたりしてしまったことを心からお詫び申し上げます。誠に申し訳ございません。そして、粘り強くお持ちいただいた皆様に感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

『EXTRA』をたくさん聴いていただくことがもっぱらの願いだ。それ以外に言うべきことは残されていない。トリプルファイヤーや『EXTRA』については、一連の日記やインタビュー、ラジオ出演などでわりと話してしまったような気がする。制作や曲作りに関することは8月13日の鳥居ゼミでじっくりお話する予定だ。

しかし前言を撤回し、すでに何度か話しているが、タイトル『EXTRA』の由来について書き残しておこうと思う。このタイトルが決定したのは2021年9月のことだったようだ。私は元々『ボーナスステージ』というタイトルが良いと考えていた。かつて友人から「ボーナスステージ」という名前のバンドをやろうよと言われて以来、ずっと頭の片隅にあった単語である。無邪気で無敵で能天気で景気が良い感じがあり、楽しい言葉だと思っていた。それをアルバムのタイトルを決めるための会議で提案した次第だ。

それから遡ること3年、2019年6月にバンドのミーティングを開いている。当時、微妙な出来のライブが続き、忸怩たる思いをしていた時期のことだ。「やりたいこと」と「できること」の間にある越えがたい溝を目の前にして無能感に打ちひしがれており、トリプルファイヤーとしての活動がもはや煩悶の種になりつつあった。このままでは鬼と化して人間に戻れなくなってしまう。そんなことを皆に告げた。ちょうど吉田くんもバンドをしばらく休みたいと考えていたらしい。アルコールでも入れてリラックスしながらそれぞれ腹の中をぶちまけようという話になり、高田馬場BIGBOXの上にある居酒屋に向かった。5時間ほど飲むうちに、我々二人の深刻な思いは有耶無耶になり、ひとまずアルバムを作ってみて、それから身の振り方を考えようという結論に至った。それからアルバムのリリースまでに5年を要したことには苦笑せずにはいられない。

あるとき、バンドを長く続ける秘訣は何かと尋ねられ、冗談まじりに「核心に触れないこと」と回答したことがある。トリプルファイヤーの「核心に触れない力」が2019年6月のミーティングでも発揮されていたと言って差し支えないだろう。一度バンドの活動が終わっていてもおかしくなかった状況だったにもかかわらず、まるで何事もなかったかのようにその後も快調に活動が続いていく様は、良きにつけ悪しきにつけ、さながらボーナスステージのようだと自嘲を込めて形容したくなった。それで新作のタイトルとして提案したわけだ。

なかなかどうして悪くないという反応があった一方で、ボーナス・トラックの寄せ集めだと勘違いされたら困るという意見も出た。そこで『ボーナスステージ』というタイトルが出てきたコンテクストを踏まえて、『EXTRA』を提案してくれたのが当時のマネージャーだった増本さんだ。この「EXTRA」には追加や余分という意味があるし、特別や例外という意味もある。『EXTRA』に関していえば、後者のニュアンスで受け取ってもらうのが良いのかもしれない。『EXTRA』はトリプルファイヤーにまだ伸び代が残っていたことを証明しているからだ。

しかし自分がトリプルファイヤーというバンドの一員として活動していることは、いまだに不思議といえば不思議である。俺みたいな奴は、一般的にトリプルファイヤー的な活動にコミットしないのではないか、と時々考える。しかし、こう考えているのは私だけで、実際は「お前はいかにもトリプルファイヤーみたいなバンドをやってそうな奴だよ」と考える人が多数という説もある。けれども、私としては自分がトリプルファイヤーの一員であるという現実を自然なことだとは思っていない。

もし仮にあり得べき人生の選択肢をサジェストするアルゴリズムがあったとする。そのアルゴリズムは、俺みたいな奴にトリプルファイヤーに加入するという選択肢をサジェストしないと思われる。元来の資質と距離があるからだ。ポール・オースターの小説を読んだり、デイヴィッド・ホックニー展に出かけたり、ジョン・カサヴェテスのオールナイト上映にかけつけたり、セロニアス・モンクやニーナ・シモンのレコードを愛聴したりするのが鳥居という人間だ。

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